「スタンドバイミー事件」【私の思い出日記】

大好きな作品である映画「スタンドバイミー」。今でもテーマ音楽が流れると、あの四人の少年たちの姿が浮かんでくる。

わが家にも「スタンドバイミー事件」とよんでいる忘れられない事件がある。今から33年前、息子が中学生の時のこと。私が帰宅すると、息子が頭を抱えて挙動不審の様子をしている。頭に手をやり、「俺はどうすりゃいいんだ」みたいないことを言っている。多感な中学生。友達に何かいやなことをされたのか。それとも彼が何かをしでかしたのか、と悪い想像をしてしまう。ドキドキする心を抑えて、落ち着いたふりをして「何でも言ってごらん大丈夫だから」と。

帰宅途中の5時ごろ、緑道の近くの道を自転車で走っていると、10メートル先のほうに、人の足のような黒いものが見えた。不審に思ってもう一度見てみると、黒いハイヒールに紺色のスカートを履いた人が転がっていた。人が死んでると思った瞬間、心臓がばくばくして、一心不乱に自転車をこいで帰宅したとのこと。誰かにつけられている気もしたという。

彼が関係してないことを知り、ほっとするとともに、思いきって110番をした。彼の勘違いだったらどうしようと、恐縮しながら、事情を話した。もし間違いだったすみませんと。その時110番の人が言ったことが、とてもすばらしい言葉だったのだ。「お母さん、間違いだったら、それはいいことじゃないですか」。こんなEQ力の高い警察官がいたことにちょっと感動した。

やがて、玄関のチャイムが鳴り、二人の私服警官が立っていた。「僕いますか。おじさんたちにその場所を案内してくれる」息子はおびえながら立ち上がり、私もコートを着てついてゆこうとすると、「お母さんは、家で待っていてください」と、とめられて一瞬がっかり。

以下は息子の報告です。二人は近くの駐在所の巡査をのせて、現場に向かったそうで、刑事さんは彼の緊張をほぐそうと、やさしく話しかけてきたと言います。そしてついにそれらしき場所を見つけたそうで、彼は3メートルくらいまで近寄ると「あの辺」と指さしました。緊張で固唾をのんだ息子の様子が目に浮かびます。懐中電灯を回していた一人の刑事が「そこだ!」と大声で叫ぶと、三人は一目散に駆け出したそうです。

暗い森の中に、勇敢な刑事たちの職業意識がさく裂します。懐中電灯に浮かび上がった黒いハイヒール。そっと近寄り覗き込む刑事たち。とその時、周りの緊張感を裏切るような刑事さんの声が。「おい、ぼうず、来てみろ」と言われて、息子が見たものは、黒い靴を履いて茂み中に白い肌を光らせて横たわっていたマネキン人形だったのです。「おい、手伝え」と言われ、皆でマネキン人形を壊したそうです。誰かのいたずらだったのでしょう。本部に無線で報告している刑事さんは、気が抜けて、ちょっと気まずい雰囲気だったそうです。でもあの110番の警察官の方が言ったように、「間違いでよかったです」。