2015年のノーベル生理学・医学賞に中国中医科学院(北京)の研究者、屠呦呦(とゆうゆう)さん(女性、84歳)が共同受賞者の一人として選ばれた。1970年代のマラリア治療薬「アルテミシニン」(中国名は青蒿素)の発見に対する貢献度が評価されての受賞となった。中国で生まれ、中国で研究を続けた科学者が授賞する初めての自然科学系ノーベル賞である。これは、「中国伝統医学から生まれた初めてのノーベル医学賞」と言えるだろう。
伝統医学の宝庫
2015年12月7日、屠さんはスウェーデンのカロリンスカ医科大学で「青蒿素の発見 伝統中医学から世界に与えた贈り物」という演題で行われた講演の中で、次のように述べた。「中国の伝統医薬学は“偉大な宝庫”と呼べるもので、青蒿素はこの宝庫から発掘されました。大自然は大量に植物資源を提供してくれます。その恵みによって、我々医薬学研究者は新薬を開発できるのです。中国の伝統医薬学は『神農』が自らの身体で様々な薬の効能を確認したのを始めとして、数千年の歴史の中で大量の臨床経験が蓄積され、自然資源の薬用価値が既にある程度整理されている状態です。その為、医薬学研究者がそれらを継承して発揚させ、更に深く発掘すれば、必ず新しい発見が得られるのです。こういった発見は、人類に更なる恵みをもたらすでしょう」
研究のきっかけ
ベトナム戦争勃発当時、マラリアに対する有効な治療薬はまだ発見されていなかった。戦争中にマラリアに罹患する兵士が続出したため、1967年5月23日、中国は同盟関係にあった北ベトナムの医療支援を目的として、新型のマラリア治療薬を開発する国家プロジェクトを立ち上げた。発足した月日に因んで「523プロジェクト」と命名されたこのプロジェクトには、60の研究機関と500余名の研究者が参加した。屠さんはこのプロジェクトの一員として、漢方生薬からマラリア新型治療薬を開発するチームを率いていた。
青蒿素の発見
屠さんの研究チームは、漢方古典や各地の有名な漢方医の元を訪ねて集めた膨大な資料の中から、青蒿(せいこう、カワラニンジン)の抗マラリア効果に注目した。様々な方法で青蒿から有効成分を抽出し、実験を重ねたが、期待する程の効果はなかなか得られなかった。研究が頓挫しかけた時、屠さんは再度、『肘後備急方』を読み直した。この書は晋代の葛洪(紀元前283~364年)が著したもので、青蒿を使ったマラリア治療法の初出書である。書を読み直していると、「青蒿を一握り、2升(360ml)の水の中に浸け、その汁を絞って飲む」という文言に目が止まった。青蒿を加熱せずに使用するというのだ。これまでの実験では熱湯で抽出を行なったために熱が有効成分を破壊してしまい、効果が得られなかったのだ。屠さんは、エーテルを用いた低温での有効成分の抽出方法を考案した。これが見事に的中し、抽出した有効成分を使って行ったマウスとサルの動物実験で、100%の有効性が得られた。その後も全国の研究チームとともに大量の臨床研究を重ね、ついに抗マラリアの新薬、青蒿素(アルテミシニン)を完成させた。以来数十年、この新しい抗マラリア薬は世界中で、特に発展途上国でよく使われ、数百万人の命を救っている。
(翻訳編集・東方)
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