【大紀元日本4月22日】天円地方は優れてチャイナ的なフィジカル・イメージです。四角い大地を円の法則に従って変容させて文明を築き、天円地方のチャイナ・イメージがもたらす道徳的衝動を人類社会に与え続けることが中国の使命です。中華民族の心魂と人体が方円の似姿に象(かたど)ってカタチ造られているので、この課題を必ず果たす事が出来るでしょう。
方円世界のルールを中華民族に伝えるツールの一つが、囲碁という盤上遊戯です。囲碁は爛柯伝説に見られるように、童子や老隠者=老賢者が隠れ棲む石室の中で誕生しました。爛柯伝説の主人公・王質が踏み迷ったところは、石室山というところです。深山幽谷を突き進んだ隘(あい)路の果てに、天門が開け放たれた場所=桃源郷にしばしば辿り着きます。長く続く細い小道=隘路こそが、ぽっかり竜穴のように開いた桃源郷ヘ誘う入り口なのです。山岳を縦横に還流する竜脈(大地の経絡を走るエネルギーのネットワーク)の、パワーポイントの一室が石室に他なりません。
お気づきのように爛柯伝説は、日本の浦島太郎によく似た物語です。山中他界と海中他界の違いがあるにしても、時間のトリック=玉手箱が仕込まれています。別世界を訪れた者は誰でも浦島太郎や王質のように、時間のパラドックス=逆襲の試練を受けなければなりません。浦島太郎は約束の言葉を破って玉手箱を開け、竜宮城の中を流れていた無時間の青い鳥を開け放ちました。永遠を手放した浦島太郎は、この世の時間を纏う身体の中に置かれ、一瞬にして白髪の老人と化してしまったのです。
石室の中には、もちろん玉手箱=竜の珠が置かれていること、申すまでもありません。竜宮城で語られた言葉は、玉手箱(極楽の時空を封印した箱)との契約の言葉(玉手箱を決して開けないように)となって、浦島太郎の身体に及んでいたのです。桃源郷を訪れたことのある人は誰でも契約の言葉を持ち帰って、この世の使命を果たす人生に覚醒しなければなりません。玉手箱を開けなければよいのです。
爛柯伝説の舞台となった石室は、同じように死に近しい永遠の時間性が漂う場所です。誰もがやがて参入する墓石の中に安置された遺骨の小部屋=石室は、桃源郷のミニアチュアであること、お分かりでしょう。石室には桃源郷から流出した時間が、滔々と流れ込んでいます。この世から桃源郷のように遮断された、墓石の中を流れる永遠の死の時間性とは、過去から未来へと直線的に流れる現世の時間性とは隔絶しています。
山奥深く竜脈の懐に抱かれたミッシング・スポット=石室は竜宮城と同じく、時間の腐食を免れたアナザー・ワールドなのです。そこでは無限の時間性が、摩滅せずに循環する景色がパノラマのように展開しています。その一つのシーンが、仙人達の盤上遊戯の光景です。二人の仙人が碁に打ち興じている姿は、桃源郷を流れる時間の推移を映像的に表わしたものです。
お寺の鐘があの世の時を告げます。教会の時計台が天上の時を知らせます。腕時計が巻かれるまで、神聖な時は聖なる場所で管轄されていました。そこから砂時計のように、この世の時間が流出したからです。時間は流れるものでありデジタル化されたもののように、刻まれて進むものではあり得ませんでした。
チック・タック・・・・、チックは時の始めであり、タックは時の終わりを告げるという黙契の元に、永遠を刻む時刻という考え=イメージがこの世に誕生したのです。かくして漏刻からデジタルへ、人類を運ぶ時の船のリアルタイムは喪失しました。なべて日本人は、浦島太郎の正当な嫡子であるという寓意を生きています。中国人なら王質の後日談が、あるいは華人の運命を占うものとなるでしょう。王質は仙人となって、この世を脱出したと言い伝えられています。この世の故郷を離れ、杳としてあの世の故郷=桃源郷へと行くえ知れずになったとも・・・。
チャイナ・イメージの極北である桃源郷を流れる時間は、そこに棲む神々の意識が流れている時間に等しいのです。ここで流れている時間は、神々の意識内容が時間となって発生している場所=石室なのです。神々の内面世界=石室に流れている時間の中で一局の碁が始まり、陰・陽(黒白の石)の交代の推移の中で終局を迎え落着します。あっという間に、宇宙の季節が巡るのです。
桃源郷では宇宙時計が回転し、一日千秋の時のスピードが滑走しています。王質が体験したように石室での一時(ひととき)が、地上世界の数百年に相当したのは理の当然でした。碁盤を前にした童子や老隠者は、方円のルールを熟知した次の一手を、無限の安らぎの中で繰り出します。桃源郷世界で布石された一手は即座に、未来の一歩となってこの世に顕在化してくること、言うまでもありません。そして童子=老隠者であること、申すまでもありません。無時間のシンボルである石室の中で、童子は老いることなく神の知恵を持ち、千秋の時を経た老賢者でもあるからです。囲碁は優れてチャイナ的な光芒を放って、中華の改新の向かうところをいつまでも指南しているとは言えないでしょうか?
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