古琴(こきん、単に「琴」とも呼ばれる)は、ハープに似た7つの弦を持つ楽器です。中国では5千年前から楽器として用いられていたと言われています。

古琴について、学者たちは中国の伝統文化を凝縮した特別な楽器であると評しています。古代中国知識人の間では古琴・書道・棋(圍棋、囲碁)・絵画が習得すべき必須の教養であるとされ、精神修養にも用いられてきました。

古琴の胴体は1.2mほどで、それぞれ頭・首・肩・腰・尾と呼ばれるパーツから構成されており、鳳凰(ほうおう)の形をかたどって作られました。また、丸みを帯びた上部の天板は天上世界を、平らな底板は地上を表しています。

もともと、古琴には絹で作られた5つの弦しかなく、それぞれの弦は金・木・水・火・土という5つの要素を象徴していました。2つの弦が追加されたのはおおよそ紀元前千年頃であったようです。なお、現在の古琴の弦は金属で作られています。

古琴の演奏法は千種類を超えるとされ、世界で最も習得が困難な楽器の1つであると言われています。弦を指でつまんだり、弾いたり、押したりするほか、滑らせたり、振動させるなどの技法を用いることで、水のせせらぎのような小さい音から、大きな音まで出すことができます。

また孔子(紀元前551-479)が古琴の奏者であったことや、黄帝が古琴の発明に関与していたとの伝説も残っています。

さて、中国語には「知音(ちいん)」という言葉があります。この言葉は文字通り「音を知る」と綴(つづ)りますが、その意味は「親友」や「なじみの相手」です。実は「知音」という言葉の成立の裏には、古琴にまつわるある物語が関係していたのです。

古代中国では、優雅な音楽を演奏することは座禅と同様に精神修煉法の一つであり、精神の次元を高める効果があると考えられていました。

春秋時代、伯牙(はく が)*という古琴の名手がいました。そして親友の鍾子期(しょう しき)は、彼の音楽のよき理解者でした。

伯牙の音楽を聴けば、彼が何を考え、何を表現しているのか、子期はたちまち理解することができたのです。例えば、伯牙が高い山について考えながら演奏すれば、子期は「素晴らしい!まるで『泰山(中国の山)』のように壮大で高貴な演奏ではないか」とすぐに理解できます。また、流れる水をイメージしながら演奏すれば、「すごいな!まるでメロディーが広大な川を流れていくようだったぞ」と感想を述べることができたのです。

伯牙が琴を弾き、その横で子期も琴を聴いています(北京・頤和園の回廊絵画)(ウィキペディア、パブリック・ドメイン)

後に「高山流水(High Mountain and Flowing Water)」は古琴の代表曲となりました。また、この言葉はことわざとしても用いられ、「一部の者にしか理解できない高度で気品のある芸術」を意味します。

伯牙の奏でる古琴の音によって、子期は彼の内面にある精神世界を共有することができました。そうして彼らは親友となり、まさに「知音」という言葉が「親友」を表す中国語として成立したのです。

1977年、著名な古琴奏者管平湖氏によって演奏された「流水(Flowing Streams)」は純金製のレコードに収録され、航空宇宙局(NASA)のスペースシャトル「ボイジャー1号」と「ボイジャー2号」によって宇宙へ送られました。

2009年、古琴とその音楽はユネスコの「人類無形文化財」に登録されました。しかし、古琴の起源についてはその多くがいまだに謎に包まれたままです。

古琴の神秘性は、唐の王維(おう い、701年-761年)による「竹里館(Hut Among the Bamboo)」**という詩の中で、以下のように綴られています。

“独り竹林の中に静かに座り、古琴を弾きながら詩を吟詠する。

奥深い林の中にいて誰にも知られず、ただ明月だけが私を照らしてくれる。”

 

*祇園祭の舁山(かきやま)の一つに、「伯牙絶絃」の場面をモチーフとする伯牙山がある。(ウィキペディア)

**「竹里館」の中国語原文:獨坐幽篁裏, 彈琴復長嘯, 深林人不知, 明月來相照。

聴琴図–北宋の徽宗皇帝(きそう、1082-1135、北宋の第8代皇帝)の作(ウィキペディア、パブリック・ドメイン)

(翻訳・今野秀樹)