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漢方医が教える「辛抱づよい臓器」あなたの肝臓を守る方法

肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれます。

それは、病気があっても初期に自覚症状を発することがほとんどなく、かなり病状が進んでからようやく発見されるという、なんとも健気な「辛抱づよさ」をもつ臓器であるからです。

肝臓は「体内の毒素」を解毒します

実際、肝臓は人の体内をめぐる毒素を無条件に引き受けて解毒しています。そのくせ、悪い病気が発生しても肝臓から痛みを訴えないため、人々は肝臓の異変を把握しにくいと考えています。

こうした西洋医学に対し、漢方医学では、肝臓を含む全ての臓器について独自の解釈をしています。つまり漢方でいう臓腑(五臓六腑)は、単一の臓器ではなく、もっと巨視的に体全体が関係するシステムと見なすのです。

そこで肝臓について、漢方の観点から簡単に説明すると、人体の腱や靱帯(筋)、爪 、目 、怒りの感情(怒)、涙などは、すべて肝系の一部であり、肝機能はこれらによって外に現れるということです。

換言すれば、肝臓システムが病気によって損傷すれば、直接これらの関連組織に波及する可能性があります。漢方医は、これらの外的変化を正確に見極めて、肝臓の健康状態を把握するのです。

 

「治療は三分、養生が七分」

病気の治療に関して、特に慢性疾患に対し、漢方医は「三分治療七分養(治療は三分、養生が七分)」を旨としています。

この点、化学的な薬剤や外科手術を多用する西洋医学とは大きく異なっています。これは漢方医の処方の基本であるとともに、患者自身にとっても、医師に可能な治療は一部に限られているため、日頃から自分で養生に努めなければならないという意味でもあります。

個人としての「七分養(養生が七分)」は、どうすれば良いでしょうか。

肝心なことは、毎日の食事、起居、行動、精神状態などにアンバランスがないかを自分でチェックし、努めて正していく、いわゆるセルフケアを継続することなのです。

肝臓に関して言うと、以下の3つの生活習慣は最も肝臓を傷つけるものです。

漢方医学では明確な事実なのですが、肝機能の低下は、日常の不適切な生活習慣によるものです。もしもあなたの日常に、これに該当することが1つでもあったら、まさに今日から意識して改めてください。

1、夜更かしが多いと、肝臓の解毒作用が機能しない

人体を正常に保つ臓腑の経絡(けいらく)は交替で担当しており、その担当は毎回2時間です。それぞれの臓腑が担当する時間帯には、十分な血気(血液と気エネルギー)の供給を受けてこそ、最も効果的に仕事をすることができます。人の健康は、このようにして維持されています。

胆(胆嚢)と胆経の担当は午後11時から午前1時まで、肝(肝臓)と肝経は午前1時から3時までです。

「肝胆相照らす」という成語があるように、胆と肝は体内で密接に対応しています。「肝」の機能を整えるためには「胆」との関連を知らなければなりません。

胆嚢と胆経が担当の時間には、正常に機能するように肝からの補助が必要です。ここで、肝臓から胆汁が分泌されて胆嚢に供給されます。この時、肝臓は十分な血気の供給がなければなりません。人の生活で言うと、午後11時に就寝してそのまま熟睡状態に入ることを指します。これが胆と肝を養う最良の方法なのです。

午前1時から3時までに、肝臓は2つの重要な仕事をしなければなりません。

1つは、流入する血気で肝臓を養い、肝システムの機能を強化することです。もう1つは、肝臓に入ってきた血液を完全に浄化することです。

この時に、夜更かしをせず「熟睡する」ことが、どうして肝臓に最高の解毒作用を発揮させることになるのでしょうか。

ここで言う「毒」 とは、体に有害な物質など、人体が必要としないものを指します。私たちが吸い込む空気、飲む水、食べる物には、どんなにきれいに見えても、有害物質が多少は含まれています。幸い、人の体には浄化能力がありますので、それらの毒素の多くは臓器の正常な機能によって体外に排出されます。その中で、肝臓は血液を浄化する重要な役割を果たしているのです。

