中国人に人気の高いリゾートアイランド、韓国済州島。火山で形成された希少な地形が評価され、2007年に同国で初めてユネスコ世界自然遺産に登録された。2017年、1500万人/年が来島し、島の人口に対して25倍もの訪問客が訪れる(Shutterstock)
5000人来島の大型クルーズ船誘致

世界遺産登録の見送り、奄美住民「よかった」多すぎる観光客に懸念

「2020年までに訪日客4000万人」を掲げる日本政府は、外国人観光客を歓迎する姿勢を示す。沖縄・奄美群島はこのたび、ユネスコ世界遺産の登録が見送られたが、政府はユネスコから指摘された問題点を受けて、自然保護、観光計画の改善へと動いている。外務省が発表した2018年度の年次外交青書でも「地方の魅力を発信すべく多くの外国人観光客、対内投資などの誘致に取り組む」と明記した。

いっぽう、人々の暮らしと観光業には、相性の悪い点が多々ある。たとえば、ユネスコ世界自然遺産に登録(2007年)された景勝地であり、リゾートアイランド化した韓国済州島の住民は、増えすぎた中国人観光客に悩まされている。

参考:野心的な中国クルーズ観光 世界大手ロイヤルカリビアン国際の副社長は中国人

韓国英字紙コリア・タイムス2018年1月4日付は、済州島の状況を報じた。島の人口66万人に対して国内外で年間1500万人もの観光客が訪れる。現在は、外国人観光客のうち8割以上が中国人。済州島は数十年にわたり、韓国の観光拠点として高級ホテルやリゾート施設が開発されてきた。

しかし、離島の設備維持には本土と比較して数倍の費用がかかり、大量のゴミの処理、騒音、交通渋滞は常態化した。地下水の枯渇で、生活用水が維持できない危機に陥ると危惧されている。

上海の東500キロに位置し、「韓国のハワイ」と例えられる済州島。中国人観光客の増加を受けて、韓国政府は2015年、済州島内に第2の国際空港を建設する計画を打ち出し、2035年には現在の3倍の訪問客4500万人を目標に掲げた。

中国人のリゾート不動産購入も多く、2016年は前年比7%増と韓国内で最大の上げ幅を記録。2017年3月在韓米軍のミサイル防衛システム(THAAD)による中国側の韓国旅行規制で、一時は冷え込んだが、中国人富豪で投資家のYang Zhihui氏は、18億ドルを投じて済州島に建設した複合リゾート施設「神話リゾート」を2017年4月にオープンさせた。2018年2月には新たに外国人向け大型カジノ施設を開いた。

神話リゾートは、ホテル4つ、ショッピングモール、40のレストランなど構え、東京ディズニーランドの5倍の面積を有する。運営会社はYang氏がCEOを務める中国不動産会社ランディング・インターナショナル・デベロップメント・リミテッド(Landing International Development Limited)。

中国人に人気の高いリゾート島、韓国済州島に、2018年2月にオープンした大型カジノ施設「神話ワールド」運営会社は中国不動産会社ランディング・インターナショナル・デベロップメント・リミテッド(Landing International Development Limited)CEOは投資家でもあるYang Zhihui氏。既存の神話リゾートが、アミューズメントゾーンを拡大させた(イメージ図、神話ワールド)

現地住民は数年前から、島の生活や環境維持の能力をオーバーした大量の観光客受け入れは困難だとして、反対運動を起こしている。「すでに外から来た人々に島の環境はひどく汚され、元通りにはならないレベルだ。住民はどこにでもあふれる大勢の訪問客と騒音、ゴミにより、大変なストレスを抱えている」と、反対運動を行う団体の代表カン・ウォンボ氏はコリア・タイムスに語っている。

THAAD配備で中国共産党政府が中国人の韓国観光ツアーを一時全面停止させたため、来島客は激減。カン代表によると、このアクシデントを島民は「歓迎していた」という。

済州島の観光経済はどうなっているのか。実は「中国人による中国人のための中国式ビジネス」が現地で展開されているという。中国英字紙サウスチャイナ・モーニングポストによると、済州島を訪問する中国人観光客は中国旅行代理店のツアーを利用し、中国資本のレストラン、小売店舗に誘われている。

飲食店を営む島住民は「まるで島民は、世界の主要なホテルチェーンなど外国資本により、島の観光ビジネスから締め出されているかのようだ」と不満を述べた。

ユネスコ世界遺産登録見送り 奄美大島の住民「よかった」と安堵

参考:日本の離島と中国クルーズ観光 奄美35人集落に中国人5000人?大型クルーズ船誘致計画、国が検討

 

離島に暮らす住民の生活と行政の観光推進は、相性の悪い部分が多数ある。済州島における島民の声は、日本の奄美・沖縄群島でも似た声を聞いた。このたびの同地域世界自然遺産登録見送りについて、飲食店を営む奄美大島南部の住民(60代女性)は「大きな声では言えないけれど、登録されなくて良かった。多すぎる観光客で静かな暮らしが壊されるのは嫌」と述べた。

クルーズ船を受け入れるなどして大型の観光地化が進む沖縄県宮古島市では4月27日~5月1日、伊良部島で原因不明の断水が発生。下地敏彦市長は5月15日の会見で、断水の原因は水道使用量の増加に加えて、一部水道施設の損傷だと述べた。宮古島毎日新聞によると、リゾート施設の建設に伴い住民から水圧低下への懸念の声が挙がっていた。水道局は、リゾート地と集落への配水管を分けるなどして対応する方針だという。

今後のユネスコ世界遺産登録次第では、沖縄・奄美群島は韓国の済州島のようにリゾートアイランド化される可能性もある。ユネスコ世界遺産委員会に対する諮問機関IUCNの調査報告を受けて、政府は、指摘された問題点など自然保護と観光環境の改善に動く。

IUCNの報告書には、奄美大島のクルーズ船誘致に関する日本政府の見方が示されている。それによれば、政府は、寄港の候補地調査の結果をIUCNに提供したが、具体的な場所は決めておらず「将来においても開発計画はない」と言明したという。国土交通省に再度見解を聞いたが、回答は得られなかった。

国土交通省が2018年2月までに選定した国際クルーズ寄港地7港で、世界クルーズ大手ロイヤルカリビアン・インターナショナル(RCI)による投資が予定されているのは鹿児島県港(鹿児島県)、矢代港(熊本県)。この2港と島嶼開発とクルーズ船誘致の調査が行われた奄美大島の港湾開発は、別とみられる。

RCIアジア地域担当者は大紀元の取材に対して、「日本で予定されているロイヤルカリビアンによる港湾関連計画は、6月中旬ごろに発表される」と回答した。

(取材と文・佐渡道世)

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