中国共産党の最も厄介な相手 ナバロ氏が米次期貿易顧問に

2024/12/19 更新: 2024/12/19

時に、誰よりも早く目覚めた人は孤独を感じるものである。ピーター・ナバロ氏が中国共産党への警告を訴えていた頃、アメリカのビジネス界やウォール街は「親中ムード」一色で「さぁ、中国進出だ」という声が至る所で上がっていた。そのため、ナバロ氏は長年他の経済学者から批判された。 

 12月4日、トランプ氏はピーター・ナバロ氏の貿易顧問への任命を発表した。トランプ政権の貿易政策を支えたタカ派の象徴であるナバロ氏は、中国共産党に対して強硬な立場を取り、粘り強い政策を推進していた。これはまさにトランプ政権の特徴である。新政権においても、その影響力は貿易戦争から地政学、人権問題に至るまで多岐にわたるだろう。

「私はただ使命を全うする」

スティーブ・ジョブズが言った「世界を変えられると本気で信じられるほど狂気じみた人だけが、本当に世界を変えられる」という言葉がナバロ氏にも当てはまる。2016年から、世界秩序を根本的に変える重要な存在として、アメリカと中国に変化をもたらした。

「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、この任命が選挙期間中に約束した高関税政策を真剣に推進する意志を示していると分析した。

 トランプ氏は経済関連の人事を次々と任命してきた。ライトハイザー氏の元首席補佐官グリア氏を通商代表、ウォール街の大物ベッセント氏を財務長官、ラトニック氏を商務長官に任命。

しかし、これらの人事やライトハイザー氏の不在に、一部の保護主義的なトランプ支持者は懸念を抱いていた。

 ナバロ氏の任命は、これらの人々を安心させた。多くの人が、ライトハイザー氏がトランプ氏の貿易戦争やアメリカ製造業推進の立役者だと考えているが、ナバロ氏こそがその中心人物であり、彼の著書『デス・バイ・チャイナ』はトランプ氏の貿易政策の指針である。 

任命発表の際、トランプ氏は「私の最初の任期中、ピーターほど私の2つの神聖な規則『アメリカ製品を買い、アメリカ人を雇う』を実行した人はいない。不公平な貿易協定、北米自由貿易協定(NAFTA)や米韓自由貿易協定(KORUS)の再交渉を助け、関税や貿易政策を迅速に推進した」と述べた。 

トランプ氏は続けて、「彼の使命は、トランプ政権の製造業振興、関税政策、貿易戦略を成功させ、その意義を広めることだ」と言った。 実際、ナバロ氏は2016年のトランプ陣営参加以来、貿易問題についてトランプ氏自身の直感に従うよう何度も助言し、トランプ氏は中国からの鉄鋼とアルミに関税を課し、中国製品に追加関税を課した。

また、NAFTA離脱圧力やメキシコが移民流入を止めない場合の制裁圧力も助言し、トランプ氏の世界貿易機関(WTO)に対する疑念を強めた。 「ピーターは経済戦争を誰よりも深く理解している」と、トランプ政権の元戦略担当バノン氏はナバロ氏の影響力について語った。「彼を笑う人もいたが、結果を見ればわかるだろう」 トランプ氏とナバロ氏の対中共政策は、バイデン政権に引き継がれている。

2024年5月、アメリカは中国製太陽光パネルの関税を倍増し、その後、中国製の新エネルギー車には100%の関税を課した。最近、アメリカは再び中国の半導体に対して手を打ち、140社を輸出規制のブラックリストに追加した。 

2021年1月21日、中共はポンペオ氏やオブライエン氏を含む、トランプ前政権の28人の高官に制裁を課すと発表し、ナバロ氏は堂々第二位に名前が挙がった。彼が与えた影響の大きさがうかがえる。 タカ派の官僚として、ナバロ氏は現在大いに注目され尊敬を集めているが、かつては、彼がその姿勢が原因でホワイトハウスから追い出されそうになったことは、あまり知られていない。 

