精巧に描かれた24の鳥や昆虫。スズメの親子のさえずりや、今すぐ飛び立ちそうなハチなど、優れた観察眼がうかがえる『写生珍禽図巻』は、五代十国時代(907~960年)の宮廷画家・黄筌(こうせん)が描いた。
絵の左下には「付子居宝習」という文字が小さく書かれてある。これは「息子の居宝に与え、練習させる」という意味だ。この精密な描写の画は、父親である黄筌が、息子のために描いた練習帳と考えられている。
黄筌は中国の五代十国時代(907~960年)の最も有名な宮廷画家であり、宮廷で40年間画家として勤めた。そして宋王朝時代(960~1279年)になってからは太宗皇帝に称賛された。宋王朝の最初の百年間、黄筌とその息子の作品は画家たちの手本として使われた。
宋王朝の『宣和画譜・卷十八』には次のような記述がある。「祖宗以来、図画院之較芸者、必以黄筌父子筆法為程序(太宗皇帝以降、宮廷画家は必ず黄筌親子の作品を模範とせよ)」
黄筌の作品は、皇帝から農民まで、幅広い層から称賛を得た。この『写生珍禽図巻』も例外ではなく、その見事な腕前と豊かな内容で世の人を感服させた。
絵に描かれている小動物や昆虫24匹は、宮廷で大切に飼育されているとされる。宮廷画家として、黄筌は彼らをじっくり観察できた。
構図はまとまりがないという批判がある。この批判はナンセンスだ。絵は練習帳であり、完成された作品ではない。鳥や虫を独立して描くことで、初心者にこれらの動物たちの描き方を身につけさせることが目的だ。黄筌の息子への思いが、その端書きからうかがえる。
この24匹の小動物は図鑑のように小さな絹に置かれ、混雑さを全く感じさせない。にぎやかさだけが伝わるようだ。教育熱心の父親・黄筌の努力は実り、息子の黄居宝氏と黄居采氏は彼の画風を継ぎ、花鳥画で宋王朝期の二大画家となった。
(文・鄭行之/翻訳・謝如初/看中国)
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