米国国務省のグローバル・エンゲージメント・センター(GEC)が2020年に発行した報告書(AP通信)

対ウクライナのロシア宣伝工作を中国が後援

ウクライナ侵攻作戦におけるロシアの大規模な情報工作の一環として、現在戦争で荒廃したウクライナの数十の研究所で同国と米国が共同で生物兵器開発計画を実施していたという虚偽情報が拡散された。同偽情報の散布には中国が少なからず関与していると考えられている。

インターネットで情報を操る黒幕は報道機関をも利用してデマを流したため、この虚偽情報は反論するのが難しいほどにまことしやかに国際社会に伝播された。

米国国務省のグローバル・エンゲージメント・センター(GEC)が2020年に発行した報告書には、ロシアの虚偽情報と情報工作に関する概要がまとめられている。同報告書に説明されている通りの情報工作が、今回のウクライナ侵攻でも本格的に実施されている.

ウクライナには複数の研究所が存在しているが、生物兵器の開発とは何の関係もない。こうした施設は世界保健機関(WHO)、欧州連合(EU)、欧州安全保障協力機構(OSCE)が後援する広範な公衆衛生計画の一端として、ウクライナが所有・運営している研究所である。世界各国で運営されている公衆衛生・生物学研究所と同様に、ウクライナに所在する研究所でも自国固有の病原体や近隣諸国に特有な病原微生物に関する研究が行われている。

これには米国も関与しているが、ロシアが国際社会に向けて主張したような生物兵器研究に資金を提供しているわけではない。ソビエト連邦は1972年に生物兵器禁止条約(BWC)を批准したものの秘密裏に生物兵器の開発を継続してきており、1989年のソ連崩壊後に旧ソ連諸国に未管理の生物兵器の病原体が残されることになった。そのため、米国は2005年以来、米国国防総省の協調的脅威削減計画(CTR)の一環である生物学的脅威削減計画(BTRP)の下で、ウクライナに残された違法な生物兵器計画の残骸を除去する事業に関与してきたのである。

こうした取り組みの一環として、生物学的脅威削減計画に基づき、米国はウクライナの研究所、医療施設、診断所46ヵ所に約200億円(約2億米ドル)を投じた。ウクライナや他の提携諸国で実施されているプログラムは、病原体の誤用、盗難、誤流出により発生するリスクを削減することを目的としたもので、対象は旧ソ連諸国に限定されているわけではない。米国議会は2008年、同計画をアフリカ、インド太平洋地域、中東に拡大することを承認している。

近年の歴史を顧みれば、こうした事業が継続的に必要であることは明らかである。2020年に発生したプーチン政権反対派の政治家暗殺未遂事件では、ソ連時代の神経ガスが使用された。また、英国が主張したところでは、2年前に発生した英国在住のロシア元スパイの暗殺未遂事件でも、ロシアは同様の神経ガスを使用している。さらに、2015年にロシアが介入したシリア内戦でも、ロシア側が支援するアサド政権軍が自国民に対して化学兵器を使用した。

こうした現実を目の当たりにしても、中国は見て見ぬ振りを決め込んでいる。米国の世界的地位の弱体化を望むロシアに同調する中国の政府高官や国営報道機関は、ロシアによるウクライナ侵攻から数週間を経ないうちに、ロシアの虚言を触れ回った。

米国の生物兵器関与に関するロシアの主張を支持する証拠は存在しないばかりか、米国の生物学的脅威削減計画はこうした未管理の病原体からウクライナや世界を保護することを目的としているのである。30年間にわたり、同取り組みは透明性の高い形態で、生物兵器禁止条約に完全に準拠して実施されている。実際、執拗な攻撃を継続するロシアがウクライナの原子力発電所を標的とし、国内の2つの研究所を占領したことを考えれば、現在こうした取り組みの必要性が一段と高まったと言える。

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