人類は古くより、「婚姻」という手段によって、その血脈を後代に伝えてきました。前漢の学者・劉向(りゅうきょう、前77-前6年)が『烈女傳』で、「夫婦は人倫の始まりなり」と著しているように、人倫は夫婦に始まり、人類社会の組織はみな夫婦を基本としています。そして、男女を夫婦として結びつける婚姻制度は、人類の最も重要な社会習俗の一つだと言えます。
女媧が「婚姻の儀」を創造
中華文化は半神文化、つまり、神が人類に伝えた文化だと言われており、その伝説によると、「女媧補天」の神話で有名な女神・女媧(じょか)が「婚姻」を創造したと言われています。盤古(ばんこ)が天地を開闢した後、女媧は天と地の間を旅して回りました。当時、大地には山河草木があり、鳥獣虫魚もいましたが、生気に欠けていました。そこで、女媧は、天地間にもっと生気をもたらすために、いかなる生命よりも卓越した生霊を作り出そうと考えます。
黄河のほとりで自分の美しい姿を目にした女媧は、泥で自分の姿に似せて多くの人形を作りました。そして、それらに息を吹きかけると、活力が注ぎ込まれ、直立で歩き、話ができ、聡明で器用な「人」に変わったのです。そこで、さらに、その中の一部の「人」に陽気、つまり自然界の陽剛の気を注ぎ込むと、その「人」たちは男となり、残りの「人」たちに陰気、つまり自然界の柔順の気を注ぎ込むと女となります。それ以来、これら男女が大地に無限の生命力をもたらすことになりました。
女媧は人類を作り終えると、彼らを永遠に存続させるために、男と女を組み合わせ、「嫁ぎ、娶る」儀、つまり「婚姻の儀」を定めます。そして、自ら最初の媒酌人となり、人類が自ら子孫を育てる責任を担い、血脈を後代に伝えることができるようにさせました。後の人は、女媧の婚姻制度確立に果たした貢献に感謝し、女媧を「媒酌神の祖」、つまり婚姻の神として崇めました。
「嫁ぎ、娶る」は、天地陰陽の調和の理
この伝説は、中国の古書『易・序卦傳』の次の記載を裏付けています。「天地に万物あり。万物ありて男女あり。男女ありて夫婦あり。夫婦ありて父子あり。父子ありて君臣あり。君臣に上下ありて礼儀あり。夫婦の道は久しからざるをえず」。そして、男女から夫婦になるには、合法的な婚姻の儀を経て、人々に認められなければなりません。男女が夫婦となった後、子女を生育し、その結果、父母と子女という親子関係が生まれるのです。そしてさらには、それが君臣等の社会関係へと発展していきます。つまり、婚姻は、ただ単に個人の人生の一過程ではなく、最も大切な転換点であり、社会組織が生まれる基礎でもあるのです。
中国最古の詩集『詩経・鄭風』に「婚姻の道とは即ち、嫁ぎ、娶る礼をいう」とあり、後漢・班固撰『白虎通』にも「嫁ぐとは家なり。娶るとは取(めと)ることなり」とあります。つまり、女は嫁ぐことによって家を持ち、男は女を自分の家に取ってくるということです。「嫁ぎ、娶る」とは、婚姻の両面であり、女にとっては「嫁ぐ」で、男にとっては「娶る」のです。これは、「嫁ぐ」という字が「女」偏に「家」と書き、「娶」という字が「女を取る」と書くことにも現れており、しかも、「嫁」と「家」、「娶」と「取」は同音です。
これら古文献の記載は、男女の結びつきは婚姻の規則を遵守し、「嫁ぎ、娶る」儀を重んじなければならないということ、併せて、婚姻外の全ての男女関係は正当ではなく、神に認められるものではないということを物語っています。
中国では古くから、次のように言われています。「夫婦は天地乾坤で、陰陽の男女が組み合わさったものである。夫は客をもてなす大広間であり、対外的な『家』となり、妻は奥の間の内面的な『室』となる。そして、『家』と『室』が揃ってはじめて家庭円満となる。もし、男に妻がなければ『室』を成さず、女に夫がなければ『家』を成さない。どちらが欠けても家庭は完全とはならず、『家を成し業を立てる』ことはできない」。つまり、男が娶り女が嫁ぐというのは、人の終身の大事であり、一家を構える基礎であって、かつ、天地の陰陽の調和の理に適合しているということです。
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