【大紀元日本10月12日】世界が先の見えない不況にあえぐ中、経済学専攻の大学生は何を学べばよいのだろうか?ハーバード大学経済学部教授、グレゴリー・マンキュー氏(Nicholas Gregory Mankiw)(※)が、同大学の新入生に向けて書いた「人生ゲームに必要な5つの講義」というコラムが先月4日、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)に掲載された。
今年、自分の子供が大学に入学したというマンキュー教授は、同コラムで「現代経済を理解するために、まず何を学ぶべきか」について、学生らに次のようなアドバイスを綴っている。
1、経済学を学ぶ
経済学と言ったが、これは単に私の職業のマーケットシェアを守るためだけではない。偉大な経済学者・アルフレッド・マーシャル氏(Alfred Marshall)は、「『経済学』とは日常生活を営んでいる人間に関する研究である」と述べた。学生らが学校を離れた時、「日常生活のありきたりな活動」こそが彼らの最大の関心事になるからである。一部の経済学者が心配しているように、今の瀕死の経済が失われた10年になるとしたら、備えとして学ぶことは重要である。
従って、入門経済学ほど適切な講義はないだろう。学生達の周りで起こる様々な経済的な力を理解する手助けとなり、様々な仕事で必要な、分析のスキルを身につける事ができる。君たちはよりよい市民にとなり、政治家たちの主張を十分に評価できるようになる。
大学をすでに離れた人も、学ぶのに遅すぎるということはない。経済学の教科書を手にとってみれば、想像していた以上に多くのことを学ぶ事が出来るだろう。信じられないかもしれないが、経済学者のジョーン・ロビンソン氏(Joan Robinson)がかつて述べたように、経済学を学ぶ理由の一つは経済学者に騙されないようにするためなのである。
2、統計学を学ぶ
高校での数学の授業では、伝統的な幾何学や三角法の勉強にあまりにも多くの時間が費やされている。一般人に対して、これらは有益な知力訓練であるが、日常生活ではあまり使い道がない。学生は、確率と統計学を学んだほうが将来役に立つ。
このコンピュータの時代、私たちは必要な情報を得ることができる。非常に多くの情報量があるが、情報があるという事と、それから学ぶという事の間には、大きな違いがある。君たちは、複雑な演算のポテンシャル(潜在能力)と、その限界を知る必要がある。君たち大学生は、高校の授業内容を更新するような統計についての授業を一つ以上取った方がいいと思う。
3、財務を学ぶ
401(k)プラン (アメリカの退職年金プラン)や立ちはだかる社会保険年金の問題により、アメリカ人は将来の経済的判断を、自分自身に委ねなければならない。しかし本当にそれができるのだろうか?
株や債権とは何なのか、また資産のリスクや利益はどうやって管理したらよいのかについて、ほとんど知らない高校生たちが大学に入って来る。
毎回どこかの会社が倒産する度に、多くの人が財務に対してよく分かっていないことに気がつく。エンロン(Enron)にしろ、リーマン・ブラザーズ(Lehman Brothers)にしろ、倒産したとき、多くの従業員はその企業の株に資産の大半を投資していて大変なことになる。彼らは金融の最も基本的なルールに注意を払わなかったのだ。分散投資はフリー・ランチ※をもたらし、分散することにより、予測できないリスクを下げることができるのである。
大学に入ることは、いわゆる高いリターンのある投資である。大卒と高卒の賃金格差は大きい。大卒者がその所得を知的にマネジメントするには、基本的な財務方法を学ぶ必要がある。
4、心理学を学ぶ
経済学者である私は、人々は常に合理的であると見なしてしまう。すなわち、人々は数学的な正確さをもって努力をし、自分の目標を実現しようとしていると思うのだ。
ほとんどの場合、このアプローチは役に立つ。しかし、これは人間の行動を示す一つの方法に過ぎない。
心理学を学ぶことは、極端な古典経済学に対する解毒剤として役に立つ。そして君たち自身を含めて、人間の合理性の弱点を明らかにしてくれる。
私が失敗したと思っていることは、私が大学生の時、心理学の講義を一つも取らなかったことだ。しかし、経済学に心理学が加味された「行動経済学」が誕生してから、私はその過ちを償ってきた。数年前、ハーバードの教員メンバーとして、私はスティーブン・ピンカー氏(Steven Pinker)が教える入門心理学の講義を監修した。それが私をより良い経済学者にしたかどうかは分からないが、私をより謙虚にし、そしてよりよい人間にもしてくれたと思う。
5、必要ならアドバイスを無視する
大人は、これから大学に行く学生に対するたくさんのアドバイスを持っている。これから家を離れて大学一年生になる諸君は、それらの意見に耳を傾け、考慮したり、判断したり出来るが、最終的には自分自身の直感と情熱に従うべきだ。
未来において確実な事とは、「未来は定かではない」ということだ。私は、卒業生たちが4年後にどんな産業に惹かれるのか分からないが、若いビル・ゲイツ氏(Bill Gates)やマーク・ザッカーバーグ氏※(Mark Zuckerberg)が私たちの経済を築き上げたように、次世代が彼らの経済を作っていくのだから。
今、荷造りをし、テキストを買い、ルームメイトと会っている人たち、君たちの未来は君たち自身の手に委ねられている。毎年、最初の講義の日に700人の新入生を見回すとき、その光景は私に未来への希望を与えてくれるのだ。
※グレゴリー・マンキュー(Nicholas Gregory Mankiw)―ハーバード大学教授。1958年生まれ。1980年プリンストン大学を卒業。1984年、マサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得後、1987年、29歳の若さでハーバード大学教授に就任。2003年より2005年まで大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務める。
※フリーランチ:良すぎてあり得ないものを意味する経済分野での言葉。
※世界最大のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)であるフェイスブックの創設者
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