中国農村部の子ども半数、知能発達に遅れ=米スタンフォード大研究
中国貴州省安順市にある、人里離れた小さな農村。羅(ルオ)家の幼い四人きょうだいは、自分たちで食事を作り、洗濯し、飼牛の世話をする。両親は都市へ出稼ぎに出ており、祖父母は一日中、畑仕事に忙しい。家から離れた小学校に通ってはいるが、ほとんど大人の監護を受けることなく暮らしている。地方の貧困家庭に生まれ、親と離れて暮らす留守児童だ。
科学誌『サイエンス』によると、農村と教育について研究するカリフォルニア州スタンフォード大学教授スコット・ロゼル教授らの研究グループは30年来、中国で調査を進めている。多くの農村部の子どもは健康上に問題があり、約半数には知的発達遅滞の疑いがある。農村部出身の児童は、3割以上が中学校に進学せず、IQが90を下回る。彼らは、電子化が著しく進む中国現代社会において「認知障害」とみなされる恐れがあるという。
また、中国の人口の3分1は、幼少期に精神衛生や教育環境で、大人に保護されていない孤独、児童労働など、脳の成長と発達を阻害する要因に置かれているとした。
中国政府は、世界の製造大国としての地位を築くことを目標に掲げる『中国製造2025』のように、ハイテク技術と電子機器製造で世界の市場占有率の拡大を狙うが「実は中国は人的資源に乏しい国だ」と、ロゼル教授は指摘する。
発展途上初期の中国ならば、生活に大きな支障は生じなかった。文化大革命で教育を受けていない現代の中高年層は、単純労働の工場作業員や、各地で農業従事者になり生計を立てた。
11歳、10歳、8歳、5歳の羅家の四人きょうだいは、ときに祖父母の農業も手伝う。年長の11歳と10歳の二人は、細身の身体より大きな籠を背負って山を越え畑に行き、農作物を収穫する。文革の最中に生きた祖父母世代は、識字率が低く、家庭教育は施せない。農村部では、時に少年少女が幼い兄弟をおんぶして学校に通う姿がみられる。
中国の都市人口は著しく増大しているが、農村人口は減少し、多くは貧困にあえいでいる。世界銀行によると、農村部の7000万人以上の人々が、1日1ドル以下で生計を立てている。
2010年の中国国勢調査によると、中国の働く世代76%が高校に通っていない。農村と都市格差も大きい。同調査では、都市部出身者は37%、農村部出身者は8%しか高等教育を受けていない。農村部の一人当たりの所得は、2017年前半で平均月1090元(約1.8万円)であったのに対し、都市部は月3050元(5万円)だった。
親不在の心的ストレス 成長阻害要因に
子供たちの成長発達を遅らせる要因の一つは、両親の不在による孤独感と長期的な精神的ストレスだとの声もある。安徽省、河南省、四川省などの一部の地域では、44%の子どもが両親がそばにいない環境で暮らしている。
中国では戸籍制度により、子供たちは出生地の学校でなければ通うことができない。そのため、両親の出稼ぎ先についていっても、その都市の小学校に入学する権利はない。
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南アフリカのウィットウォーターズランド大学の発達心理学者リンダ・リヒター教授は、赤ちゃんは生後1000日の発達環境で、その後の教育成果と成人後の心身健康に重要な影響をもたらすとしている。「例えば、早期の栄養失調、幼児期に心身のケアが怠っていた場合、生涯にわたる認知障害を残す可能性がある」という。
ロゼル教授の研究チームは2014年から、中国農村部で0~3歳のIQを調査している。同様な研究は今まで行われていない。陝西省、河北省、雲南省の農村部の18~30ヶ月の乳幼児のうち、45~53%が正常水準のIQ85以下であることが分かった。今年の夏、北京、河南省、陝西省でも同じ調査を行ったが、結果に大きな違いは見られなかった。
中国当局は2020年までに貧困を「撲滅」するとの目標を達成しようとしているが、国内移住を制限する戸籍制度、住宅購入を制限する制度、農村地の貧困層への教育と医療支援の不足など、課題が山積している。
ロゼル教授は2006年、中国農村部と教育についての研究チーム「REAP」を立ち上げ、地方における発達教育を調査している。スタンフォード大学をはじめ北京大学や北京中国農業政策センターなど、中国のパートナーとも提携している。中国政府は海外拠点のNGO組織に対して過剰な監視を行うため、これを避けるために、REAPが学術団体であることを、ロゼル教授は強調している。
(翻訳編集・佐渡道世)