焦点:「米イラン危機」を打開できるか、独英仏が仲裁に奔走
Luke Baker John Irish Robin Emmott
[ロンドン/パリ/ブリュッセル 6日 ロイター] – 米国によるイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官殺害を受け、イランは核合意について破棄同然の宣言を行った。これに対しドイツ、英国、フランスはなんとか合意を維持しようと外交に奔走している。
イラン政府は5日、ウラン濃縮を無制限に進めると表明し、核合意からさらに逸脱した。しかし、イランは濃縮度をどこまで引き上げるか明言していない上、国連原子力機関(IAEA)の査察に協力することを確認した。EU高官らは、声明には明るい要素もあるとして、緊張緩和の余地を見いだしている。
一方、EUは10日に緊急外相理事会を開き、核合意維持に向けイランに圧力をかける方策についても協議する。国連による対イラン制裁の再発動につながる可能性もある。
欧州の高官は「核合意は死んだも同然だが、われわれは(核の)拡散スピードを抑えるために全力を尽くし、守るべきものは守るよう努力する」と話した。
ドイツ外務省の報道官は、核合意はまだ破棄されておらず、イランとの対話は続いていると指摘。「合意維持がわれわれの目標だ」と述べた。
<英独仏には事前通告なし>
2018年にトランプ米政権が一方的に核合意を離脱して以来、英仏独は仲裁役の立場に立たされ、イランに合意維持を説得する一方で、米国に向けてはイランにだまされないタフな同盟諸国ぶりをアピールしている。
イランがウラン濃縮宣言を行った後、メルケル独首相、マクロン仏首相、ジョンソン英首相の3人は共同声明で「差し迫った緊張緩和の必要性」を訴えた。
ソレイマニ司令官の殺害を受け、中東地域の緊張は過去10年以上なかったほど高まっており、仲裁は困難さを増している。
トランプ米大統領から司令官殺害の事前予告がなかっただけに、欧州側の憤まんはやる方ない。
核専門家は、イランの声明は交渉の余地を残すものだとみている。ウラン濃縮度を20%以上に引き上げるとの警告を見送った点と、IAEAの査察受け入れ継続を表明した点に希望が持てるという。イランは2015年の核合意前に20%の濃縮に成功した。20%を達成すると、核兵器級の90%の高濃縮ウラン製造が容易になる。
国際戦略研究所の核不拡散専門家、マーク・フィッツパトリック氏はイランの声明について「思ったより穏便で、交渉の余地を残している」と語る。ただ「イランが無制限のウラン濃縮を宣言した点は不吉だ。実際にどのような行動に出るか見極める必要がある」とした。
<イランとの対話余地も探る>
欧州の外交筋らは、武力衝突に向かうのを阻止するのが最優先課題だとしながらも、トランプ政権の予測不可能な行動を懸念する。また、核合意を守らせるためイランに差し出せる「アメ」が乏しいことも承知している。
フランスは過去に、米国の制裁による影響を和らげるためイランに与信枠を提供する可能性に言及した。また英独仏は人道物資や食糧の取引を目的とする決済制度を導入したが、1年を経ても実用化されていない。
イランが核合意を維持する上で本当に望んでいるのは制裁解除と石油の自由な輸出だが、それはかなえることができていない。ソレイマニ司令官の殺害で、可能性はさらに遠のいたようだ。
選択を迫られた場合、欧州諸国はトランプ政権側に付く以外の道がほとんどないかもしれない。
実際、英独仏は共同声明で、中東地域でのイランの「負の役割」をいさめる一方、米国によるソレイマニ司令官殺害には触れなかった。これは米政権を満足させるかもしれないが、イランの怒りを買う内容だ。
ある西側外交官は「英独仏の反応を見ると、米国側ににじり寄っている。この路線を変えるとは思えないが、イランとの対話余地も残す必要がある。問題はタイミングだ」と語った。
欧州側はイランに対する「ムチ」も検討している。
核合意に含まれる「紛争解決手続き」が発動されると、イランへの圧力が高まり、15年に解除された国連制裁の復活に近づく可能性がある。
高官らによると、10日にEU緊急外相理事会が設定されていることで、早ければ今週内にも手続きが発動される可能性がある。しかしイラン側がどう反応するかは不明で、トランプ政権がそれで満足するかどうかも定かではない。