(Shutterstock)

中医学における五臓の養生法 ——「肺を潤す」

東京大学医学博士であり、経験豊富な中医師である劉冬梅医師は、かつて学生のインターシップの指導をしながら病院で臨床実習を行っていました。あるとき、68歳のスペイン語学科出身の男性患者が、突然の息苦しさと胸の圧迫感を訴えて入院しました。診断名は「原因不明の急性呼吸困難」。血中酸素濃度は92%と低く、しかし胸部X線には肺炎などの感染の兆候は見られませんでした。

詳しく話を聞くと、この男性は1か月前に妻を亡くし、深い悲しみに沈んでいたといいます。発作の3日前から急に呼吸がしづらくなり、息を吸うことはできても吐くことができず、胸の上に重いものがのしかかって息が詰まるような感覚に襲われたとのことでした。

劉医師は学生に説明しました。「中医学では『悲しみは肺を傷つける』と言います」すると学生が「喜びは悲しみを制する」と補足し、患者に対して、少しでも楽しい出来事に触れて心をほぐすよう勧めました。患者はその言葉に深くうなずき、家族の支えや孫の笑い声に癒やされて、症状は次第に改善。2週間後、劉医師が再び病室を訪れたときには、すっかり元気を取り戻し、退院の準備をしていたそうです。

 

▶ 続きを読む
関連記事
立春のころは気が動き出す一方、体が追いつかず不調を感じやすい時季。ねぎま鍋は巡りを助けながら内側を養い、陽気がのびる流れをやさしく支えます。
真冬の強い冷えは心の働きを弱め、動悸や不安感を招くことがあります。さつまいも・生姜・黒糖を組み合わせたおかゆで、体を温め血を養う養生法を紹介します。
柚子皮の香りは気を巡らせ、果肉は潤し、はちみつはやさしくまとめる。はちみつ柚子茶にひそむ陰陽の調和と、心を整える食養の知恵を解説します。
冬は腎を中心に、体の土台を静かに整える季節と考えられています。黒豆を軸に五穀を組み合わせることで、五臓の巡りを穏やかに支える食養生の知恵を紹介します。
生姜は冬に役立つ食材ですが、使い方によっては体の温かさを外に逃がしてしまうこともあると考えられています。酢と火の入れ方を工夫した、生姜焼きの一例を紹介します。