焦点:見過ごされる飛行機内の性被害、航空各社は対策を

Jamie Freed Aditi Shah

[シンガポール/ニューデリー 14日 ロイター] – インド映画界「ボリウッド」の17歳の女優が今週、飛行機に乗っていてわいせつ行為の被害にあったとソーシャルメディアで訴えた際、航空業界は不意を突かれたように見えた。

彼女の訴えはネット上で大きな怒りを呼び、警察が異例の捜査に乗り出した。ビスタラ航空の国内線でわいせつ行為をしたと訴えられた男は、訴えを否定している。

この事件の直前には、フェイスブックのザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)の姉で、シリコンバレーの企業幹部であるランディさんが、アラスカ航空<ALK.N>の機内でセクシャルハラスメントの被害にあったとソーシャルメディア上で訴えたばかりだ。

航空会社側は、被害が表ざたになり、批判を受けてから対応するこれまでの姿勢を改める必要がある。

「これは世界的な問題で、各国がそれぞれ対応を取らなければならない。ソーシャルメディアでの訴えを受けて受動的に対応するより、乗客の懸念に応える体制を取っておけば、よりリアルタイムで問題に対処できる」と、ロンドンを拠点とする民間コンサル会社戦略航空リサーチのアナリスト、サージ・アハマド氏は指摘する。

航空機内での乗客や乗務員に対する性的な不適切行為について、ロイターが各航空会社や乗務員組合、航空訓練業者に取材したところ、その大半は、被害のほとんどが届けられていないと語った。

国際航空運送協会(IATA)によると、昨年各航空会社から報告があった「性的に不適切な行為」は、計211件だった。これは、約38億人に上る乗客総数と、フライト4000万便を分母にした数字だ。

IATAの声明によると、このうち当局に通報されたのは半数以下だという。事件化される件数が少ないのはこのためだ。

「被害者に告訴の義務がある。航空会社が代行することはできない。通報件数は、被害件数より少ないとみられる」と、米客室乗務員協会の広報担当者テイラー・ガーランド氏は言う。

アジア太平洋航空会社協会のアンドリュー・ハードマン事務局長は、IATAのデータは慎重に見る必要があると指摘する。

「報告事案の内容には必ずしも基準があるわけではなく、各社が自主的に報告するレベルには大きな差がある」と、ハードマン氏は言う。「セクハラが絡む案件には、言葉による嫌がらせから実際に体に触れるわいせつ行為までさまざまだ。わいせつ行為の件数は比較的少ないが、常に重く受け止められている」

<恥の文化>

ロイターが取材した主要航空会社20社以上のうち、フライト中のセクハラ事件の件数を公表したのは、日本航空<9201.T>だけだった。年間10─20件で、警察に通報することもあるという。

マレーシアの格安航空会社(LCC)エアアジア <AIRA.KL>のスハイラ・ハッサン氏は、乗客間のハラスメントの報告はこれまでないものの、乗務員がハラスメント被害に遭うことは時々あると話す。

航空会社側に通報されない案件もいくつかあると考えらえる、とハッサン氏は語る。「文化のせいだと思う。表ざたになるのを恥ずかしがる人は多い」

この指摘は、職場でのセクハラの75%が報告されていないという米国での研究とも合致している。

アジアでは、セクハラを公に議論する文化が比較的弱い。

「人々が一般的にあまり声を上げない文化だと思う。被害者は、沈黙の中で苦しんでいる」と、シンガポール航空<SIAL.SI>の元乗務員で、今ではアジアや中東で乗務員訓練のコンサルティングを行うジェイソン・タン氏は言う。

ジェット航空<JET.NS>の元乗務員のエルザマリー・ダシルバ氏は、現在はセクハラや性的被害の事案をクラウド収集するサイトを運営している。同氏は、インドでは、被害に遭ったことを恥と感じる人が多く、被害者側が訴えた内容を証明しなければならないため、通報件数が少ないという。

「インドの航空業界は、もっと事態を重く見るべきだ」と、同氏は話す。

<乗務員訓練>

 

大半の航空会社は、暴力やわいせつ行為から、言葉での脅迫や航空機器へのいたずらまで、さまざまな種類の「手におえない乗客案件」に対応する訓練を実施している。

「乗務員は、こうした事案に対応する訓練を受けているが、一定限度までだ」と、航空関係の保安訓練会社グリーンライトのフィリップ・バウム氏は言う。

「世界で行われているほとんどの乗務員保安訓練は、1日で終わる。2日かかることもある。想定される事態はあまりに多様で、あらゆる種類の手におえない乗客を想定してやったら、1週間かかってもおかしくない」

IATAによると、昨年報告があった「手におえない乗客」案件約1万件の約3分の1が、飲酒がらみだった。不適切な性的行為は、わずか2%だ。

「そのような案件は少ないが、われわれの乗務員は危険な事態に対処できるよう、よく訓練されている」と、欧州LCCイージージェット<EZJ.L>の広報担当者は話す。

アメリカン航空<AAL.O>は最近、ダイバーシティ対策の一環で、セクハラ案件の特別訓練を導入することを決めたと、同社の広報担当者は話した。詳細には言及しなかった。

ユナイテッド航空<UAL.N>のムニョスCEOは今週、社員向けサイトに声明を出し、社員9万人以上に対して、乗客やスタッフによるセクハラ案件には「ゼロ・トレランス(違反事案に容赦しない)」方針を表明した。新たな訓練などには言及しなかった。

米客室乗務員協会が今年実施した調査によると、調査に回答した乗務員の5分の1が、フライト中に乗客による別の乗客に対する性的に不適切な行為を目撃していた。

同協会は、乗客の性的不適切行為に関するポリシーが十分に強調されていないとして懸念を表明。調査対象の半分以上が、こうしたポリシーの内容を知らないと回答した。

インドでも状況は同じだ、とニューデリーを拠点とする弁護士のSatvik Varma氏は言う。「規制が足りない訳ではない。規制の実践と、規制についての知識不足が問題になっているのだ」

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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