「ウォール・ストリート・ジャーナル」によると、ナバロ氏は中国や貿易に対する姿勢が原因で、トランプ政権の最初の2年間、重要な通商会議から締め出され、大統領と直接やりとりができなかった。彼が大統領執務室に近づくと、補佐官たちは首席補佐官に連絡するよう指示されていた。

 2017年3月、ナバロ氏はトランプ氏宛てのメモで「ウォール街派」の当時の経済顧問で元ゴールドマン・サックス社長のゲーリー・コーン氏らによって、彼とトランプ氏の「アメリカ・ファースト」政策が妨げられていると不満を伝えた。

情報筋によれば、メモはトランプ氏に届かず、反対勢力がルール違反とみなして止めていた。 疎外された理由の一つは、ナバロ氏がかつて民主党員であり、クリントン夫妻の支持を受けて連邦上院議員選に出馬したことがあったためである。

 2019年末、米中は第一段階の貿易協定に合意。中国は数百億ドル相当の農産物を追加購入し、知的財産権の保護措置に同意した。しかし、一部のタカ派はこの協定では中国にビジネスのやり方を改めさせるには弱すぎると批判する。

その後、ナバロ氏はテレビやネット番組に出演し、新協定には「数千億ドル相当の中国製品に対する関税が引き続き存在する」と強調し、この時点で、対中強硬姿勢がトランプ政権のコンセンサスとなり、ナバロ氏の地位はようやく安定した。

 トランプ政権の中で、ナバロ氏ほど粘り強い人物はいない。彼は、「大統領が必要としている限り、私はここにいる」と述べ、「私はこの街で次の仕事を探していない数少ない人間のうちの一人だ。私の関心は、ただ使命を全うすることにある」と語った。

しかし、特別な理由がなければ、彼は既にホワイトハウスの上級官僚に見捨てられていただろう。

その理由をバノン氏が明かした。「簡単な話だ。トランプ氏はいつも『私のピーターはどこだ?』と尋ねるからである」。確かに、トランプは強硬な通商政策が必要なとき、そう言う。他の誰に対してもそんな風に名前を口にすることはない。

2018年末、世界は米中のアルゼンチンでの会談に注目していた。中国側は何とかナバロ氏を外そうとしたが、トランプ氏はそれを退け、同行させた。トランプ氏がナバロ氏を信頼し、評価しているのは、「アメリカを救い、アメリカ人の仕事を取り戻す」という二人に共通する使命感からである。重要な局面では、彼らは常に一心同体で行動している。

最も早く中共の脅威を見抜いた経済学者

トランプ氏がアメリカを救おうとしたのは、彼の直感に基づいていたかもしれない。一方、経済学者ナバロ氏は、トランプ氏の心の内を完璧に表現できる熟練の画家のような存在であった。

2011年、カリフォルニア大学ビジネススクールのナバロ教授とグレッグ・オートリー教授は共著で『デス・バイ・チャイナ:アメリカはいかにして製造業基盤を失ったか』を出版した。この本では、中国共産党がアメリカ経済にもたらす脅威や、アジア経済を支配しようとする中国共産党の野心を、多くの事実に基づいて描写している。

トランプ氏はこの本を次のように評価している。「彼の論点は明確で、研究は徹底しており、非常に印象的だ。グローバル化がアメリカの労働者に与えた多大な損害を明確に描写し、中産階級にとっての明るい道筋を示している」 トランプ氏の元選挙マネージャー、コリー・ルワンドウスキー氏は、ナバロ氏の初めての印象を振り返り、「2015年秋、ニューヨークのタクシーの中で、中国についてナバロ氏が語るラジオ番組を聞き、「話し方がまるでトランプ氏そのものだと思った」と語っている。その後、ルワンドウスキー氏はナバロ氏に連絡を取り、ナバロ氏は協力を快諾した。

