遥か遠い昔、ギリシャの神ゼウスとヘルメースはどれだけ善い人間がどれだけいるか試そうと、ある日の晩、放浪者に姿を変え、人間界の村へとやってきました。
最初、ヘルメースは裕福そうな家の扉をノックしました。しかしその家の主人はドアを開き、2人の放浪者が立っているのを見て、中に入れてくれなかったばかりでなく、犬まで放し、ゼウスたちを追い払おうとしました。
ひどい仕打ちを受けたものの、ゼウスとヘルメースは村人たちに善を説こうと、足を休めさせてほしい、少しばかりの食べ物を恵んでほしいと、他の何軒かの家のドアを叩き続けました。
しかし2人を家へ入れようとする家は一軒もありませんでした。村のほとんどの家のドアをノックしましたが、どの家も同じだったのです。そうしているうちにゼウスたちは村はずれの質素な家の前に着きました。
ゼウスたちは家のドアをノックをしました。するとこの家の者は他の村人たちと異なり、親切にゼウスたちを家に迎え入れました。
この家にはバウキスと夫のピレーモーンが暮らしていました。2人はゼウスたちを家に招き入れると、さっそく火を焚き、大事に保存しておいた燻製肉を取り出して2人のためにご馳走を作りました。
粗末な家には所々に補修の跡が見られ、2人がとても貧しい生活を送っていることはゼウスたちにもわかりました。
とても幸せそうに見える2人でしたが、彼らはこれまでの人生の中で、多くの挫折や苦難を経験してきました。しかし誰かを恨んだりすることもせず、それどころか常に神様に感謝の気持ちを抱いていて、他人とも争うことはありませんでした。
しかしそんな中でも善良さを保ち、大事に保存してあった肉をも取り出して、見も知らぬ放浪者にご馳走を作ろうとしている老夫婦の親切さに、ゼウスもヘルメースも心を打たれました。
ゼウスは「我々は神である。君たちは不幸を免れるが、しかし、この村の人々はその邪悪な心により、罰を受けるだろう。さあ、我々の後についてきなさい」と言いました。
老夫婦たちはゼウスたちに連れ出され、山の頂に到着しました。彼らが麓の村を振り返ったところ、夫婦の目に映ったのは洪水に流された無残な村の光景でした。老夫婦は善行により自らの命を救ったのです。
(翻訳編集 天野秀)
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