栄養情報の混乱に惑わされず、「食」を楽しもう

私たちの日々の選択の中で、健康、幸福、そして感情に最も影響を与えるものの一つが食べ物です。チョコレートケーキを食べる喜びや、塩が体に良いのか悪いのかを判断する不安など、食事は私たちの気分に大きく関わります。しかし、世の中には栄養に関するアドバイスがあふれており、正確な情報を見極め、それをどう実践するかを考えるのは、非常に困難です。

内科・生活習慣医学の専門医師であり、栄養士でもあるヴァニータ・ラーマン博士は、この混乱の原因は多岐にわたると説明しています。インターネットや無数のブログ、科学ジャーナルへの無制限のアクセスにより、情報過多に陥りやすく、さらに矛盾した事実や意見があふれています。

さらに、研究が明確であっても、医師が私たちの疑問を解決することが難しい場合があります。ラーマン博士は「ほとんどの医師は栄養学に関する教育をほとんど受けていません。医学教育や研修では、非常に限られた量しか提供されないのです」と述べています。その結果、研究で示されている知識と、一般の医療従事者が持っている知識との間に大きなギャップが存在します。

また、専門家やインフルエンサーたちは、推奨する食事法について衝突することが多く、同じ意見を持つグループに所属していない限り、建設的な議論をすることは難しいと感じるでしょう。栄養科学の世界でも、赤身肉や飽和脂肪、炭水化物と脂肪の比率などに関する議論が続いており、混乱は絶えません。

食品業界も影響を及ぼしており、マーケティングキャンペーンによって私たちの購買行動に影響を与えています。その予算は5億ドル以上にも達することがあり、こうした膨大な広告や情報の流入が、健康的な選択を求める人々にとって、栄養の世界をさらに難しいものにしています。

 

混乱の中での明確な指針

現代の栄養に関する膨大な情報を整理することが重要です。というのも、私たちの健康状態は悪化しており、アメリカの平均寿命は過去20年で最低の76.4歳となり、かつては高齢者のみに見られた病気が、ますます若年層にも診断されるようになっています。

平均寿命は1900年には47歳だったのが、2019年にはほぼ79歳にまで上昇しました。しかし、2020年には77歳に、そして2021年にはわずか76歳台にまで下がり、これは1921年から1923年の2年間以来、最も大きな減少です。

アメリカ消化器学会は2023年5月の年次会議で、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のデータを分析し、1999年から2020年の20年間で10~14歳の子供の大腸がんの発症率が500%、15~19歳のティーンで333%、20~24歳の若年成人で185%増加したことを発表しました。

大腸がんは通常50歳以上の成人に発症しやすいものですが、過去15年間で若い世代の診断例が増加しています。生活習慣は大きなリスク要因であり、喫煙や飲酒、運動不足、肥満、そして過剰な赤肉や加工肉の摂取がその要因として挙げられます。

 

肥満の急増とその要因

西洋諸国では肥満率が急上昇しており、発展途上国が直面する食料不足の問題とは対照的です。たとえば、2023年におけるアメリカの成人の肥満率は41.9%に達しており、子供やティーンの肥満率も上昇しています。CDCによると、2~19歳の若者の約20%、すなわち約1500万人が肥満に該当しています。1970年代以来、この数値は3倍以上に増加しました。

肥満の危機を引き起こしている要因としては、高カロリーで栄養価の低い超加工食品の普及、座りがちな生活、ストレス、そしてテクノロジーへの依存が挙げられます。

高カロリーで栄養価の低い超加工食品が肥満の危険性を高めている(Shutterstock)

 

ニューヨーク大学の名誉教授であり、受賞歴のある栄養学の専門家であるマリオン・ネスル氏は、栄養が混乱する理由を次のように説明しています。「私たちは非常に複雑な食事をしているので、栄養についての議論も複雑になっています」さらに、実験的な研究が難しく、ほとんどの研究が研究参加者の観察を通じてデータを収集することで知見を得ているのも混乱の一因です。

実際、栄養に関する短期間の研究を除き、長期的な人間を対象とした実験的研究はほぼ不可能です。したがって、多くの栄養研究は動物や細胞を使った観察研究に依存しており、これが科学者間での議論を引き起こしています。

また、栄養インフルエンサーや専門家たちが提唱する食事法が多様であり、それぞれがさまざまな健康問題を解決できると主張するため、ますます混乱が広がっています。

 

個々の選択と楽しみの重要性

栄養に関する議論では、健康面だけでなく「食の楽しみ」が重要であることがしばしば見過ごされています。ヴァニータ・ラーマン博士は「特定の人に特有の食事が必要かどうかという問題ではありません」と言い、「栄養が証明されている食品の中で、自分がどの形で、どのように楽しんで食べられるかが大事です」と述べています。

ネスル氏は、インフルエンサーの矛盾したアドバイスにもかかわらず、基本的な栄養ガイドラインは変わっていないと指摘します。「1980年の最初の食事ガイドラインでは、砂糖、塩、飽和脂肪を控えるようにと言われていましたが、今もまったく同じことが言われています」と彼女は述べています。

 

