『黄帝内経』が示す丙午年は「水と火がぶつかる年」――養生の落とし穴に注意

中医学では「上医は未病を治す(病気になる前に整える)」と言われ、昔から養生による予防がとても重視されてきました。その前提にあるのが、「自然(天)と人は一体」という世界観です。だから本当の養生をするには、まずその年の気候の大きな流れをつかみ、それを人の体に当てはめて、先回りして備えることが大切になります。何が起こりやすいかを把握しておけば、慌てずにすみますし、対策もしやすくなります。

こうした知識は、『黄帝内経』にとても詳しく書かれています。干支によって、その年の特徴や注意点を読み取れるようになっていて、毎年の養生法や病気の防ぎ方を知る手がかりになります。

中でも「大寒」は、一年でいちばん冷えが強まり、同時に次の流れへ静かに切り替わっていく大きな節目です。ここを区切りとして(2026年の大寒は1月20日)、今年の丙午年の「運気の背景」を見ていくことは、一年を通した体調の傾向をつかみ、養生の勘違いを避けるうえでとても重要です。

『黄帝内経・六元正紀大論』には、丙午年の気候と病気について、はっきりした記述があります。ここはぜひ丁寧に味わってみたいところです。

丙午年についての『黄帝内経』原文2つを押さえる

原文①

「丙午、其运寒、其化凝惨栗冽;其变冰雪霜雹,其病寒下」

要約

丙午の年は、その年全体を支配する「年運」が冷たい水の気に偏ります。寒さの働きは、固まる、縮こまる、冷えが刺さるように強い、といった形で出やすく、自然界では、氷雪や霜、雹など、冷えの強い異常気象が起きやすくなります。人の体では、下半身が冷えるタイプの不調が出やすく、とくに腎や、お腹の中心より下に影響しやすい、ということです。

原文②

「凡此少阴司天之政…寒交暑,热加燥,云驰雨府,湿化乃行,时雨乃降…水火寒热持于气交,而为病始也。热病生于上,清病生于下,寒热凌犯而争于中,民病咳喘,血溢血泄,鼽嚏目赤,眦疡,寒厥入胃,心痛、腰痛、腹大、嗌干、肿上」

要約

少陰の気が「司天」、つまり上半期の気候を主導する年では、寒さと暑さが入り混じり、暑さに乾燥が重なり、雨が増えて湿気が動きやすくなる、といった気候の特徴が出ます。ここでいう少陰司天は、君火(心に関わる火の気)が上半期の気候に強く関わる、という意味です(午の年は『黄帝内経』で君火が上半期を司る年とされます)。心は「君主の官」と呼ばれ、五行では火に属するため、君火は心の働きとつながり、心の機能にも影響しやすく、心の火が強くなりやすい、ということです。

そしてこの年は、水(寒さで内へ・下へ閉じる力)と火(熱で上へ・外へ広がる力)が、天地の交わるところでぶつかり合います。水と火がうまく噛み合わず、引っ張り合っている状態から、病気が始まりやすい、と『黄帝内経』は述べています。

熱っぽい不調は体の上のほうに出やすく、冷えの不調は下のほうに出やすくなります。寒さと熱さが互いにぶつかり、中腹でせめぎ合うため、咳や息苦しさ、鼻血、出血を伴う下痢、くしゃみ、目の充血、目尻のただれなどが起きやすい。また寒さが逆流して胃に入り込むと、胸(心)の痛み、腰痛、お腹の張り、のどの乾きや腫れなどが出ることがある、という意味です。
 

丙午年の体の「大きな流れ」

上の記述から、丙午年にははっきりした特徴が見えてきます。

まず、年運は冷たい水の気が強すぎる年です。冷たい水の気は「閉じる・しまい込む」性質が強く、体の中心より下の働きが固まりやすくなります。その結果、脾胃(消化の力)が落ちやすく、腎の陽気が抑えられ、体の中に冷えと湿気がたまりやすくなります。

一方で、上半期は君火(少陰)が強く働くため、体の上のほう、とくに心の火が強くなりやすい傾向があります。

そのため起こりやすいのは、次のような「ねじれた形」です。下は腎が冷えやすい/真ん中は胃腸の流れが滞りやすい/上は心肺の熱がこもりやすい。

冷たい水の気が強いと、肺が司る皮膚や毛穴は閉じやすくなります。本来なら外へ抜けたい心の火が、上にこもってしまい、下へ降りて腎を温めることもできず、表面へ発散することも難しくなります。水と火が助け合うのではなく、ぶつかり合うようになり、体が弱い人ほど「上は熱いのに下は冷える」「中は冷えがあるのに外は熱っぽい」「心と腎がうまく連携しない」といった状態になりやすい、というわけです。

そのため丙午年は、たとえば上半身に、ほてり、動悸、不眠、イライラ、口の渇き、目の赤み、鼻血、のどの痛みが出やすい一方で、同時に、冷えやすい、下痢しやすい、腰や膝が冷えてだるい、食欲が落ちる、といった症状も起こりやすくなります。少し油断すると、いわゆる「熱中症っぽい」めまい、頭の張り、胸のつかえなどが出ることもあります。

