日常に役立つ状況認識力 その鍛え方とメリット

警察に通報が入り、パトカーが現場に到着。2人の警官が車を降りると、そこには大混乱が広がっていました。家の中からは怒鳴り声が響き、庭では幼い子供たちが泣き叫んでいます。時間はすでに夜。緊迫感が漂う状況です。

警官たちは、すぐに状況を把握し、どんな危険が潜んでいるかを見極めて、関わる全員の安全を確保しなければなりません。これができるのは、彼らが「状況認識」と呼ばれるスキルを訓練で身につけているからです。このスキルは、自分の周りで何が起きているのかを正確に把握する能力のこと。軍隊や警察、救急隊員など、命に関わる緊迫した状況で働く人たちにとって欠かせないものです。

でも、このスキルは特別な職業の人たちだけのものではありません。実は、日常を生きる私たちにとっても、とても役立つ大事なスキルなのです。

状況認識とは何か

状況認識とは、周囲の状況を意識的に把握することを指す専門用語です。現代では、多くの人が動物が襲ってくるのを察知するような本能的な行動から遠ざかり、日常のほとんどをスマホを見ながら過ごすことで、注意散漫になり、周囲に無関心になっています。

元アメリカ陸軍で約20年間活動し、対テロ作戦や安全保障、危機管理の専門家であるマイク・グローバー氏は、「Fieldcraft Survival」というサバイバルスキル教育と訓練を提供する団体を設立しました。この団体では、状況認識も重要なスキルとして教えています。

「私たちは人類の歴史上、最も注意散漫な時代を生きている」とグローバー氏は えエポックタイズ に語っています。彼によれば、テクノロジーが生活に深く浸透するほど、人々は状況認識を失いがちになります。その結果、目の前で起きていることよりも、外部要因に気を取られる傾向が強まっています。

注意が散漫になると、後ろから近づいてくる不審者の足音が聞こえない、制御を失った車が自分に向かってくるのに気づかない、前方で子供が車道に飛び出そうとしているのを見逃す、など命に関わる状況に対処できなくなります。一方で、状況認識を高めることで、周囲の危険をいち早く察知し、必要な行動を取る時間を確保できるのです。

状況認識は、単に個人の安全のためだけではありません。人生のさまざまな場面で大きな違いを生む強力なツールでもあります。以下に、日常生活で役立つ具体例を挙げてみます。

  • 自分が住む地域をよく知ることで、災害時に水源を見つけられる。
  • ビジネスの話がどこか怪しいと感じ、経済的な失敗を回避できる。
  • 近所の家が薬物取引をしている兆候を見て、危険を避ける行動が取れる。
  • 同僚が落ち込んでいたり不安を感じている様子を察し、サポートできる。
  • 社会の雰囲気の変化を敏感に察知し、必要な準備を進められる。
  • 家の劣化の兆候を早めに見つけ、修理を適切に行える。
  • パートナーが言葉にしなくてもストレスを感じている様子を察し、対話を通じて助けられる。
  • 疲れてやせ細った友人の様子を見て、医師に診てもらうよう勧める。
  • スーパーで供給チェーンの問題を察知し、事態が悪化する前に備蓄を始められる。

 

状況認識のカラーコード

多くの専門家は、第二次世界大戦時の海兵隊員であり、射撃や自己防衛の分野で多大な貢献をしたジェフ・クーパー中佐が提唱した「4つのカラーコード」を参考にしています。これらのコードは、白から赤(後に黒が追加される場合もあります)までの段階で、警戒レベルや意識状態を表しています。

  • 白(White): リラックスして完全に無警戒な状態。専門家は、この状態は自宅の安全な環境内でのみ許されるとしています。
  • 黄(Yellow): リラックスしているが、周囲に注意を払っている状態。適切な状況認識を持ち、準備が整っている状態。
  • 橙(Orange): 警戒レベルが上がった状態。潜在的な脅威に気づき、行動の準備をしている。
  • 赤(Red): 脅威が確認され、実際に行動を起こすべき時。
  • 黒(Black): パニック状態。身体的・精神的なパフォーマンスが崩壊している。この状態に陥るのは避けるべきです。

外出中、特に都市部や混雑した場所では、警戒レベルを高めることが重要です。専門家たちは、家の外にいるときの基本の状態として、「黄(Yellow)」の意識状態を保つことを勧めています。

