【漢詩の楽しみ】 題地球儀詩(地球儀に題する詩)

【大紀元日本2月17日】

東洋道徳西洋芸
匡廓相依完圏模
大地周囲一万里
還須欠得半隅無

東洋の道徳、西洋の芸。匡廓(きょうかく)相い依りて、圏模(けんぼ)を完(まっと)うす。大地は周囲一万里。還(ま)た、須(すべか)らく半隅(はんぐう)を欠くを得る無(な)かれ。

 詩に云う。東洋の道徳と、西洋の技術。それぞれの長所を内蔵した箱が寄り合ってこそ、完全な球体となる。この大きな地球は、周囲一万里。東と西、どちらか半分が欠けてもいけないのだ。

 作者は佐久間象山(さくましょうざん、1811~1864)。幕末日本における、奇才の筆頭に挙げられる人物である。松代藩、今の長野市松代町の生まれで、22歳のとき江戸へ遊学する。当時、儒学の第一人者とされた佐藤一斎に学んだ象山は、備中松山藩の山田方谷とともに同門の二傑と称された。

 詩題から察するに、作者は傍らに地球儀を眺めながら、宇宙的高所から見たような思いを詠ったのであろう。その思索の結論は、東洋の精神文化である儒教道徳と、西洋の物質文明である科学技術が一体となってこそ理想的な状態となる、というものであった。

 周知のように象山は、彼を西洋かぶれの開国論者とみた尊皇攘夷派の志士によって暗殺される。しかし正確に言えば、象山の思想は、西洋の知識や技術を積極的に取り入れて富国強兵を図り、日本が欧米列強に対抗できる実力をもつべし、という「開国攘夷」であった。象山は、狭隘な視野の人間にはおよそ理解できない巨人だったのである。

 ただ惜しむらくは、彼の才能があまりにも突出しており、また傲岸不遜な気性であったため敵が多く、暗殺者の標的となったことだ。

 象山の門人または影響を受けた人物には、吉田松陰勝海舟橋本左内小林虎三郎坂本龍馬など幕末の俊英がずらりと並ぶ。そんな象山のスケールの大きさが、地球儀を回しながら詠んだこの一首からも見てとれるであろう。
 

(聡)