チベットの光 (77) 博士の得度

【大紀元日本12月6日】このとき、尊者の病状は一時よくなったかのように見えた。

 ツァアプはこのとき怪訝には思わず、却ってこう考えた。「これは人の目を欺くもので、俺は騙されないぞ。奴の化けの皮をはがさないでおくものか」。彼は驚いた様子を装って言った。

 「ああ!これはたいそうに不思議なことですな。尊者は別の所に病を移せるのですか。では、その病を私の身に転じていただけますか」

 「いいだろう。君は再三に渡って、私の病を移すようにと言った。ならば、私の『病』の半分だけを君に転じてやろう。全部だと君は耐えられないだろうから。命の危険もあるからね」。そういって尊者は病の半分をツァアプに転じた。

 この瞬間、ツァアプは尊者の話を疑う間もなく、激痛で立っていられなくなった。彼は倒れると、全身がけいれんし、エビのように折れ曲がり、口から泡を吹いて呼吸困難に陥った。彼が事切れそうになったとき、尊者はその転じた病の大部分を回収し、やんわりと言った。

 「どうした?『病』の半分だけを移しただけなのに。大丈夫かい?」

 ツァアプは、心肺が破裂するほどの激痛を味わったのち、豁然として悟った。心の底から悔悟の気持ちが生じると、ひざまずいて何度も頭を下げ、痛哭しながら言った。

 「尊者様!あなたは本当の聖者であり、師父です。私は心から悔いています。どうか私をお許しください。私の資産はすべて尊者に供養しますから、どうか私の罪業を消してください」。ツァアプは、恐ろしさで涙を流し、身体もまだきつかったので、続けて懇願した。「尊者様、私が間違っていました。どうか私をお許しください。どうかわたしを…」

 尊者は、彼が心から悔いているのを見て非常に喜び、彼に残っていた病をすべて回収して言った。

 「私はこの今生で、自分の資産を放棄したもので、他人のものなど要らない。私はもう事切れようとしており、さらにそんなものは要らないのだよ。おまえが持っていればよい。今後、例え命を失うことがあっても、もう悪いことは二度としないように。今回、おまえが犯した罪業は、おまえにかわって消してやろう」

 「尊者様!私がこれまでに犯した罪は、その多くが金のためでした。私はもう財産は要りません。尊者は要らなくても、あなたの弟子たちは修行のために一定の糧が必要です。どうか彼らのために代わって受け取ってください」

 こうしてツァアプが再三にわって求めても、尊者は受け取ろうとはしなかった。後に、その弟子たちがこれを受け取り、集会の供養に使った。現在でも、チューバ地方では、この集会供養がなされている。ツァアプ博士は、このあと世間の名利を放棄し、一人のよい修行者となった。

 (続く)
 

(翻訳編集・武蔵)