サバイバル情報を提供する「Survival Dispatch」の最高経営責任者(CEO)であるクリス・ヘブン氏は、 エポックタイムズの取材に対し、レストランでの状況認識について「スマホをしまって、目線を上げることが一番簡単です。注意を奪うスマホを片付けて、店全体が見渡せる席に座る。それは、偏執的になったり、常に緊張しているという意味ではなく、ただ周囲に注意を払うだけのことです」と語っています。

状況認識を持つことは、常に危険を予期することではありません。むしろ、周囲に対する意識を高めることで、潜在的な脅威に気づき、対処する時間を確保することが目的です。シンプルな工夫で状況認識を向上させ、より柔軟に対処できる力を高めることができます。現代社会の現実を考えると、このアプローチは論理的で賢明と言えます。

また、状況認識を持つことは、常に高い警戒状態を維持することを意味しません。常に緊張状態にあるのは不可能ですし、そうするべきではありません。リラックスする時間も必要です。ただし、家の外にいるときは、ある程度の状況認識を保つことが重要です。

 

日常生活での状況認識の活用例

状況認識は、不審者に注意を払ったり、危険を避けたりするだけのものではありません。グローバー氏は、状況認識とは即時の脅威への対応だけでなく、日常生活でのさりげないサインに気づき、それに適切に対応する力だと強調しています。

以下に、日常の中で役立つ具体的な例を挙げます。

・ショッピングモールで:クリスマス直前の週末でショッピングモールが大混雑。自分の財布やスマホなどの貴重品をしっかりしまっておき、盗まれないよう注意を払います。

・レストランで:ディナータイムで店内は満席状態。サーバーが忙しそうにしているのを見て、待ち時間を短くするために、注文はシンプルで早めに伝えます。

・住宅街で運転中:道路の先で子供たちがボール遊びをしているのが見えます。万が一、子供が道路に飛び出してくることを考え、スピードを落として慎重に進みます。

・自宅で:洗濯物を畳んでいる間に、幼い娘が床で遊んでいます。ふと見ると、娘がコンセントに手を伸ばそうとしているのに気づき、すぐに抱き上げて危険を防ぎます。

・地下鉄で:電車を待っていると、ホームでふらついて今にも線路に落ちそうな男性を見かけます。すぐに駆け寄り、支えて助けます。

・社交の場で:会社のパーティーで、一人で立っていて不安そうにしている人を見つけます。話しかけて自己紹介し、リラックスできるよう会話を始めます。

(ピクセルショット/Shutterstock)
混雑したモールや家庭内でも、小さなサインに気づくことで安全と快適さを守る力が発揮される(Shutterstock)

 

海の上で漂流するように

グローバー氏は、状況認識を「ちょっとした注意の向け方の工夫」だと表現します。私たちの周りには、見逃してしまいがちなヒントや警告サインがあふれているのです。

「それは人間関係や仕事、日常生活の中にもあります。例えばスーパーや車の中で注意を払わずに見過ごしてしまうことも多い。そうしているうちに気づいたら失敗や後悔に直面し、『どうしてこんなことになったんだろう?』と思う状況に陥るんです」と彼は語ります。

彼はまた、多くの人が「今、この瞬間」に集中して生きることを十分にしていないと指摘します。しかし、意識して集中する努力をすれば、日々の生活でより主体的に決断を下せるようになり、受け身ではなく能動的に行動できるようになるのです。

「注意を払わないことが、潜在的に不幸な人生につながることが多いと思います。現実の証拠はたくさんあります。多くの人がソーシャルメディアを通じて他人の人生を疑似体験することに夢中で、自分の現実、つまり目の前の家族や友人との時間をないがしろにしています」と彼は強調します。

スマホの存在は、私たちが周囲に注意を払う能力を大きく妨げます。電話、メール、メッセージ、ゲーム、インターネット閲覧、ソーシャルメディアなど、スマホの活動が注意を奪い、他の作業に集中するのを難しくします。その結果、仕事の効率が下がり、迅速で的確な判断ができなくなり、精神的な健康にも悪影響を与えることがわかっています。

最近の研究によれば、スマホが近くにあるだけで注意力が低下することが確認されています。実際に触らなくても、その存在だけで脳の認知リソースが消耗し、タスクを処理するスピードや集中力が低下するのです。この研究では、スマホの画面を覆ったり電源を切ったりするだけでは不十分で、別の部屋に置くだけで悪影響が完全になくなるとされています。

