【大紀元日本11月15日】ツァアプはこれを聞くと怒りが爆発しそうになった。しかし、周囲の人たちの手前、彼は怒りを飲みこむしかなかった。彼は沈黙を守っていたが、動揺を隠すことはできず、はらわたは煮えくり返っていた。
彼は思った。このミラレパは何の知識もなく、ちょっとした道理を口にしているだけで、至る所で人を騙し、供養を掠め取っている、仏法の恥だ。しかし、自分のような財産も名望もある、知識の豊富な者が、彼のせいで顔色を失っている。奴の面目をつぶすような、何かいい方法がないものか。
ツァアプ博士は、ミラレパに対する嫉妬と恨みにとり付かれ、彼の頭の中は自分のことしか考えていなかった。一日中、自らの財産と名利ばかりを考え、ちょっとばかり損をすると、それを倍にして仕返しをし、人からは尊敬され、挫折した経験もあまりなかった。しかし、今では皆の心はミラレパ尊者のもとにあり、彼が尊者の顔をつぶそうと図っても、皆の前で罰の悪い思いをするだけだった。「ミラレパが一日でもいる限り、このツァアプ博士が顔を立てる日はやって来ないだろう」。博士はこう考え、尊者に毒を盛って報復する計画を立てた。
ある日、彼は情婦を呼び出して彼女に言った。「この毒薬をチベット・バターに入れて、尊者に供養してくれ。事が成功したら、おまえにこの碧玉をあげよう」
女はこれを聞くと、チベット・バターに毒を盛って尊者に供養しに行った。「今は食べたくないから、また後で持ってきてくれませんか。その時に食べるかもしれませんので」、尊者がその女に言った。
女は尊者が食べたがらないのを見て、内心怖くなり、急いで戻ってきた。彼女は、道を歩きながら思った。尊者はすでに毒が盛られていたのを知っていたのでは…? 彼女は家路につく道すがら、考えれば考えるほど不安になってきた。彼女はあくる日、早速ツァアプ博士の元を訪れ、事の経過を通り一遍説明すると、最後に恐る恐る言った。
「皆は、尊者には神通力があると言っているわ。彼はきっと毒が盛られていたのを知っていたのよ、だから食べたがらなかったんだわ…」
「ああ!奴に神通力などあるものか。騙されているだけなのだ。もし奴に神通力があるというのなら、なぜおまえに後でまた持ってくるようにと言ったのか。また後で持ってくるようにと言われた時点で、奴に神通力がないことは明らかだ」。
ツァアプはぺらぺらと喋ると、玉石を取り出して女に言った。「この玉石を先にあまえにあげよう。だから、またこの毒入りバターを持って尊者を供養してきてくれ。今度は、きっちりと食べてもらえるようにするんだ」
「もう、いや!」、女はかぶりを振って、玉石を受けとろうとはしなかった。「皆が彼に神通力があると信じているのは、きっと実際そうだからよ。だからきのう毒入りバターを食べようとしなかったのよ。もし私が今日これをもっていっても、彼はきっとまた食べたがらないわ。私は怖いから、もう行かないわ。玉石はいらないから、もうこの件は勘弁してちょうだい」
「馬鹿な女だ!おまえは、無学な何の知識もない村民を信じるのか、それともこの博士を信じるのか。村民たちは経文を読んだこともなく、耳学問さえないのだから、奴に騙されて神通などを信じているのだ。奴にどんな神通があるというのだ。私が経文の書で読んだ神通のある人は、奴のようなものではないぞ。俺を信じろ。奴に神通などないと俺が保証してやる」
ツァアプは女が半信半疑なのを見て続けた。「この毒入りバターを、もう一度奴に持っていくのだ。奴に食わせることに成功したら、俺はおまえを悪いようにはしない。おまえとの付き合いももう長い、そのときは結婚しよう。それ以降、俺たちはもう他人の煩わしい話を恐れることもないし、そのときは玉石だけではない、俺の全財産がおまえのものになるのだ。それ以降、俺たちは幸福な日々を送るんだ。ともに白髪になるまで…」
(続く)
(翻訳編集・武蔵)
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