沈じいさんは、裕福であちこちの旅行者をもてなす家をいくつか持っていた。ある冬の日、大雪が降る中、青褐色の服を着た男性が「ここに来る途中に泥棒に遭い、荷物を全部持っていかれてしまった。どうか私を哀れんで一晩泊まらせてください」と懇願した。
生まれ付き、親切で寛大だった沈じいさんは急いで彼を迎え入れ「雨雪が降っているのにそんな薄着で寒いでしょう」と言い、冬の外套を持って来て、火をつけて部屋を暖めると、食事と酒を用意した。
翌日、旅人は出かける前に沈じいさんにいくらかのお金を渡した。旅人は「あなたの優しさと寛大さに恩義を感じていますが、これしかお返しすることが出来ません。ただあなたは顔色が悪いですね。具合でも悪いのですか? 何か理由があるなら聞かせください」と尋ねた。
沈じいさんは「私は年寄りで娘が1人しかいませんが、娘が悪霊に取り憑かれて、寝たきりになっています。道士にお祓いを頼んだ事もありますが、追い払う事が出来ませんでした。だから悩み事も多いのです」と言った。
旅人は「私は道教の術に精通しています」と言うと、祭壇を作り、悪霊祓いを始めた。そして長年治らなかった沈じいさんの娘の難病はすっかり治った。
感謝の気持でいっぱいの沈じいさんは、旅人を大いにもてなしただけではなく、旅立とうとする旅人を引き留め盛大に接待し、その次の日、旅人はやっと離れる事が出来た。
心根が善良な沈じいさんの、雪の日に見知らぬ人を気前良く接待し、真摯な姿勢でひとを接する優しさが娘の難病も直すことが出来た。
一見,平凡で当たり前のように見える人の善行が思いがけ無い結果をもたらし、娘の難病も完治した。元来、人は日頃から他人を思う優しさがあれば、天さえ感動し恩恵を与えるものだ。
(翻訳・金水)
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