グローバー氏は、状況認識が人生で主体的な役割を果たすための重要なスキルだと述べています。人生がただ自分に降りかかるのを許してしまうと、自分の選択や方向性を他人や状況に委ねてしまうことになります。それは、今この瞬間を楽しむ喜びを奪い、人生を自分でコントロールする力を失うことにつながります。

船長のいない船が潮の流れに身を任せて漂うように、状況認識が欠けたままでは、どこへ流されるかわからない状態になります。自分の人生の舵を握り、進むべき方向へ進む力を持つことが、状況認識の本質なのです。

 

意図を持って生きる

状況認識は「マインドフルネス」に似たものです。マインドフルネスとは、自分の外側や内側で起きていること—思考、体の感覚、感情—を批判せずに気づくことを指します。一方、状況認識は達成すべき目標であり、マインドフルネスはその方法となります。この2つは補完し合い、密接に結びついています。

状況認識を高めることには、身体的な安全を超えたメリットがあります。不測の事態への備えができることで、自信がつき、不安が軽減され、以前は不安だった状況—例えば夜遅くに車まで歩くときや、人混みの多い都市部にいるとき—でもリラックスして過ごせるようになります。

リラックスして自信があると、私たちはより明確に考え、良い判断ができるようになります。また、他人にとっても攻撃の標的になりにくくなるのです。

グローバー氏は、意図を持って生きることは、健康や幸福、精神的な充足感といった生活全般に注意を払うことだと語ります。これらは状況認識の重要な要素でもあります。

「意図を持って生きることは、状況認識の一部です。そして意図を持って生きるとき、人は目的を持って生きることができるのです」と彼は言います。

意図的に「幸せ」を目指して生きると、人生の中でポジティブなものを探すようになり、それが精神的な健康を改善すると彼は続けます。このような姿勢は、自分にとってプラスになるものに気づきやすくします。一方で、意図を持たずに日々をなんとなく過ごしていると、良いことも悪いこともすべてに振り回されてしまいます。

ほとんどの人にとって状況認識とは、常に危険を探したり予期したりすることではありません。それは、特に公共の場で、受け身にならず周囲の状況にしっかり関わることです。本当に警戒レベルを上げるべきなのは、安全が脅かされる重大な状況に直面したときだけです。

常に高い警戒状態にあると、心理学で言う「過覚醒状態」に陥ります。これは異常に警戒心が高まる状態で、特に脅威や危険がありそうな刺激に敏感になります。この状態は、不安障害や強迫性障害、トラウマ(特にPTSD)を抱える人に多く見られる傾向があります。

研究によると、過覚醒状態にあると、判断力注意力、感情的な安定が損なわれることがわかっています。そのため、状況認識を高めることは有益ですが、過剰に警戒しすぎると逆効果となり、不必要な不安を引き起こす可能性があります。

状況認識は、私たちに「今この瞬間」に集中することを教えてくれます。この考え方は、多くの精神的な伝統で何世紀にもわたり教えられてきたものです。意識を持って生きることで、私たちは危険を察知するだけでなく、人生を豊かにし、喜びをもたらしてくれるものにも気づくことができます。

例えば、公園で手をつないで歩く老夫婦、知らない人のためにドアを押さえる誰か、道端の動物を助ける人。これらの瞬間に気づくことで、私たちの生活はより豊かで楽しいものになります。状況認識は、私たちを守るだけでなく、人生そのものをより充実させるのです。

 

人間観察をしてみよう

状況認識を高め、マインドフルネスを実践するための方法はたくさんあります。その中でも効果的なのが、「人間観察」です。公共の場にいるとき、周りの人々を目立たないように観察してみましょう。相手の身体の動き、態度、行動に注目します。こうした微妙なサインは、その人の状態を多く語っており、何か異常がある場合にも気づきやすくなります。

観察しながら、その人についてのストーリーを頭の中で作ってみるのも面白いでしょう。例えば、「この人はどれくらいのお金を持っているだろう?」「どんな仕事をしているんだろう?」「武器を持っている可能性はある?」といった具合に。人間観察を通じて観察力を鍛え、どんな行動が「普通」かを見極められるようになります。そうすれば、何か不自然な動きや状況に対して警戒すべきタイミングも分かるようになります。練習を重ねれば重ねるほど、その能力は向上し、状況認識も磨かれていきます。

