中国当局、三峡ダムの悪影響を認める 環境保護家「すでに手遅れ」
【大紀元日本5月24日】中国当局は、国家プロジェクトである長江三峡ダムの建設が社会と環境に深刻な問題をもたらしていると認め、それによる地質災害および社会問題に緊急に対応しなければならないと表明した。三峡ダムの建設について、当初から学界と民間では異論が絶えなかったが、中国当局は断固として建設を推し進め、そのプラス効果を強調し続けてきた。いまになって、当初から指摘された問題点を認めたという当局の姿勢変化について、一部世論では、関連の問題はすでに相当深刻になったためだと指摘する。
国内複数のメディアの報道によると、温家宝首相は18日に召集した国務院常務会議で、「三峡後続事業の企画」「長江中下流水質汚染の予防・改善企画」を審議して可決した。会議はまた、三峡ダムプロジェクトにおいて、移住や生態環境保護、地質災害防止など速やかに解決すべき問題の存在を認め、長江中下流の水運や灌漑、洪水などにも影響が出ていると指摘した。
三峡ダムプロジェクトは計画の段階から、国内外の専門家から、生態環境を著しく破壊すると指摘された。その中でも、中国の著名水利学者・黄万里氏は晩年病床でも、同ダムを建設してはならないと訴えていた。それに対し、中国当局は同ダムによるプラス効果ばかりを強調し続けてきた。
永久的利益なのか、挙国の心配の種なのか
中国当局が同ダムによる負の影響を認めたことについて、環境問題の専門家は重大な意義があると指摘した。
環境保護団体グリーン・ピース駐北京事務局のトム・ワン主任は米国VOAの取材に対して、今回の中国当局の報告書から読み取れるのは、民衆の反対が絶えず強まる中、当局の同ダムに対する「永久的な利益」という見方も、いまでは「心配」に変わっている。
同主任は、「以前は、エネルギーの供給が最重要視され、問題を見る視野が非常に狭かった。いま、同ダムによる悪影響が現れ始めており、問題はますます顕著になり、人々の不満は爆発している」と見解を示した。
長年来、ダム建設問題に注目し続けてきた活動家・戴晴さんは、「中国当局は以前にも、同ダム建設の負の影響を認めたことがあった。しかし、これまでは問題点が現れたらひたすら隠し、大事を小事に、小事を事なしにしてきた。しかし今回はそうはいかなくなった。首相が主導する国務院会議でこの問題を議論したのは初めてなのだ」と語った。
当局が今回、一転して姿勢を変えたのは、同ダム建設の問題点が非常に顕著であるためで、すでに隠し通せなくなったからだ、と同氏は指摘した。「すでにこれらの問題を解決する術がなくなった。今後、事故や問題が起きた場合に備えて、当局は『我々は予期できなかったのではなく、すでに見解を出していた』と逃げ道を作っている」という。
「三峡ダムの建設がもたらした多くの問題は解決できない。住民の移転を例に説明する。数百万人の住民は余儀なく故郷を離れた。これらの人々の運命は永遠に変わった。また、600キロにおよぶ沿岸地域の自然環境が元に戻ることはありえない。ダムを壊すこともできない。長江流域での船の運航も大きな問題に直面している」と同氏は指摘した。
中国当局は2007年にある政府会議で、現地の幹部を含むダム建設の異見者の見解を完全に無視した。これらの異見者は当時、同ダムは中国の最も重要な河川である長江に自然環境の災難をもたらす、と警告していた。ダム貯水区では、1000カ所の市町村が水没し、140万人が居住地を移転しなければならなくなったことから、異見者らは、多くの住民に生活面で困難が生じると指摘した。それに対して、中国政府は、この世界最大のダムは18200メガワットのクリーン・エネルギーを提供でき、洪水問題の解消や、船舶の運航状況の改善に有益であると強調し続けていた。
三峡ダムによる地質災害の処理は「永遠の事業」
三峡ダム周辺の地質環境は複雑で、暴雨や洪水が頻発し、古くから地すべりが多発している。中国国土資源部の調査で判明した地滑りだけですでに2490カ所に上っている。それに加えて、近年、重慶地区のダム周辺では、小規模の地震が頻発している。インターネットでは、大型水力発電の工事による地震誘発説の討論が絶えない。
ドイツの国家ラジオ局「ドイチェ・ヴェレ」は本件について、四川省在住の地質学者・範暁氏に電話取材した。同氏によると、三峡ダムのような大型プロジェクトは、着工する前に地質へのマイナス影響を調査したはずだが、問題の深刻さを十分に認識できなかった。それに加えて、後続事業が不十分であるため、2000年のとき、(中国当局は)同ダム地質災害の予防・改善計画を練り直した。また、地質災害への対策には、これまでに100億元(1元=12.5円)を超す資金を投じてきた。三峡ダムの地質災害対策は永遠の事業と化した。
また、範暁氏は、同ダム周辺地区の地質災害について、次のように説明した。「山崩れや地滑りのほか、地震誘発の問題もある。破壊的な地震はまだ発生していないが、毎年、ダムの水位が高くなると、それに誘発された小規模の地震が多くなる。主にマグニチュード4以下である。これについて、詳細な観測データがあり、近年その一部が公開され現地住民の住宅や建物への被害も確認されている。今後は破壊的な地震の発生にも注意を払うべきだ。これまでの事案からみると、ダムの水位が高くなってから3~5年目に強い地震を誘発する可能性がある」
すでに手遅れか
三峡ダムの建設が2006年に終了してから、問題が続発している。汚染物や泥、砂が長江の水で流されなくなっている。また、下流の水位はずっと低い水準にあり、船の運航に大きな支障が出ている。ダムの貯水は山崩れや環境の悪化をもたらしているため、さらに多くの住民が居住地を移転するしかない。それにより人々は不満を爆発させている。
三峡ダムが抱える多くの問題から、近年、専門家や当局の幹部でさえも、距離を置くようにしている。当局による同ダムへの称賛の言葉も、2003年の「三峡ダムは万年に一度の洪水を遮断できる」から、2007年の「千年に一度の洪水を防ぐ」に変わり、2008年には、「百年に一度の特大洪水に対抗できる」、そして昨年、「なんでもかんでも三峡ダムに託してはならない」に変わった。
グリーン・ピースのトム・ワン主任は次のような見方を示した。今回の中国国務院の報告書から、当局は正しい方向に動こうとしていることが読み取れる。しかし、すでに手遅れの可能性が高い。「これはまず時間との戦いである。第一に、当局は十分に真剣に行動を起こすかどうか。第二に、行動が迅速であるかどうかだ」という。
ワシントン・ポスト紙は今回の中国当局の姿勢転換について21日に社説を出した。「中国共産党政権は15年の歳月と数百億ドルの資金で三峡ダムを建設し、13の都市、140の鎮、1600の村を水没させ、240万人の住民が居住地の移転を強いられた。当局は当初、なぜ異見者の見解に耳を傾けず、反対にその一部の人を監禁・抑圧したのだろうか」と追及し、「共産党が政治権力を独占している限り、彼ら(中国国民)には選択の余地さえないのだ」と批判した。