歩きながら仕事をしたり、自転車をこぎながら会議をしたり?

スタンディングデスクは万能ではない? 本当に効果的な方法とは

リズムよく過ごす一日のサイクルは健康に良い影響を与える

スタンディングデスクは健康的な働き方の概念として広く受け入れられていますが、その効果は万能ではありません。最新の研究では、長時間立ち続けることで健康リスクを高める可能性があると指摘されています。この記事では、健康を守るためのより効果的な方法やスタンディングデスクの活用法を詳しく解説します。

スタンディングデスクは、デスクワーク中の健康維持に役立つ代替手段として注目されていますが、実はその効果には限界があります。座ることも立つことも、どちらも「静的な活動」とされ、エネルギーをほとんど消費しない点では共通しています。そして、長時間立ち続けることには特有の健康リスクが伴うことも分かっています。

2023年10月に『International Journal of Epidemiology(国際疫学ジャーナル)』で発表された研究では、1日2時間未満の立位は健康に悪影響を及ぼさないものの、心臓発作や脳卒中といった心血管疾患の予防効果は認められないとされています。

さらに、2時間以上立ち続けると、静脈瘤や潰瘍、深部静脈血栓症といった起立性循環障害のリスクが高まる可能性があることも明らかになりました。

座ることと立つことでは、神経系や筋肉、血管に異なる負担がかかります。長時間にわたる座位や立位のどちらも健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、これらをバランスよく切り替える工夫が重要です。例えば、定期的に体を動かしたり、軽いストレッチを取り入れることが効果的です。スタンディングデスクだけに頼らず、柔軟なアプローチを心がけましょう。

 

相反する研究結果の背景とは?

今回の研究を行った著者たちは、これまでの研究で「立つ時間を増やすことが、総コレステロールやトリグリセリド(脂質(脂肪)の一種で、エネルギー源)といった心血管疾患の代謝マーカーを改善する可能性がある」と示唆されていたことを指摘してきました。一方で、座ることや立つことが、心血管疾患、入院、死亡といった具体的な健康リスクにどう影響するのかを直接検討した研究はほとんどなかったのです。

さらに、過去の多くの研究で使用された自己申告データには、不正確さが伴う可能性があります。例えば、起立性循環障害(静脈瘤や血栓症など)と、心臓発作や脳卒中といった他の心血管疾患を区別していなかったり、ウェアラブルデバイスを使った活動測定でも、座位と立位が明確に区別されていなかったりする点が挙げられます。

このような研究上の限界がありながらも、公衆衛生の専門家たちは、職場環境での座る時間を減らし、立つことを奨励してきました。しかし、実際の効果を詳しく理解するためには、さらなる調査が必要なのは明らかです。

こうした課題に応えるため、『International Journal of Epidemiology(国際疫学ジャーナル)』に掲載された今回の研究では、より広範囲な健康パラメーターを対象に、座位と立位の違いを詳しく分析しました。これにより、立つことの健康効果をより正確に、評価することを目指しています。

立って仕事をするウエイトレス(Shutterstock)

 

新たな発見と解決策

シドニー大学の研究者たちは、UKバイオバンクの加速度計データを用い、平均年齢61.3歳の成人83,013人を対象に調査を行いました。その結果、1日10時間以上座っていると、体を長時間立てた状態や急に立ち上がった際に、心臓や血管の循環調節が正しく行わず、血圧が低下したり、脳や他の臓器への血流が不足して起こる低血圧や立ち眩みなどの起立性循環障害のリスクが高くなることがわかりました。

さらに、1日に2時間以上立っている場合、立つ時間が30分増えるごとに、起立性循環障害のリスクが11%上昇することも明らかになりました。一方で、主要な心血管疾患については、1日12時間を超えて座り続けるとリスクが高まるものの、立つこと自体はそのリスクを軽減しないという新たな発見が得られました。

「長時間立ち続けることは、座りがちな生活スタイルを補うものではなく、むしろ循環器の健康にリスクをもたらす可能性があります」と研究の主著者であり、チャールズ・パーキンスセンターのマッケンジーウェアラブル研究ハブ副所長であるマシュー・アハマディ氏は述べています。「立つことを増やしても心血管疾患の予防にはつながらず、逆に循環器のリスクが高まることがわかりました

 

解決策 日常での体の動きを増やす

アハマディ氏は、立つ代わりに日中に定期的に体を動かすことが解決策になると述べています。「心血管の健康を改善するには、心血管系を刺激することが必要です。そのためには、物理的な活動が効果的です」と彼は説明します。

具体的には、以下のような日常的な活動が推奨されています:

散歩をする:軽い運動が心血管系にプラスの影響を与えます。

階段を使う:エレベーターやエスカレーターを避けて階段を利用するだけでも効果があります。

家事やガーデニング:掃除や庭仕事など、身体を動かす作業も有効です。

アハマディ氏は、「こうした小さな動きが積み重なることで、循環器の健康を守る効果が得られます」と強調しています。日常生活の中で意識的に体を動かすことが、心血管疾患の予防にとって鍵となるのです。

 

活動量を増やすためのヒント

座りがちな生活がもたらす健康リスクを軽減するために、行動医学会(SBM)は、1日を通して 30分ごとにミニ活動休憩を取る ことを推奨しています。これにより、体をリフレッシュさせ、健康をサポートすることができます。