人が夜更かしをしたり、徹夜をしなければならない時とは、どんな時でしょうか。

パソコンやスマホに夢中になって、つい夜更かしすることもあるでしょう。試験勉強や仕事のため、やむを得ずそうしているかもしれません。しかし、いずれにしても、脳を使っているので、肝臓に集まるべき血気が、みな脳へ行ってしまうのです。

こうなると肝臓では、その時間帯の使命である血液の浄化ができなくなり、翌日には、解毒されていない汚れた血液が全身を回ることになります。

このことが何を意味するのでしょうか。

肝臓で浄化されず、多くの毒素をふくんだままの血液が全身の組織器官にまで循環すれば、各部位に損害を与えます。最終的には、がんなどの腫瘍、神経疾患や精神疾患など、あらゆる病気を発生させることになるのです。

2、「怒りやすい人」は肝臓に疾患あり

肝臓に疾患をもつ人は「怒りやすい」のです。これは逆に、「怒りやすい人は、肝臓に疾患が出やすい」と言いかえることもできます。

実際、肝機能に障害をもつ患者には、怒りを抑えきれず爆発するタイプが多いのです。

人は「喜び、怒り、悩み、思い、悲しみ、恐れ、驚き」という七種の感情、つまり「七情」があり、それぞれの感情は対応する臓腑を備えています。更に言うと、これらの感情は、対応する臓腑の精神活動を反映しているということです。

七情は人間の正常な感情ですが、その表現が過激であってはいけません。行き過ぎた感情は人体に有害であり、必ず発病につながるのです。

『黄帝内経』にも、怒りの感情は肝から発せられると記されています。感情が自制できず、不安定な状態になった場合、軽度ならば、抑うつ、焦燥感、不眠などの症状が生じます。重度の場合には、深刻な精神的発作にもつながります。

ただし、漢方医学では、「肝主情志」ということも言われます。

肝臓は、さまざまな感情を主宰する要であるから、本人が怒りをコントロールできれば、その有害なエネルギーは純正なエネルギーに転化されます。それは肝臓の機能を強化するとともに、肝臓以外の臓腑の情志に対しても、より強い調節能力を発揮するのです。

3、アルコール依存症は肝臓に最も有害

太古の昔、人類が酒を作り、貯蔵し、飲用したのは主として病気を治すためで、日常の楽しみにするためではありません。

人類が物質生活を追求するにつれて、酒を飲む量も多くなってきました。適度な飲酒は血液の循環を促進しますが、過度の飲酒は人体、とくに肝臓に大きなダメージを与えます。

中国の伝統思想である「五行(ごぎょう)思想」によると、基本元素である「木火土金水」の五行のうち、肝臓は木に属します。

さらに「水生木、木生火(水は木を生み、木は火を生む)」と言うように、木は水を好みますので、木に属する肝臓は酒を完全に受け入れます。

ところが、酒の属性は「水の中の火」です。酒が水のように見えるのは表面の衣にすぎず、火こそ酒の恐ろしい本質なのです。火は、木を燃焼させてしまいます。

大量のアルコールが肝臓に入ると、肝臓の血液を酒火の中で迅速に消耗させます。

それは肝血虚、肝陰欠、肝気虚、肝陽上亢(かんようじょうこう)などの陰陽アンバランスの状態をもたらします。その時に、西洋医学の病院で診察を受けると、高血圧、血管硬化、肝腫大、肝硬変、肝臓がんなど重大な病気が見つかることがあります。

あなたの肝臓の健康のために、飲酒は控えていただきたいですし、ましてアルコール依存症のような病的状態に至ることは、決してあってはいけません。

肝臓を「全方位から保護する」四季の食事

漢方医学は、人体、生命、宇宙を古くから研究してきた総合的な学問です。

身体の健康を保ち、病気にならない状態を実現するという意味では、「陰陽五行」の応用により、人体の小宇宙と外界の大宇宙とが互いに感応し疎通する、すなわち「天人合一」を重視する体系となっています。

まず、漢方医学の基本概念である、「五臓の五行への属性」および「五色と四季の対応関係」を理解する必要があります。

五臓は、肝臓、心臓、脾臓、肺、腎臓です。五行は、天地万物を構成する五種の基本物質つまり「金、木、水、火、土」の五つです。

五臓は「それぞれの臓器がどの五行に属するか」という属性を持ちます。すなわち「肝属木、心属火、脾属土、肺属金、腎属水」です。また、五行は相生相克(そうせいそうこく)の関係を持ちます。