実際、二人は長年にわたり心を通わせてきた。『ニューヨーカー』誌によれば、ナバロ氏は2011年、トランプ氏が中国の新華社通信に、ナバロ氏の2006年の著書『中国は世界に復讐する』を気に入っていると述べたことを知った。この本は、中共がエネルギーや天然資源、環境、知的財産権などの問題で世界各国と対立するリスクについて論じたものである。二人は連絡を取り合い、トランプ氏が初の大統領選挙に出馬したときに初めて会った。

時に、誰よりも早く目覚めた人は孤独を感じるものである。ナバロ氏が中国への警告を訴えていたころ、アメリカのビジネス界やウォール街は、「親中ムード」一色で、「さぁ、中国進出だ」という声が至る所で上がっていた。そのため、ナバロ氏は長年、他の経済学者から批判されてきた。

例えばオバマ政権の大統領経済諮問委員会(CEA)委員長のジェイソン・ファーマン氏は、ナバロ氏を揶揄して「アメリカの経済の最大の問題も解決策も国内政策の中にある」と述べ、ナバロ氏の警告を過剰だと見なしていたのである。

しかし、ナバロ氏の見解はトランプ氏の共感を得た。トランプ氏は最初の任命時にナバロ氏を「先見の明がある経済学者」と称賛した。

著書『デス・バイ・チャイナ』で、ナバロ氏は「通貨操作」、「不公平な貿易政策」、「安全性に問題のある製品」の3つの観点から、中共の脅威を解説している。2001年に中共がWTOに加盟して以来、政府から補助金を受けた大量の中国製品がアメリカに流入した。その結果、アメリカでは5万7千の工場が閉鎖、2千5百万人が職を失った。アメリカ人労働者の最後の仕事は、「機械を解体して中国に送ることだった」とさえ言われている。製造業に関連する研究開発も移転し、大量失業の原因となった。

この書では、中共がアメリカ人の仕事を奪うために使用する8つの「武器」が挙げられている。

1、巧妙に設計された違法な輸出貿易補助金ネットワーク。

2、巧妙に操作され、大幅に過小評価された通貨切り下げ。

3、露骨な模倣、海賊版の作成、そしてアメリカの知的財産の窃盗。

4、生産コストのわずかな優位性を得るために、中共は短期的視点で大規模に環境を破壊する。

5、国際基準をはるかに下回る極端に低い労働者の健康基準と安全基準により、多くの労働者がじん肺、手足の障害、各種のがんを患っている。

6、不正な関税や輸出制限を使って、世界の金属産業や重工業を支配しようとする戦略。

7、略奪的な価格設定やダンピングによって、海外の競争相手を市場から追い出し、その後独占的な価格で消費者を欺く価格戦略。

8、「貿易保護主義の万里の長城」として、外国企業が中国に進出するのを妨げる政策。

この本は後に同名のドキュメンタリー『Death by China(デス・バイ・チャイナ)』として制作され、皆さんが今見ているのは新唐人テレビの中国語版である。

宣伝ページには、トランプ氏の推薦の言葉が記されている。「一言で言うと、このドキュメンタリーは、事実、データ、洞察を通じ我々と中国の問題を描いている。早速見ることをお勧めする」

ナバロ氏は、自身の強い信念や「知己のために死す」「君は私を国士として待遇してくれた、私も国士として報いる」という心理から、トランプ氏退任後の激しい攻撃の中、トランプ支持を続けた。2023年、トランプ氏を非難する証言を拒んだため、「議会侮辱罪」で有罪判決を受け、2024年1月に4か月の懲役を言い渡された。ナバロ氏はFBIによる逮捕時に足かせをはめられ、かつて、レーガン大統領暗殺の容疑者が収監されていた牢獄に入れられるという扱いを受けたことを批判している。

しかし彼は何の不満も後悔もなく、今年7月17日の出獄当日には共和党全国代表大会に参加し、「私が刑務所に入ったので、皆さんは入らなくて済んだ」「J6委員会はトランプを裏切って自分の命を守るよう私に要求したが拒否した」と述べた。

これが私がナバロ氏を尊敬する理由の一つである:心の中の正義のために、何も恐れない姿勢。彼の品格は聖人に匹敵する。

新任期のナバロ氏の影響大:人権、ウイルス、台湾

では、トランプ氏の新しい任期において、ナバロ氏は世界にどのような変化をもたらすのであろうか?

