文・中原

タブーの逆用にも わけあり

匪賊として身を起こし、賊の手段で政権を手にした。それ以降も凶賊の習性が一貫して変わらない。中国共産党のお株だ。その体臭のゆえに、中国共産党は従前より、政権の合法性については一切言及せず、忌み詞とされてきた。

 ところが、王岐山・規律検査委員会書記は9月9日、敢えてこのタブーにふれた。彼は中国共産党が世界との対話というフォーラムで、外国の政治家や学者を前に、中国人民は昔日、共産党を選んだ等とし、政権の合法性を述べた。

 習近平は、6月の政治局会議で共産党の崩壊になりかねない六つの特徴を挙げて、共産党崩壊の現実性に直面するように警鐘を鳴らした。今年の北戴河会議では、共産党崩壊の話題にふれて号泣する長老らもいた。こういった情勢を背景に、王岐山が封を切って政権の合法性を論ずることはきわめて異常だ。

 実のところ、共産党政権の合法性をアピールするより、彼は言外のメッセージを伝えようとしたのだろうと読まれている。すなわち、現政権は非民選政権で合法性に欠けている、共産党もいよいよ命数が尽きる、ということだ。

 将来、明らかになるが、共産党崩壊をもたらす原因は様々あるが、経済の衰退や国民不満の高騰などはいずれも従因であり、内部闘争による大爆発が致死の根本原因だ。その爆弾を多く埋め込んだのが江沢民だった。

 江沢民は在任中、共産党の匪賊性を根っから継承し、かつ創造的に発展させていった。政治の腐敗や社会の堕落を唆す、徒党を組んで私利を図る、正義を抑圧して邪道を営む、法輪功学習者の臓器を狩る等々が、彼の政治実績だった。

 悪因あれば必ず悪果あり。江沢民の攪乱により、中国は支離滅裂になってしまい、共産党組織も閻魔の帳に付き、その崩壊が刻々と差し迫っている。

 胡錦濤は総書記在任中に、江沢民に牽制され、何も為す術がなかった。法輪功迫害の重罪で裁かれないように、江沢民は従前の辣腕を振るって習近平をも操ろうとしたが、激しい反撃を食らった。目下、江沢民非難の声が民間から官界へ裏から表へと急速に高まり、江沢民の末路はそう遠くないだろう。

 問題は江沢民の重罪を公開すれば、中国共産党の崩壊にもなりかねない。あらゆる責任は首魁の江沢民にあり、かつ不法の中共が崩壊しても必然だと納得させるために、王岐山はあのタブーを逆用し、乱を未然に防ぐ伏線を敷いたのだろう。

コラムニスト プロフィール

中原・本名 孫樹林(そんじゅりん)、1957年12月中国遼寧省生まれ。南開大学大学院修士課程修了。博士(文学)。大連外国語大学准教授、広島大学外国人研究員、日本学術振興会外国人特別研究員等を歴任。現在、島根大学特別嘱託講師を務める。中国文化、日中比較文学・文化を中心に研究。著書に『中島敦と中国思想―その求道意識を軸に―』(桐文社)、『現代中国の流行語―激変する中国の今を読む―』(風詠社)等10数点、論文40数点、翻訳・評論・エッセー等300点余り。

 

 

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