この「観察」は、実は捕食者がターゲットを見つけるときに使う手法でもあります。彼らは、弱々しい、怯えている、自信がなさそうな人—いわゆる簡単に狙える「柔らかい標的」を探しているのです。

 

テクノロジーから離れることの重要性

状況認識を高めるためには、自宅の外ではテクノロジーから距離を置くことが大切です。イヤホンやヘッドホンを使用すると、最も重要な感覚の一つである「聴覚」を遮断してしまいます。さらに、スマホを見ながら歩いていると、周囲の状況からほぼ完全に切り離された状態になります。

常に周りの状況を意識していることで、安全性が向上し、潜在的な危険に迅速に対応できるようになります。危険を避けるためには、背筋を伸ばして堂々と歩き、頭を上げて目線を前に向け、自信を持って動くことが重要です。周囲に注意を払うことで、不審者を避けたり、近づいてくる車の音を聞いたり、近くで起きている争いに気づいたり、道を渡るのに困っている障害者を助けたりすることができます。

また、危険を最小限に抑えるには、公共の場では目立たないようにするのが賢明です。専門家によると、派手な服装やアクセサリー、目立つジュエリーなどは注目を集めやすいので避けるべきだとされています。特に海外旅行の際には、現地の習慣や文化を知らずに、無意識のうちに目立ってしまうこともあります。多くの人は、自分の外見を通じて、信念や所属するコミュニティについて過剰に情報を発信してしまうことがあるのです。

さらに、車もあなたの個人情報を明らかにしてしまう場合があります。例えば、政治的・宗教的なステッカーや、「優秀生徒」や家族メンバーを示すステッカーなどは、あなたの生活や家族構成についての手がかりを知らない人に与える可能性があります。このような情報は、意図せずして他人に共有されてしまう場合があるため、注意が必要です。

 

移動時での注意を忘れない

クリス・ヘブン氏は、状況認識が特に重要なのは、駐車場、ガソリンスタンド、公共交通機関、都市部の歩道など、人々が移動するために利用する「移動空間」であると指摘します。彼によると、ガソリンスタンドは人々が襲われやすい場所のトップ5に入るとのこと。自身のウェブサイトでは、こうした場所での安全な過ごし方、いわゆる「ガソリンスタンド対策」について教えています。

(Studio113/Shutterstock)
駐車場やガソリンスタンドなど、移動中の空間では状況認識が重要。安全な過ごし方を心がける(Shutterstock)

ヘブン氏は、多くの人がガソリンスタンドでスマホに夢中になってしまうと指摘します。しかし、給油中にスマホを操作するのは絶対に避けるべきです。もう一つの大きなミスは、車と給油ポンプの間に立つこと。これは自分を狭いスペースに閉じ込めてしまう危険な行動です。

「その場所は非常に危険です。視界が制限されるので、ガソリンポンプをセットしたら、その場で周囲を見回すようにしましょう。そして、車から10~20フィート(約3~6メートル)離れて、全体を見渡せる場所に移動してください。悪い奴らはいつも『奇襲』を狙っていますが、この行動でそのチャンスを奪えるんです」と彼は語ります。

 

自分の直感を信じる

直感は、特に潜在的な危険が目に見えない形で潜んでいる状況で、とても重要な役割を果たします。クリス・ヘブン氏は、直感の重要性を示す印象的な統計を紹介しています。

「暴行やレイプ、殺人未遂といった突然の暴力の被害に遭った人たちは、全員が事件を振り返るときに『何かがおかしいと感じていた』と語っています。それでも直感を無視してしまうのは人間だけなんです」と彼は言います。

自己防衛や恐怖管理の専門家であるトニー・ブラウアー氏も、直感を状況認識の重要な要素として強調しています。彼の著書『状況認識、恐怖の管理、ひるみの転換(Situational Awareness, Managing Fear, and Converting the Flinch)』では、直感や本能を活かすことの大切さが語られています。

「直感は、何かが違う、間違っていると感じる強力なサインです。たとえその理由をうまく説明できなくても。でも多くの人は、それを無視してしまいます」と彼は エポックタイムズに語ります。「自分の気持ちを否定したくて、『そんなの気のせいだろう』と片付けてしまうのです」

