寛容な心に涙した泥棒

東漢の時代、名士・陳寔(ちんしょく)は自分を厳しく律し、機会を見つけては自ら手本を示し、子供たちを教育していた。

大洪水に見舞われた年、多くの村は深刻な被害に遭った。田んぼが流され、大勢の人が飢饉に見舞われ、流民が溢れた。やがて動乱の世となり、盗人が横行した。

ある夜、陳氏宅に入った泥棒は人の気配を察すると、とっさに大黒柱に登り、大梁(おおばり)にへばりついて身を隠した。

その時、部屋の奥から出てきた陳氏は偶然、天井の隙間から服の裾がのぞいているのを見つけた。陳氏は泥棒がいることをすぐに見抜いたが、捕まえようとはせずに、子供たちを集めた。全員が揃ってから、陳氏は厳しい口調で言った。「子供たちよ、よく聞きなさい。いかなる時でも、高尚な品格をなくしてはならない。如何なる口実があっても、決して不道徳なことをし、悪の道に染まってはならない。分かるかな?」「生まれつきの悪人はいない。しかし、己を厳しく律しなければ、徐々に悪い習慣を身に付け、悪人になってしまうものだ。まさに大梁にいる者がそうではないか。決して一時の貧しさから志を失ってはならない」と、まるで泥棒にも言い聞かせるかのように、子供たちに話した。

陳氏の言葉を聞いた泥棒は驚き、すぐに大梁から降りてきた。「あなたの仰る通りです。私は過ちを犯しました。二度と同じ過ちを繰り返しません。どうかお許しください」と泥棒は陳氏に土下座をし、謝罪した。

陳氏は、「あなたは悪人には見えません。きっと、貧しい生活に追い詰められたのでしょう。まだ改めることはできます」と諭し、さらに、数反の絹の織物を泥棒に贈った。泥棒は涙を流して頭を垂れた。その後、この地区では泥棒が出たという話を聞かなくなったという。

(翻訳編集・潤)