老禅師、無言の教育

古人は 子どもを厳しく責めずに

昔、一人の老禅師がいた。ある日の夜、師が禅庭の中で散歩していたところ、寺院の塀ぎわにひとつの椅子が置かれているのを見つけた。寺院の戒律に背き、誰かが塀を乗り越えて出かけたことは、一目瞭然だった。老禅師は騒ぎ立てることなく静かに椅子を移動してその場所にしゃがんだ。

小一時間もすると、塀の外でなにやら物音が聞こえてきた。暗がりの中、一人の小坊主が、寺院の塀を乗り越えて、老禅師の背中を踏んで飛び降りた。その瞬間、自分が踏んだのは椅子ではなく、師であることに気がついた小坊主は、驚きのあまりその場に立ちすくんでしまった。師にとがめられ、処罰を受けることが一瞬頭をよぎった。

ところが、思いがけず師は彼を厳しく責めもせず、とても落ち着いていた。「深夜は冷えるので、早めにもう一着羽おったほうがいい」とその声は、とても優しかった。

(編集・望月 凛)

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