相生関係は「木生火、火生土、土生金、金生水、水生木」です。

相克関係は、「木克土、土克水、水克火、火克金、金克木」です。そして5色とは「青、黄、赤、白、黒」の5つの色彩です。

ここで私たちが「肝臓を養い、保護する」という目的をもったとします。

その実現のためには、まず肝臓の五行の属性が 「木」 であることと、その「木」と相生および相克の関係を把握しなければなりません。

木の相生関係は「水生木」「木生火」。相克関係は「木克土」「金克木」です。

次に、季節の特性についてですが、まずは四季のうちの「春」からご説明します。

1、春の食事と留意点

肝臓の属性は「木」ですので、これは緑と春に対応します。野菜も植物であり、木と同じですので、肝臓を養うには「緑の野菜を多く食べる」ことが求められます。

肝臓を養うのに、青いニラと緑豆のモヤシは最高の野菜です。

漢方医学では、肝臓病は春に発症しやすいとされています。春には、肝臓だけでなく、腎臓を養生して肝機能を高めるよう努めましょう。

2、夏の食事と留意点

夏は「肝を補う」のに適した季節ではありません。主な関係は「木生火」で、火が子であれば、母である木は燃えてしまいます。夏は火であるため、「肝を補う」ことができないのです。子の気が強すぎると母の気を奪い、母(肝)を更に虚にします。

また、火は赤色に対応していますので、夏が灼熱であるように、もし赤い色の食品を偏食すると、五行が更に不均衡になってしまいます。これは肝臓、腎臓の保養にさらに不利になります。簡単に言うと、夏に赤い食物を食べすぎると、体内にこもる火が強すぎて、陰気を損ね、肝血や腎精を消耗するのです。

この時期には、赤い食材は避けながら、旬の野菜や果物をたくさん食べるのが良いでしょう。こうした旬の食材は大自然と調和しているので、食べても体が偏ることはありません。

肝機能障害のある患者は、肝臓に鬱結した肝気を除去する必要があります。その点、夏の暑い季節には、肝臓をブラッシュアップするのに適しています。

熱中症には十分注意しながら、屋外へ出て運動し、遊び、汗をかき、鬱結した肝気を発散させることで体を自然に健康にします。

3、秋の食事と留意点

秋は「金克木」、つまり金属の斧が木を切り倒すように、肝臓を傷つけてしまいます。秋も肝臓病が発生しやすい季節です。

また、金は白色に対応しています。肝血を消耗しないように、過度に白色の食物を食べないでください。秋の季節に応じて食物を食べることをお勧めします。バランスを保つのは一番良い状態です。

また、秋になると天気(天のエネルギー)が上がり始め、地気(地のエネルギー)が下がり始めます。そうした季節の変化に伴って、人の血気は、体内の奥深くまで循環し始めます。

そのため、肝血が相対的に不足しますので、秋は情緒的に憂いやすく、悲しくなりがちです。季節の野菜やナッツ類を多く食べて体を整え、血気が体内で順調に循環するようにしましょう。

4、冬の食事と留意点

冬は、腎臓を補い、肝臓を養うことができます。冬は「水生木」。水が母であり、木は母から生まれる子であるからです。肝臓とともに、腎臓の機能も高められるのは、腎臓は冬に対応しており、また腎臓は水だからです。

ただし、肝血が不足すると、腎臓の水も不足する可能性が高いので、注意が必要です。腎臓は黒色に対応しているので、肝気虚、肝陽上亢、肝血不足の人は、腎臓と肝血を補うために「黒い食品」を多く食べてください。そのほか、骨スープを飲むことをお薦めします。

なお「木克土」でもあります。脾胃(脾臓と胃)は土に属し、土は黄色に対応します。つまり肝気の鬱結は脾胃を傷つけやすいのです。そこで、脾胃も補い、脾胃を守るために「黄色の食品」を多く食べてください。

(文・舒榮/翻訳編集・鳥飼聡)

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