ブラウアー氏は軍や警察の相談役も務めており、状況認識の議論では基本が見落とされがちだと指摘します。
「私はこう言います。『状況認識がなければ、チャンスもない』と」

直感に耳を傾けることが、最初で最も重要なポイントだと彼は強調します。
「直感を信じてください。『嫌な感じがする。ここを離れよう』という感覚は、誰にでもあります。それに従うのはとてもシンプルです。特別なテクノロジーもお金もいりません。直感は誰にでも備わっている無料の能力なのです」

直感は、過去の経験や観察が潜在意識に蓄積された結果とも言えます。それが時に、超自然的な感覚のように思える強い洞察として現れることがあります。しかし実際には、脳がこれまでに得た知識や経験を超高速で処理しているのです。

緊急医、弁護士、元軍人で警察官でもあるジェン・スタンクス博士は、現在執筆中の著書『Hard Target』の中で、直感を無視する危険性についてこう語ります。
「直感を信じることはとても大切です。恐怖という感覚は本物であり、それを活用しない手はありません。何か違和感を覚えたら、それがはっきりと言葉にできなくても、信じるべきです。私たち人類は、何千年もの間、生存のために進化してきました。その本能を無視するのは非常に危険なことです」

心理学者で、マックス・プランク研究所の適応行動認知センターの名誉所長であるゲルト・ギゲレンツァー博士も、直感を「潜在意識の知性」と呼びます。彼は、特に複雑で不確実な状況では、直感を使った意思決定が良い結果をもたらすとしています。

研究でも、直感が意思決定を助ける強力なツールであることが示されています。ある研究によれば、直感を活用することで、より早く、より正確な意思決定が可能になり、さらに直感は練習を通じて磨くことができることもわかっています。直感を信じて使い続けることで、その能力はどんどん向上していくのです。

 

遠慮しすぎないことが大切

特に女性が危険な状況に陥りやすい理由の一つは、「相手を怒らせたくない」「失礼だと思われたくない」という気持ちから、相手に対して必要以上に丁寧に接しようとする傾向です。捕食者のような危険な人物は、この傾向をよく理解しており、被害者を見つける際にこれを利用します。

ジェン・スタンクス博士は、人を傷つけたり失礼になったりしないように教育されてきた私たちでも、礼儀正しさを保ちながら明確な境界線を引くことは可能だと話します。そして、知らない人が自分のパーソナルスペースに侵入するのは失礼であることを忘れてはいけないと強調します。

「ヒッチハイカーを乗せない選択をするのはOKです。知らない人との会話を避けるのも問題ありません。相手に向かって『ねえ、近づかないで。あなたがいると不安です。安全だと感じられません。車から離れて』と大声で言うのも全然構いません。元いた場所に戻って助けを求めるのも、誰かに駐車場まで付き添ってほしいと頼むのも、全部OKです」と彼女は言います。

「これは、自分にとって起こるべきではないことに対して適切に反応し、境界線を引く行動です。そしてそれは、強い人がするべき正しい行動だと私は思います」と彼女は付け加えます。

 

自分の安全に責任を持つ

状況認識を考える上で最も重要な要素の一つは、「自己責任」の役割です。トニー・ブラウアー氏は著書の中で、多くの人が何十年にもわたり、自分の安全を他者に任せきりにしていると指摘しています。

元警察官のジェン・スタンクス博士はこう述べています。
「何かが起きた後に警察は呼ばれることが多いですし、状況が悪化している最中でも、実際には自分自身で対処するしかありません。自分の安全は自分で守る必要があります。他の誰もそれを代わりにやってくれるわけではありません。多くの人が警察や他人を頼りにしていますが、それは間違った信念です。それが私たちを安心させすぎてしまい、『自分には起こらない』と思い込む原因になっています」

さらに彼女は、責任を持つことは精神的な健康とも関係があると述べています。不安や抑うつの多くは、自分の人生をコントロールできていないという感覚から生じることが多いのです。しかし、自分の安全や生活に責任を持ち、コントロールを取り戻すことで、不安や恐怖は次第に和らぎます。

クリス・グローバー氏は、生活の中でのさりげないサインに注意を払うことが、状況認識の重要な部分だと語ります。そして、そこに「エゴ」が障害となる場合があると指摘します。

「最悪の事態に至るまでには、多くのヒントや兆候があります。でも、それを見逃し続けてしまうことで、事態が限界を超えてしまう。そして気づいたときには、もう手遅れなんです」と彼は述べています。

