カナダ在住で50歳の女性が、何度も呂律が回らなくなったり、転倒するなどの酔っ払いのような症状を示しましたが、彼女は一切酒を飲んでいませんでした。二年間病院の診断を受けた結果、最終的に体内でアルコールが醸造される「自動醸造症候群」(腸発酵症候群)と診断されました。
カナダ放送協会(CBC)の報道によると、この女性は二年間で7回も酔っ払いのような症状を経験しましたが、長年飲酒をしていないことが家族によって証明されています。
後に、この女性の症状は「自動醸造症候群(Auto-brewery syndrome)」と診断されました。腸発酵症候群は、消化管に酵母があって、摂取した食品の糖分から体内でアルコールがつくられる症状です。
この症状は非常に珍しく、医師や法執行機関の役員、官僚でも知っている人は限られていました。「カナダ医学協会誌(Canadian Medical Association Journal)」によると、この症例に関する最初の報告は1948年に遡ります。胃が破裂したある少年から、アルコールの臭いがしたというケースでした。
ロイターは、今年4月ベルギーにも自動酵母症候群にかかった男性の飲酒運転の起訴が取り消されたことを報じました。男性は実際アルコールを摂取していなかったにもかかわらず、警察に飲酒運転の罪で起訴されました。その後、医師三人による検査が行われ、その結果、男性は自動酵母症候群にかかっていることが確認され、無罪放免となりました。
専門家がその理由を探る
英国バーミンガム大学の免疫学および免疫療法の准教授であるレベッカ・A・ドラモンド氏は、ウェブサイト「The Conversation」に投稿し、自動醸造症候群の正確な患者数は不明で、医学文献にも少数の症例しかないと述べました。
同氏によると、私たちの周りの多くの知人もこの症状を患っているかもしれませんが、一人一人診断するのは難しいため、記録されている症例の数が限られている、という事です。
これまでに得られた証拠から、人々は生まれつき自家醸造症候群を患っているのではなく、腸内微生物群が乱れることで発症することが示唆されています。
人がビールなどの酒類を醸造する際には、酵母を使用して炭水化物の糖を発酵させ、アルコールを生成します。自動醸造症候群の患者の腸内でも同様の酵母が過剰に増殖し、特にパンや糖などの炭水化物を発酵させてアルコールを生成すると考えられています。
ドラモンド氏は、この仮説を裏付ける最も有力な証拠として、抗真菌薬が自動醸造症候群の患者に効果があるように見えることを挙げています。抗真菌薬は腸内で増殖する酵母を殺すことができ、治療を受けた一部の患者では体内での自動醸造の症状が消えることが確認されました。
カナダ人女性の場合、低炭水化物ダイエットを続けたことで、呂律が回らなくなったり、めまいなどの飲酒症状の頻度が減りました。
腸内の酵母の量と酵母が増殖できる食物源を制限すると、腸内でのアルコール生成を遅らせるのに役立つかもしれません。ただし、注意すべき点は、この方法がまだ理論的なものであり、臨床的に証明されていないということです。
また、自動醸造症候群については、どの酵母が関与しているかはまだ明らかになっていません。というのも、この病気は非常に稀な病気であるため、あまり知られていないからです。
ドラモンド教授は、自動醸造症候群を引き起こす他の可能性の原因として、抗生物質の使用や腸の手術を挙げています。これらはどちらも腸内の真菌の増加と関連しているとされています。
腸内の酵母の量は細菌に比べて遥かに少ないにもかかわらず、それでも体の健康に重大な影響を与える可能性があり、潜在的な感染源となることがあります。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。