イスラエルにとって極めて重要なハイテク産業。だが、世界的な景気後退と国論を二分した政府による司法改革の影響で資金調達が激減した上に、パレスチナとの紛争激化により、その不安定な回復は頓挫しつつある、と投資家やアナリストらは指摘する。写真はテク企業が入るビジネスパーク。イスラエルのペタフ・ティクバで2020年8月撮影(2023年 ロイター/Ronen Zvulun)

焦点:イスラエルのハイテク産業、戦火の影響で資金調達に遅れも

[エルサレム 10日 ロイター] – イスラエルにとって極めて重要なハイテク産業。だが、世界的な景気後退と国論を二分した政府による司法改革の影響で資金調達が激減した上に、パレスチナとの紛争激化により、その不安定な回復は頓挫しつつある、と投資家やアナリストらは指摘する。

イスラエルは世界でも有数の革新的なハイテク産業を擁している。同セクターは労働力の14%を雇用し、国内総生産(GDP)の5分の1近くを稼ぎ出す。数十年にわたる混乱にも耐えてきたことから、今回の紛争が終結し、グローバル規模でも資金調達が復調すれば、最終的に投資は戻ってくるだろうと予想されている。

「海外からの投資は今後数週間から数カ月間、特に衝突が続く限り、鈍化するだろう」と語るのは、イスラエル有数のベンチャーキャピタル、アワークラウドのジョン・メドベド最高経営責任者(CEO)。

メドベドCEOは、イスラエルに向かうフライトがどれだけ欠航になっているかに触れつつ、「今は、投資を集めるのはなかなか容易ではない」と述べた。

7日、武装した戦闘員がパレスチナ自治区ガザからフェンスを越えて侵入し、イスラエル領土への侵攻としては50年前の第4次中東戦争におけるエジプトとシリアの攻撃以来で最悪の状況となったことを受けて、イスラエルはガザを実効支配するイスラム組織ハマスに宣戦布告した。

今回の衝突以前にも、グローバル経済の減速に伴ってイスラエルのハイテク新興企業への投資は減少していた。また米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻により重要な資金調達先が失われ、司法改革法案により、会社法と知的財産権の基盤が揺らいでいた。

IVCリサーチセンターとルーミテックによると、イスラエルのハイテク企業による今年上半期の資金調達額は70%減少した。ただ、第3四半期には前期比マイナス14%と、減少ペースは鈍化したという。

ルーミテックのマヤ・アイゼン・ザフリルCEOはこの数字について、「資金調達の額と範囲が安定する最初の兆候であり、データとしては2018─19年の水準に戻りつつある」と述べた。

スタートアップ全体での2023年のこれまでの調達額は約50億ドル(約7490億円)。これに対して昨年は160億ドル、2021年には過去最高の260億ドル、2019年は104億ドルだった。投資は広範囲に及んでいるが、主役はサイバーセキュリティーと人工知能(AI)分野の企業だ。

ベンチャーキャピタル出身で、スタートアップ・ネーション・セントラルのCEOを務めるアビ・ハッソン氏は「もちろん、われわれが戦争の真っ最中にあるのに大規模な投資が実現するとは想像しにくい」と語る。

<信頼の実績>

そうは言いつつも、ハッソンCEOらはイスラエルのハイテク部門について、パレスチナやレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの過去の紛争の時と同様に回復すると期待する。

「イスラエルのハイテク部門は、紛争中にも活動を維持し、その打撃から回復できるという点で、投資家の信頼を得てきた」とハッソンCEO。「だから、イスラエルに対する投資家の信頼がそう簡単に失われるとは考えていない」

メドベドCEOは、ハイテク投資の対象としてイスラエルが生き残ると信じている、と言う。

「歴史的にイスラエルが戦争状態に入るたびに、長期投資家は買い手に回ってきた」とメドベド氏は指摘する。

国内の大半が今回の攻撃に動揺する中、ハイテク企業は自らのオフィスを兵士向け装備の集積所として提供している。何しろ、招集された30万人の予備役の多くはハイテク企業の従業員なのだ。

米ベンチャーキャピタルファンドのインサイト・パートナーズは、事前承認リストに記載されたイスラエルの慈善団体に最大100万ドルを寄付するとしており、「これはイスラエルの友人、パートナーへの支持を示す重要な機会だ」と表明した。

クラウドセキュリティー分野のスタートアップで、つい最近、シリーズAの資金調達ラウンドで米国の投資家から2300万ドルを集めたジェム・セキュリティーは、30人のスタッフをイスラエル国内と米ニューヨークに分散させている。チームを拡大中だったが、今回の紛争が勃発し、イスラエルにいるスタッフの一部が予備役招集に応じざるを得なくなった。

ジェム・セキュリティーの共同創業者であるアリー・ジルベルスタインCEOは、「私見だが、イスラエルがこうした状況を迎えても、当社がテクノロジー部門において国内での事業を維持するという計画には何の影響も生じないだろう」と語る。

スタートアップのMDIヘルスで成長担当バイスプレジデントを務めるアリエル・エフェルガン氏は、テルアビブで勤務する40人の従業員の約5分の1が予備役招集に応じたと推計している。それ以外の従業員は、今はリモートワークを続けている。

スタートアップ向けのマーケティングアドバイザー、ヒレル・ファルド氏は、テクノロジー業界については突き詰めれば楽観的であるとして、世界的なベンチャーキャピタル界からは支援が押し寄せ、国際世論もイスラエル寄りに変化していると指摘する。

「こうした変化によって、むしろ(イスラエルへの投資に)消極的だったかもしれない投資家が前向きになる可能性さえある」とファルド氏は言う。「現在の状況がイスラエルにネガティブな影響を及ぼすとは思わない」

(翻訳:エァクレーレン)

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