災い転じて福となす―輸血を受けたことがきっかけで体質が変わり、多くの新生児を救うことになった男性がいます。
オーストラリア・シドニーに住むジェームス・ハリソンさん(James Harrison)が気管支拡張症を患い、片肺の摘出という大手術を受けたのは14歳の時。大量の輸血を受けて命が助かったハリソンさんは、恩返しとして18歳になってから献血を始めました。
特殊なタイプの血液
1966年、オーストラリアの血液バンクを調査していた医師は、ハリソンさんの血液が特殊であることに気づきました。彼の血液には、抗D抗体という極めて稀(まれ)なタンパク質が含まれていたのです。彼が14歳の時に受けた大量の輸血が原因だと思われました。
それまで、オーストラリアではHDN(血液型不適合妊娠)による流産が多く、医師たちはその予防法を研究していました。この疾患は、血液型がRH-(マイナス)の母親と、RH+(プラス)の父親が子を持つ時に発生しやすく、母体がRH+の子供に対して拒絶反応を示し、子供が流産するというもの。通常、RH+に対して免疫ができた母体が、二人目の子供を妊娠した時に発症します。
このHDNを防ぐと期待されたのが、ハリソンさんの血液に含まれていた抗D抗体。この成分を母体に注入すると、母体はお腹の赤ちゃんの赤血球を攻撃するタンパク質を生成しなくなるのです。
医師はハリソンさんの血液から、抗Dの溶液を生成することを提案。ハリソンさんは快く承諾し、1967年から今年まで、右腕から1163回、左腕から10回の献血を行いました。彼はいつも同じ腕から献血するため、「黄金の腕を持つ男」と呼ばれました。
現在81歳と高齢のため、今年5月に献血をストップしたハリソンさん。オーストラリア赤十字は、彼の献血により250万人の子供が助かったと推定しています。
「とても謙虚にさせられるような経験をしました。私の命が他の人を助け、自分を助けることにもなったのです。素晴らしい感覚です」と話すハリソンさん。
一方、医師たちは、ハリソンさんに代わって抗Dを生成できる他のドナーを探しています。
「(皆さんも)外に出て、腕をまくって、献血してください」とハリソンさんは呼びかけています。
(翻訳編集・郭丹丹)
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