医師がすすめる具体的なヒント

医師のマイケル・O・マッキニー氏が提案する、日常生活に取り入れやすい活動量を増やすヒントを紹介します:

休憩のタイマーを設定
30分ごとにタイマーを設定して、短い活動を挟みましょう。ストレッチやオフィス内を歩く、簡単なエクササイズなどがおすすめです。

ウォーキングミーティング
会議を座って行う代わりに、可能であれば歩きながら行いましょう。歩くことで血流が促進されるだけでなく、議論の創造性を高める効果も期待できます。

デスクでのエクササイズ
体幹を鍛えるエクササイズ、脚のカール、肩のストレッチ、背中のひねりなど、座ったままでもできる簡単な運動を取り入れましょう。気軽に始められるのがポイントです。

座ったままで気軽に行える(Shutterstock)

昼休みの活動
昼休みを活用して短い散歩や軽い運動を行いましょう。体を動かすことで日中のリフレッシュが図れ、仕事の効率アップにもつながります。

 

代替デスクの選択肢:より健康的な働き方を目指して

スタンディングデスクに加え、トレッドミルデスク(デスクワークをしながらウォーキングを行うための設備)やサイクリングデスク(デスクワークをしながら軽いペダル運動ができるように設計された設備)は、座る時間を減らしながら体を動かせる優れた選択肢です。これらのデスクは、座位や立位だけの生活よりも効果的に身体を活性化します。ただし、利用を始める際には、過度の疲労を避けるために少しずつ慣らし、必要に応じて医師に相談することが推奨されます。

トレッドミルデスク(Shutterstock)

 

トレッドミルデスク

『BMC Public Health』に掲載された系統的レビューとメタ分析によると、トレッドミルデスクは以下のような効果があることが分かりました:

エネルギー消費量と代謝率の向上
トレッドミルデスクの使用が、エネルギー消費量と代謝率を有意に高めることが確認されています。

血圧の軽微な減少
血圧を非有意ながら低下させる効果が報告されています。

座位時間の減少
座る時間を中程度に減らし、健康に良い影響を与える可能性があります。

ただし、心代謝健康への長期的な影響を明確にするためには、さらなる研究が必要です。

 

サイクリングデスク

『Children』誌の研究では、子どもや青少年の身体活動を促進する手段として、サイクリングデスクが有効であるとされています。調査対象となった60人の中学4年生の結果からは:

身体活動量の増加
サイクリングデスクを使用したグループは、身体活動量が有意に向上しました。

学業成績への影響なし
身体活動が増えたにもかかわらず、学業成績に悪影響はありませんでした。

 

バランスボード付きスタンディングデスク

トレッドミルやサイクリングデスクが導入しにくい場合、バランスボード(平衡感覚や体幹を鍛えるための道具)やワブルボード(同様にゆらゆらボード)を使う方法もおすすめです。これらは体幹や脚の筋肉を鍛えながら活動量を増やせるアイテムです。

カロリー消費量の増加
2018年の研究では、バランスボードの使用がカロリー消費を増加させることが示されました。

生産性への影響なし
身体活動を増やしつつも、作業効率には悪影響を与えないことが確認されています。

 

「エクササイズスナック」のすすめ

週に適切な量の中強度運動を行うことに加え、日中の頻繁な活動休憩を取ることが、健康の維持に非常に重要です。世界保健機関(WHO)が推奨する「週150分の運動」は大変有益ですが、長時間の座りっぱなしによる健康リスクを完全に防ぐわけではありません。

オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターの心臓病専門医であるブレア・スーター医師は、週の推奨運動量を30分間のエクササイズを週5回行う「エクササイズセッション」として取り入れることができると述べています。それと同時に、日中に取る短い活動休憩を「エクササイズスナック」と呼んでおり、この両方が最適な健康のためには欠かせないと説明しています。

スーター医師は、定期的な活動休憩を取ることがエクササイズセッションを補完し、健康のサポートに役立つと述べています。

「エクササイズセッションは健康維持において重要な部分ですが、オフィス内を歩き回ったり、駐車場を少し遠くにしたりするエクササイズスナックも大切です」とスーター医師は話します。「これらの短い休憩は、筋肉の動きや血行を促進し、さらに1日の中で摂取した食べ物の代謝にも非常に有益です」

 

要約

『IJE』の研究によると、スタンディングデスクの使用は1日2時間未満に制限される限り、健康に害を与えないとされています。ただし、起立性循環障害のリスクは、立つ時間が累積で2時間を超えた場合にのみ生じることがわかりました。

また、トレッドミルデスクやサイクリングデスクは、身体活動を増やす手段となりますが、必ずしもSBM(行動医学会)が推奨するような頻繁な活動休憩を促すわけではないかもしれません。座りがちな仕事や生活のリスクを軽減するには、活動休憩の頻度がその時間の長さよりも重要です。例えば、30分ごとに1分間トレッドミルで歩いたり自転車をこいだりすることは、1日に2回の15分間の運動よりも、長時間の座り続ける時間を効果的に分断することができます。

長時間の座り姿勢による悪影響を減らすには、運動を取り入れた代替デスクを活用するか、階段を使うなどして「エクササイズスナック」を積極的に取り入れることが効果的です。

(翻訳編集 華山律)

Mary West