さらに、グローバー氏は、多くの人が「自分にはそんなことは起こらない」と思い込む原因は、エゴや思い上がりだと指摘します。しかし、その心理について理解も示しており、「自分の脆弱性を認めるのは不便なことだから」と述べています。

 

恐怖を管理する

状況認識を活用して衝突や危険を避けるのが最善ですが、避けられない場合もあります。
危険な状況に直面すると、多くの人は動揺してパニックに陥り、心理的・身体的に「黒(ブラック)」の状態(カラーコードでの最悪の状態)に陥ります。普段そのような状況に慣れていない私たちは、恐怖反応や「恐怖のスパイク(急激な恐怖感)」に圧倒され、行動不能になることがあるのです。

トニー・ブラウアー氏は、40年以上にわたり暴力や恐怖、攻撃性について研究し、警察や軍隊など危険な職業に就く人々に個人の安全について指導してきました。彼は、恐怖には「心理」と「生理」の2つの側面があると述べ、それらを理解することで恐怖が行動を妨げるのではなく、むしろ助けになるように活用できると教えています。

恐怖の心理とは、恐怖をどのように捉え、反応するかという心の働きのことを指します。これには、最悪の結果を想像したり、頭の中でネガティブな「映画」を再生したりすること、さらには恐怖のループに陥り、決断ができなくなる状態が含まれます。一方、恐怖の生理とは、恐怖を感じたときの体の反応を指します。例えば、心拍数が上がるなど、身体に現れる具体的な変化のことです。

ブラウアー氏は、これら2つの側面をしっかりと理解し、効果的に恐怖を管理することが、危機的状況において非常に重要だと強調しています。この理解があれば、恐怖をただの障害と捉えるのではなく、それを行動のエネルギー源に変えることができるのです。

(ストレート8フォトグラフィー/Shutterstock)
危険な状況での恐怖は心理と生理の反応から成り立つ。理解し管理することで、恐怖をエネルギーに変え、冷静な行動を導く助けになる(Shutterstock)

ブラウアー氏は、恐怖を克服するのではなく、それを管理し、勇気と行動の原動力に変えることが重要だと指摘します。恐怖に飲み込まれるのではなく、それを前に進むためのエネルギーとして活用するべきだと言います。

彼のウェブサイト「Blauer Training Systems」では、一般の人々が状況認識を高め、恐怖を管理し、衝突が避けられない場合にどう対処すればよいかを学べるさまざまな自己防衛のアプローチを提供しています。ただし、衝突は常に「最後の手段」であるべきです。

ブラウアー氏は、状況認識を超えた準備をしたい場合は、適切なトレーニングを受けて自分を守る方法を学ぶことを推奨しています。さらに、クリス・ヘブン氏は孫子の言葉を引用し、「孫子の格言には、『人間はその場の状況に応じて上手く対処するのではなく、訓練によって身につけたレベルに落ち着く』とあります」と述べています。

孫子は、中国の軍事戦略家であり、『孫子の兵法』の著者として知られています。この言葉は、危機に直面したときに発揮される能力は日頃の訓練次第で決まることを意味しています。

 

最後に

クリス・グローバー氏は、状況認識は特殊部隊やエリート軍人だけの特別なスキルではなく、誰でも意図を持ち、練習すれば身につけられる基本的な能力だと述べています。

状況認識は、単に危険を察知することにとどまりません。それは、自分の人生に影響を与えるすべてのことに目を向けることを意味します。たとえば、天候や道路状況、健康状態、財政状況、さらには世界的な出来事までを含みます。この重要なスキルを身につけることで、恐怖を力に変え、自信や柔軟性を高めることができます。

状況認識は、意図と目的を持って生きる方法でもあります。現在の瞬間に積極的に関わることで、私たちは個人の安全を強化し、より良い判断を下し、他者と深くつながる力を養い、全体的な生活の質を向上させることができます。

状況認識を日々の生活に取り入れることで、恐怖や不安に支配されるのではなく、自分自身の人生をより力強く、目的を持って歩むための大きな一歩となるでしょう。

(翻訳編集 華山律)

AP
D.Ac
鍼灸医師であり、過去10年にわたって複数の出版物で健康について幅広く執筆。現在は大紀元の記者として、東洋医学、栄養学、外傷、生活習慣医学を担当。