ナバロ氏は関税や貿易の分野で公式な役割を果たすことになるが、彼の強い信念と粘り強い性格により、他の分野でも影響力を持つだろう。これには地政学、中国の人権問題、ウイルスの起源追及、金融戦争、さらには中国共産党の解体を推進することも含まれている。

第一に、ナバロ氏は貿易赤字削減を強く支持する立場であり、ドイツや中共の通貨操作を非難する。

貿易赤字をアメリカにとっての大災害と見なし、アメリカ製造業の復活を重要視する。これは高関税政策や貿易戦争を推進する要因となるだろう。中共に対しては金融戦争に発展する可能性もある。

第二に、地政学の観点から、世界中で中共の包囲を進め、台湾防衛を支持する。

ナバロ氏の視野は非常に広く、『デス・バイ・チャイナ』や『中国は世界に復讐する』では、「米中戦争になれば、台湾が戦略的な鍵になる」と述べている。米中戦争が起きた場合、アメリカは非対称戦術を採用し、「目には目を歯には歯を」の戦略を取るべきである。これには台湾を経由する第一列島線のチョークポイントに潜水艦を配備することも含まれる。

第三に、人権問題で、中共の悪行を暴露する。

『デス・バイ・チャイナ』では、「真・善・忍」の教えを信じる法輪功学習者への迫害を厳しく非難し、中共が学習者の臓器を強制摘出する行為や強制労働を批判している。トランプ次期政権の国務長官ルビオ上院議員は、上院版の『法輪功保護法案』の発起人で、強制臓器摘出の取り締まりを求めている。トランプ氏の新任期にこの法案が可決されトランプ氏が署名すれば、中共高官への制裁が強化されるだろう。

ナバロ氏とグレッグ・オートリー氏は中国を深く愛しており、著書『デス・バイ・チャイナ』の結びで、彼らが反対しているのは中国そのものではなく、中共であることを強調している。彼らは中国文化を愛し、多くの中国人と友好な関係を築いている。

この本の扉には、「すべての中国の友人たちに捧げる。いつの日か彼らが自由に生きられることを願って。その日が来るまで、どうかご無事で!」と書かれている。

第四に、ウイルス起源追及と賠償請求である。

ナバロ氏は、中共が新型コロナを全世界に拡散したことを非難し、ウイルス起源を調査し賠償請求するべきであると主張している。

最近、12月2日にアメリカ下院の特別委員会が2年間の調査を経て520ページの報告書を公表し、ウイルスが武漢のウイルス研究所から漏洩した可能性が非常に高いと指摘している。アメリカでは数百万人の命が失われ、18兆ドル(約2775兆1910億円)の損失が生じている。トランプ氏が再び就任した後、中共を許すことがあるだろうか?

もちろん、これで終わりではなくもっとあるだろう。すでに苦境にある中共が、新たな強力な攻撃に直面して、どれだけ持ちこたえられるのか注目される。

秦鵬
時事評論家。自身の動画番組「秦鵬政経観察」で国際情勢、米中の政治・経済分野を解説。中国清華大学MBA取得。長年、企業コンサルタントを務めた。米政府系放送局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)、新唐人テレビ(NTD)などにも評論家として出演。 新興プラットフォーム「乾淨世界(Ganjing World)」個人ページに多数動画掲載。
関連特集: 百家評論