栄養の現状、変化する食の風景

過去50年間で、私たちが利用できる食品の種類は大きく変わりました。今日、スーパーやレストランに並ぶ多くの食品は高度に加工されており、私たちの体がかつて経験したことのない成分が含まれています。科学者や消費者が徐々にその健康への影響を解明しつつある一方で、明らかなことがあります。それは、超加工食品が西洋社会の食生活を支配するようになり、私たちや次世代の健康に深刻な懸念をもたらしていることです。

超加工食品には、人工の着色料、香料、防腐剤、乳化剤に加え、過剰な量の砂糖、塩、不健康な脂肪が含まれていることが多く、これらは私たちの健康に悪影響を及ぼします。また、カロリーは高いのに栄養価が低く、非常に中毒性があるように設計されているため、私たちはついついこれらの食品を再び手に取ってしまいます。

過剰な量の砂糖などが使用されているため、健康に悪影響をもたらす(Shutterstock)

 

『アメリカ医学ジャーナル』に掲載されたフロリダ・アトランティック大学シュミット医科大学の医師による記事では、超加工食品の消費増加が病気や死亡率の上昇、そして寿命の短縮に寄与している可能性があると指摘されています。

増え続ける研究は、超加工食品が体重増加肥満糖尿病、心血管疾患、脳卒中認知症アルツハイマー病がん、そして全死亡率の上昇に関連していることを示しています。

 

世界的に増加する超加工食品の消費

超加工食品の消費は、世界中で増加しています。『BMJ』に2024年に発表された研究によれば、アメリカでは成人の1日のエネルギー摂取量の57%が超加工食品から来ており、若者に至っては67%に達しています。この研究は、2017年から2020年にかけての全国健康栄養調査(NHANES)のデータに基づいています。

特にホットドッグやベーコン、ソーセージ、ランチミートなどの加工肉は、大腸がんや胃がんのリスク増加と関連しており、深刻な懸念が広がっています。さらに、このような食品は、レストランやスーパーで子供向けに大量に宣伝され、アメリカ全国の学校給食でも定番となっています。

2016年、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)は、加工肉(ハム、ソーセージ、ベーコン、ホットドッグ)をグループ1の発がん性物質に分類しました。グループ1の発がん性物質には、タバコやアルコールも含まれます。

もう一つの重要な要因として、食品業界の影響があります。スーパーの棚に並ぶ多くの食品は、莫大な予算を使って宣伝されており、コネチカット大学ラッド食品政策・健康センターの報告によれば、食品業界は年間140億ドルを広告費に費やしています(2017年の報告書による)。

広告費には莫大な予算が使われており、その8割が不健康な食品を宣伝するために使われている(Shutterstock)

 

そのうち80%以上がファストフード、甘い飲料、キャンディー、そして不健康なスナックの宣伝に使われており、慢性疾患予防や健康促進のための予算(10億ドル)を大幅に上回っています。

このような食品広告は、子供やティーンの食生活と健康に悪影響を与え、消費カロリーの増加、不健康な食品への嗜好の形成、そして健康への認識に誤解を生じさせます。

食品業界には株主という利害関係者もおり、その目的は必ずしも消費者の健康だけではありません。ニューヨーク大学のマリオン・ネスル名誉教授は、これを経済的な観点から見るべきだと指摘します。

「食品業界は社会福祉機関でも公衆衛生機関でもありません。彼らの仕事は、株主に利益をもたらすことです。それを理解すれば、彼らが何をしているのかがすべて納得できます」とネスル氏は述べています。

 

シンプルな栄養アドバイス

さまざまなダイエット法について多くの議論がありますが、いくつかのシンプルな習慣を身につけることで、より良い食生活を選択することができます。

ヴァニータ・ラーマン博士は、楽しみながら健康的な食事を続けるためのいくつかの提案をしています。最終的には、自分が楽しめる選択をすることが大切です。

野菜をもっと摂る
毎日数種類の野菜を目指して、少しずつ増やしてみましょう。

好きな果物を食べる
毎日いくつかの果物を取り入れましょう。オーガニックでなくても大丈夫なので、気に入ったものを選びましょう。

全粒穀物を取り入れる
例えば、白いパスタの代わりに全粒小麦のパスタを試してみましょう。味の違いに気づかないかもしれません。

全粒穀物(Shutterstock)

 

砂糖入り飲料を避ける
ソーダ、ジュース、アルコール飲料を避け、水や炭酸水を選ぶようにしましょう。

外食を減らす
レストランの食事は、ナトリウム、砂糖、脂肪が多く含まれ、最適な量の食物繊維が不足していることが多いです。家での食事は、より健康的で経済的です。

ラーマン博士は、『Journal of Nutrition』に掲載された2020年の研究を紹介し、レストランの食事のうち、栄養基準を満たしたものはわずか1千件中1件しかなかったと述べています。

また、彼女は食事中は気を散らさずに、食べ物に集中することを強く推奨しています。どこから来たものか、どのように感じるかを意識しながら食べることで、空腹や満腹のサインに敏感になることができます。

ニューヨーク・タイムズのベストセラー作家であるマイケル・ポーラン氏が、食事に関するアドバイスを7つの言葉にまとめています。

「食べ物を食べよう。食べ過ぎないように。主に野菜を」

シンプルな世界で、シンプルさは美しいものです。

 

(翻訳編集 華山律)

鍼灸医師であり、過去10年にわたって複数の出版物で健康について幅広く執筆。現在は大紀元の記者として、東洋医学、栄養学、外傷、生活習慣医学を担当。