世界的に10~20%のがんはウイルス感染が主な原因

ウイルスががんを引き起こすメカニズム 科学者が発見

世界的に10〜20%のがんウイルス感染が主な原因とされています。これはかなりの割合です。

この最新の発見により、ウイルスがどのようにしてがんを引き起こすのかについて、理解が深まるかもしれません。

米国を代表する病院の1であるクリーブランドクリニックの研究チームは、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)ががんを引き起こすメカニズムの1つを発見しました。

2月に学術雑誌『ネイチャーコミュニケーションズ』に掲載された研究によると、KSHVは細胞の代謝および成長・増殖の仕組みに関わる特定の経路を活性化させることが分かりました。研究者らは前臨床モデルにおいて、アメリカ食品医薬品局(FDA)が承認した乳がん治療薬を用いることで、ウイルスの増殖を抑え、リンパ腫の進行を止め、既存の腫瘍を縮小させることに成功しました。

この研究論文の筆頭著者は、クリーブランドクリニックのフロリダ研究センターおよびイノベーションセンターのジュン・ジャオ氏です。

「私たちの発見は重大な意味を持ちます。世界的に10〜20%のがんをウイルスが引き起こしており、新たな発見があるとその数は増え続けています。ウイルスによるがんに通常のがん治療を施しても、既存の腫瘍を縮小させることはできますが、ウイルスという根本的な問題を解決するわけではありません」とジャオ氏は述べています。

「病原体が健康な細胞をがん細胞に変えるプロセスを理解することで、悪用されている弱点を見つけ出し、ウイルス関連のがんを効果的に治療するための薬を開発するか、あるいは既存の薬が再利用できます」

カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス

カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)は、ヒトヘルペスウイルス8型(HHV8)としても知られています。アメリカ国立がん研究所は「皮膚、リンパ節、口、鼻、喉の内膜、および体の他の組織に病変を生じる稀ながんであるカポジ肉腫を引き起こすウイルスの一種で、免疫系の細胞から始まる特定のリンパ腫の原因となります」と説明しています。

KSHVは他のヘルペスウイルスと同様に、多くの場合無症状で、初期感染後に体内で休眠します。しかし、免疫系が弱まると、例えば高齢者や移植を受けた人、HIVやAIDSを持つ人などでウイルスが再活性化します。これらの免疫的に無防備な高リスク群では、再活性化したウイルスが侵襲性の強いがんを引き起こす可能性があります。

がん細胞は迅速に増殖し、成長と拡散を支えるために体の代謝を変えます。多くのウイルスは自分に必要なエネルギーや分子を産生できないため、体の細胞を乗っ取りそれらを実行させます。しかし、研究チームは、KSHVが宿主の2つのタンパク質(CDK6とCAD)を支配し、ウイルスの増殖を加速させ、制御不能になるまで細胞を増殖させ、拡散させることを発見しました。

KSHVによるがんは「迅速に進行し、侵襲性が強く、治療が難しい」と研究者らは述べています。北米や北欧では約10%、アフリカでは50%の人々がKSHVを持っていると推定されますが、無症状であることが多く、なかなか診断されないため、実際の数はもっと多いと考えられます。

ピッツバーグ大学の記事には、「KSHVに感染している健康な人の95%以上が無症状で、この先も発症することはない」とありますが、免疫系が弱まれば問題が発生します。

ウイルスとがん

KSHV以外にも、人間のがんを引き起こすいくつかのウイルスが知られています。アメリカがん協会によると、以下のウイルスががんを引き起こす可能性があります。

  • ヒトパピローマウイルス(HPV)
  • エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)
  • B型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルス
  • ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
  • ヒトT細胞性リンパトロピックウイルス-1(HTLV-1)
  • メルケル細胞ポリオーマウイルス(MCV)

アメリカ微生物学会は、「ウイルスは宿主のタンパク質と結びつき、人間の免疫システムが弱っている時に増殖し、人間の細胞増殖を乗っ取ることでがんを引き起こすことがあります。他のウイルスと比べて、ヒトの腫瘍ウイルスは宿主細胞に感染するものの、それを殺さない点が独特です」と説明しています。この過程により、ヒトの腫瘍ウイルスは継続的な感染を引き起こします。

研究チームは、FDAが承認した乳がん治療薬であるパルボシクリブ(CDK6を阻害する作用を持つ)と、CADを阻害する化合物の組み合わせが、前臨床モデルで腫瘍の大幅な縮小とがんの生存率の向上につながることを発見しました。CDK6とCADはいずれも、ウイルスが乗っ取る宿主のタンパク質です。

研究チームはステートメントで、「治療開始から約1か月後にはほとんどの腫瘍がほぼ消え、残った腫瘍も約80%縮小しました。選ばれたリンパ腫細胞株では、生存率が100%に上がりました」と述べました。

将来への影響

この研究成果は、カポジ肉腫、原発性滲出性リンパ腫(PEL)、HHV8関連多中心性キャッスルマン病などのKSHV関連がんの治療法に新たな選択肢を提供します。さらに、同様あるいは類似のメカニズムでがんを引き起こす他のウイルスに対しても、応用が広がる可能性があります。

今回の発見の将来性について、ジャオ氏は次のように述べています。「細胞の代謝は、病原性によってウイルスにもがんにも乗っ取られることがあります。これらの代謝の再構築メカニズムを研究することで、がんを引き起こすウイルスや非ウイルス性がんの弱点を見つけ出すことが目標です。この研究が将来的にどうなるか、楽しみにしています」

鍼灸医師であり、過去10年にわたって複数の出版物で健康について幅広く執筆。現在は大紀元の記者として、東洋医学、栄養学、外傷、生活習慣医学を担当。