これは単純に「火が強い」からでも、「冷えが強い」からでもなく、体の流れが滞り、水と火がうまく行き来できないことによって起こる事です。ここがわかっていれば、食事や生活の整え方も先回りして考えられます。ただし、いくつかよくある落とし穴には注意が必要です。
 

丙午年に陥りやすい養生の落とし穴

落とし穴①:上のほてりを見ると、とにかく冷やしてしまう

これは今年いちばん危険で、しかも起こりやすい勘違いです。口が渇く、のどが痛い、イライラする、ニキビが出る、鼻血が出るなどがあると、「火が強いんだ」と決めつけて、冷たい果物をたくさん食べる、年中冷たいドリンクを飲む、冷たいお茶に頼る、苦くて冷やすものばかり取る、という行動になりがちです。結果として、かえって症状が悪化します。

丙午年の問題は「火だけが強すぎる」ことではなく、下は冷えが強く、上は熱がこもりやすい、という形です。冷やすものは短期的には上の熱を抑えられますし、熱が危険なときの緊急対応として必要な場面もあります。ですが、それを長く続けると、脾胃の陽気や腎の陽気をさらに傷め、下がもっと冷え、真ん中も弱り、体の流れが回らなくなります。そうなると火は下へ降りられず、上にさらに浮きやすくなります。結果として、冷やせば冷やすほど体質は弱り、ほてりは繰り返しやすくなる、という悪循環になってしまいます。

落とし穴②:通りを作らず、補うことだけに偏ってしまう

もう一つのタイプは、冷えや下痢、疲れを感じると、急に「補わなきゃ」と思って、温める補いものを多用したり、補腎・強壮系のものをむやみに取ったりして、胃腸の働きや体の流れを無視してしまうことです。君火がこもりやすい年に「補うだけ」で「通すこと」をしないのは、火に油を注ぐようなものです。胸のつかえ、イライラ、不眠、夢が多い、血圧の乱れ、頭の張り、目の赤みなどが出やすくなります。

落とし穴③:生活リズムの乱れで、こもった火をさらに増やしてしまう

丙午年は君火が強めなので、夜ふかし、感情のアップダウン、考えすぎ・脳の使いすぎは、心の火を直接あおりやすく、「上の熱」を強めます。その一方で、下の陽気は養われず、上下のアンバランスが広がりやすくなります。
 

体質別に、とくに注意したいポイント

脾胃虚寒タイプ(胃腸が冷えやすく弱い)

生の果物、冷たい飲み物、長期の「清火(熱取り)」が最も苦手です。まずは温かく、うるおいのある食べ方で、胃腸を立て直すのが先です。ハトムギや赤小豆を混ぜた雑穀ごはんなどが向きます。

腎陽不足タイプ(下半身が冷えやすい・力が出にくい)

腰の冷え、夜間の尿、だるさが出やすい一方で、上は熱っぽく見える「虚熱」のサインが出ることもあります。ポイントは「温めるけれど乾かしすぎない」「通すけれど下しすぎない」です。黒豆とごぼう、鶏肉などを合わせて、雑炊や炊き込み、スープにするのも一つの方法です。

心火が強めタイプ(イライラ・不眠・口内炎などが出やすい)

ゴーヤや緑茶のような、苦みがあって熱を冷ますものは役立ちますが、それだけに頼るのはおすすめできません。百合根、蓮の実などを組み合わせて、火を下へ導き、心と腎のつながりを助ける考え方が必要です。

湿が真ん中にたまりやすいタイプ(舌苔が厚い・食後にだるさを感じる)

こってりしたものと冷たいものを一緒に取るのは避けたいところです。まずは湿をさばき、気を巡らせることが先です。大根、陳皮、紫蘇、赤小豆、ハトムギなどが目安になります。
 

丙午年の「正しい食事養生」の考え方

一言でいうと、今年の基本は「ひたすら熱を冷ます」ではなく、体の流れを整えて、全体をなじませることです。

食事は、温かく、うるおいがあり、刺激が強すぎないもの、そして加熱したものを中心にします。少しだけ辛温で気を巡らせてもいいですが、乾いて強い刺激は避けます。胃腸を助け、湿をさばき、真ん中(中焦)が動くようにして、体の流れを回します。さらに、生活リズムや気持ちの整え方も合わせて、心の火が下へ降り、腎の水が上へ支えられるようにして、水と火が助け合う状態を目指します。

真ん中が動き出して、水と火が行き来できるようになれば、上のこもった熱は自然に抜けやすくなり、下の冷えも変わっていく余地が生まれます。
 

結び

『黄帝内経』が示す丙午年は、単に「上の火が強い年」ではありません。寒さと熱さが入り混じり、上下のバランスが崩れやすく、養生を間違えやすい年です。

大切なのは、流行りの「熱取り」に走ったり、むやみに補ったりすることではなく、自然の流れを見極め、その偏りを理解し、乱れを整えることです。これがわかれば、養生の落とし穴を避け、根本を傷めずに、寒熱がぶつかり合いやすい一年の中でも、自分の元気を守っていけます。

(翻訳校正 華山律)

白玉煕
文化面担当の編集者。中国の古典的な医療や漢方に深い見識があり、『黄帝内経』や『傷寒論』、『神農本草経』などの古文書を研究している。人体は小さな宇宙であるという中国古来の理論に基づき、漢方の奥深さをわかりやすく伝えている。