中国がブータンの野生生物保護区を主張 専門家「インドを陥れるため」
中国は6月、隣国ブータンの南東部に位置するサクテング野生生物保護区の404平方マイル(約1050平方キロメートル)の領有権を主張した。この地域はレッサーパンダの生息地として知られ、ブータンの半遊牧民であるブロクパス族の居住区でもある。
ヒマラヤ山脈に囲まれたブータンは、軍の訓練、国境の保護、外交政策などの指導を行うインドと緊密な関係を維持している。インドは中国とブータンの紛争に不可欠な存在であり、中国はそのつながりに悩まされていると専門家は述べている。
ブータンは中国と国境を接していないが、インドのアルナチャル・プラデシュ州に隣接しており、この地域の領有権は中国も主張している。
ブータンは、世界各地の持続可能な開発プロジェクトに資金を提供する組織からサクテング保護区への助成金について議論する会議で、中国の新たな領有権の主張を知った。
「意外なことに、中国代表は無償資金供与に反対した。理由は中国は保護区を『紛争地域』だと考えているからだ」とシンクタンク・外交政策研究所(Foreign Policy Research Institute)のフェリックス・K・チャン上級研究員は、7月29日発表の論文で指摘した。
ブータンは中国の主張に文書で抗議し、最終的にはブータンは資金提供を受けることになった。いっぽう、中国の動きはブータンの関係者を驚かせたとチャン氏は述べている。
中国とブータンは、ヒマラヤ山脈国境との領土問題が歴史的に続いている。ブータンは4つの紛争地域を確認しているが、中国は紛争地域は6つだと主張している。
専門家は、中国がブータンの東部国境沿いの領土を主張したことはなく、35年以上に及ぶブータンとの外交協議の中で、一度もサクテング保護区に言及したことがないことから、今回の動きに驚いている。
「北京はブータン東部の領土を主張することで、ブータンとインドの間に、あるいは少なくともインドとの緊密な関係を維持したいブータン人と、より独立した外交政策を好むブータン人の間に、楔を打ち込むことを狙っているのかもしれない」とチャン氏は言う。
チャン氏は、「インドとの友好関係にあるブータンに領土争議を持ちかけることで、インドに間接的な圧力をもたらそうとしているのかもしれない」と語る。最近、インドでは中国製アプリの禁止やボイコット運動などが展開され、反中姿勢が高まっている。
インドと中国の国境、ガルワンでは5月、双方のにらみ合いがエスカレートした。6月15日には、インド側で20人、中国側では非公開の数の兵士らが死亡した衝突が発生した。この事件により、北京政権に対するインドの外交・経済政策が変化している。
「中国、インドとの国境紛争を解決したいと思っていない」
「中国は、ブータンがインドと同盟を結んだことに対して、罰を与えたいと考えているのだろう」とオブザーバー研究財団の著名な研究員であるラジェスワリ・ピライ・ラジャゴパラン氏は大紀元にメールで語った。そして、中国はまた、サクテングがインドとの紛争地域であるアルナチャル・プラデシュとの国境沿いにあることから、サクテング保護区を主張することによって戦略的な利益を得ようとしているとも述べた。
ラジャゴパラン氏は、中国は実際にはインドとの国境紛争を解決したいと思っておらず、代わりに議論を発展させたいと考えているだろうと見ている。
「インドにとって未解決の国境問題は常に中国の利益になる。なぜなら、それがインドのバランスを崩すからだ。国境や領土問題が解決すれば、ニューデリーは中国の支配から外れることになる。実際、中国は力が強まるにつれ、国境や領土問題の解決にあまり関心を示さなくなる」とラジャゴパラン氏は述べている。
中国がこの保護区の領有権を主張した後、インドは、中国の軍事行動に対応して、国境までの距離を93マイル(約150キロ)短縮し、インド軍の移動を促進する道路の建設を提案したと伝えられている。
インドの日刊経済紙Economic Timesによると、この道路はインドのグワハティからアルナチャル・プラデシュのタワングまで提案されている。サクテング保護区はグワハティの首都アッサムとタワングに挟まれている。
「この道は両国にとってとても重要だ。それは戦略的にだけでなく、観光や経済的にもウィンウィンの状況になるだろう」とアルナチャル・プラデシュの選挙で選ばれた指導者、ペマ・カンドゥ氏は述べた。
「インドを紛争に陥れるため」
インドのメディアは、中国が西の国境で中国が望むものと引き換えにブータンに領土を提供するという「パッケージソリューション」をブータン側に提案したと報じている。
インドのThe Hindu紙によると、中国外務省のスポークスマン・汪文斌氏は7月21日、サクテングの件について質問され、「中国とブータンの国境はまだ確定しておらず、中・東部・西部で係争中である。中国はこれらの紛争の一括解決を提案している」と述べたという。
元インド外交官のストブダン氏は、ニューデリーから電話でThe Epoch Timesに、この提案は基本的にインドを陥れることを目的としていると語った。
「インドに異議を唱えさせ、インドがブータン問題に干渉していると非難させ、インドを紛争に陥れるためだ。これは一つの方法かもしれない」
「明らかに、6月にガルワンで起きた中印紛争には、他にも戦略的要因がある。これは間違いなくブータン東部の問題と直接関係している」とストブダン氏は付け加えた。
(翻訳編集・佐渡道世)