アングル:準備万端のハマス、イスラエル苦戦なら地上戦は長期化か

[ガザ/エルサレム 12日 ロイター] – イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザに地上侵攻すれば、待ち受けるイスラム組織ハマスは手ごわい相手になる。イランの支援を受け、ロケット攻撃などを行う戦闘員が素早く退避するための広大な地下トンネル網をハマスは構築。過去の地上戦でもイスラエル側にそれなりの犠牲を強いてきた経緯があるからだ。

イスラエルはガザとの境界付近に戦車を集結させ、閣僚らは地上侵攻について開始するかどうかではなく、開始時期の問題になっていると示唆する。イスラエルの安全保障関係者や専門家によると、軍幹部は2008年と14年のハマスとの地上戦から得た教訓に目を向けそうだ。

だが、ハマスは当時よりも勢力が増し、その結果として今月7日にイスラエル側に強襲攻撃を仕掛けられたと言える。

こうした中で地上戦が始まった場合、どういう展開になるかはイスラエル、ハマス双方とも正確には読み切れない。

イスラエルはこれまでにない規模の作戦を展開し、ハマスを「地上から一掃する」と断言。ハマスも過去の戦いで生き残る力と奇襲能力を証明しており、今回も強力な武器を駆使し、人口密集地域を拠点に反撃してくるだろう。

ガザで活動するあるパレスチナ武装組織幹部は「地上侵攻は、占領者(イスラエル)とその軍隊が未知の領域に飛び込むのに等しい」とロイターに語った。

イスラエル当局も、地上作戦が迅速に進むとも、簡単に行くとも考えていないとの姿勢を明確に打ち出している。

特に今回は、ハマスが7日の攻撃で多数のイスラエル人を人質にして、イスラエル軍が「ガザ地下鉄」と呼ぶ地下トンネル網に拘置している恐れがあり、軍部隊がこのトンネル網を制圧しない限り、ハマスの壊滅は難しい。

イスラエルの安全保障関係者の1人は、ロイターに「作戦目的はハマスの軍事能力と装備一式を破壊することにあり、長い時間が必要になる」と説明。標的の大半は地下にあり、まずは地上の敵を一掃しないと地下壕にたどり着けないと付け加えた。

ガザの人口は230万人に達するため、地上作戦は民間人の死者が増大するリスクがあり、これもイスラエル側の軍事計画に困難をもたらしている。

<双方が準備>

ハマスの地下トンネル網は、戦闘員による「一撃離脱」攻撃や、さまざまな武器の貯蔵場所として利用されている。過去の経験に照らせば、イスラエルは地中貫通型(バンカーバスター)爆弾やハイテク装備の「メルカバ」戦車で対抗する図式になるだろう。

イスラエルは既に数十万人規模の予備役動員を開始。一方、イスラエル安全保障局の元高官によると、ハマスは戦闘員総数は2万人に上る可能性がある。

ハマスのサレー・アルアルーリ政治局副局長はアルジャジーラに、7日の攻撃を実行する前の段階で、ハマスには防御面の計画も備わっていて、これは攻撃計画よりも強力だと語った。

イスラエルは軍事に関する詳しい情報は明らかにしていない。外務省の報道官は「われわれは地上攻撃に向けた備えを進めている」と述べ、目標は「テロリストのインフラ」に重大なダメージを与え、イスラエルにとって脅威とならないようにすることだ、とだけ指摘した。

ガザの住民の話からは、既に激しい空爆が地上侵攻の準備になっていることがうかがえる。地上軍が侵入できるようにガザとの境界に沿った回廊地帯が爆撃で完全に破壊されているからだ。

パレスチナの武装勢力も準備は万端だと表明。幹部の1人は「航空兵力は戦闘の行方を左右しない。多くの戦闘員は、地上からやってくる戦車や敵軍に対し、過去何年もかけて培った能力で迎え撃つのを待ち望んでいる」と言い切った。

ハマスがヨルダン川西岸に拠点を置くパレスチナ自治政府からガザの支配権を奪った07年以降、イスラエルは08年と14年の2回、大規模な地上作戦を実施。軍兵士の死者は08年が9人、14年は66人だったが、今回ハマスに与えられた準備期間はもっと長く、イランの支援を受けていると公言している。

<長い戦い>

イスラエルは今年になって、ヨルダン川西岸のジェニンで軍事作戦を実施。兵士が待ち伏せ攻撃を受けて身動きが取れなくなり、戦闘ヘリに支援を要請する場面もあった。

パレスチナ武装組織「ジェニン大隊」のあるメンバーは「ジェニンとガザの状況は天と地ほどの違いがある。われわれにはロケット弾などの重火器も、軍事拠点もない」と語り、ガザにおける戦闘の方がはるかに過酷だとの見方を示した。

ネタニヤフ首相の下で挙国一致の戦時内閣を成立させたイスラエルも国民に対して、目的を達成するために長い戦いになるのを覚悟するよう呼びかけた。

ガラント国防相は10日、ガザの分離壁近くで兵士に「われわれは空から攻撃を開始し、その後、地上からも出撃することになる」と訓示し、今後の地上侵攻をにおわせた。

イスラエル安全保障局元高官のシャロム・ベン・ハナン氏は、地上攻撃だけがハマスを壊滅させられる手段だと強調。「われわれは非常に経験豊富で練度の高い戦闘員と戦い、犠牲に見舞われる。(それでも最後は)決定的な勝利になるはずだ」と自信を示した。

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