【紀元曙光】2020年2月8日

慈母手中線、遊子身上衣。「慈母(じぼ)手中の線、遊子(ゆうし)身上の衣」と読む。唐の詩人、孟郊(もうこう)の作で、日本でもよく知られた漢詩の一節である。

▼この詩は「遊子吟(ゆうしぎん)」と呼ばれている。作者の孟郊は、官吏登用試験である科挙を何回受けても合格できず、ついに中年(昔なら初老)の年齢になっていた。45歳でやっと合格するのだが、この詩のなかの「遊子」とは、試験を受けるため会場へ行く旅路の作者自身を指す。

▼ここにも息子の無事を祈って旅着を縫う、心優しい老母がいる。針と糸で、ひと目ずつ、心を込めて縫い進む手中の線は、万国に共通する母親の慈愛にほかならない。

▼日本で最初にミシンを使ったのは明治の頃、第13代将軍・徳川家定の正室であった天璋院だったという。それも特別な身分だったからで、足踏みのミシンが庶民のもとに届くのは昭和に入ってからの、しかも戦後のことだった。

▼それまでは、母も、祖母も手縫いだったなあと、筆者の幼少時代を振り返ってもそう思う。お針箱という裁縫道具一式が入った木箱が、なかなかの威厳をもって座敷の一隅にあった。祖母の目を盗んで開けば、何年も使ったような縫い針、まち針、にぎり鋏などがあって、小さいながらも城を守る女武者の得物にも見えた。

▼針は、針山という小さなザブトン状のものにたくさん立てられている。針山ごと手に取ってみると、その底を触れる指へ、針先の鋭さが感じられてちょっと怖かった。2月8日は折れた針に感謝して供養する針供養の日。その優しい気持ちが、とても好きだ。

▶ 続きを読む
関連記事
栃木県日光東照宮の境内および日光東照宮美術館で、「第4回日本宝樹展(春季)」が開催されている。会期は5月9日から14日までの6日間。日本の伝統文化である盆栽と日光東照宮の荘厳な空間が融合する展示会となっている。11日、会場にはジョージ・グラス駐日米国大使も夫妻で訪れた
黒ごまは心臓や骨、腸の健康を支える栄養が詰まった食材です。古くから長寿の滋養食として親しまれてきた黒ごまの力を紹介します。
糖尿病予防で気をつけたいのは、甘いものだけではありません。ご飯やパン、麺類などの主食も、体内で糖に変わります。毎日の食事バランスを見直すことが、血糖値対策の第一歩
「年を取ると役目を終える」と考えられてきた胸腺。しかし最新研究で、この小さな臓器が寿命や免疫、がん治療の効果に深く関わる可能性が見えてきました。健康寿命を左右する驚きの新常識を解説します。
富士フイルムグループの富士フイルム富山化学は、日本国内で初めて、半月板損傷を対象とした再生医療等製品「セイビスカス®注」の製造販売承認を取得した。