昔、寺で修行に励む一人の僧侶が寝ている時、神からのお告げがあった。神は、「お前の天寿は明日で終わる。朱二(しゅ じ)という盗賊が白馬に乗ってお前の命を取りに来る。お前は、前世で彼に借りを作ったからだ」という。僧侶は、「私はこれまでに沢山の善行を積んできました。どうかお慈悲を、お助けください」と神に懇願した。「それはできない。救えるのはお前自身だ」と神は言い残した。
翌朝、盗賊が現れた。盗賊は僧侶を脅かして財宝と女性たちの所在を問い詰めた。僧侶は目の前にいる白馬を見ながら、神のお告げのことを思い出した。「私は業を積み重ね、既に死ぬべき時が来たのだ。財宝と女性たちの在りかを知らせれば、新たな業を作ってしまうのではないか」。僧侶は、盗賊に言った。「あなたに教えるわけにはいかない。あなたは朱二でしょう。どうぞ私の命を取りなさい。私一人で十分だろう」ときっぱりと言った。
盗賊は驚いて僧侶に聞いた。「なぜ俺の名前を知っているのだ?」僧侶は自分が見た夢のことを盗賊に打ち明けた。
話を聴き終わった盗賊は暫く考え込んだ後、おもむろに持っていた武器を投げ捨てた。「怨に怨で報いれば、永久に終わることがない。俺に財宝と女性たちの在りかを教えないということは、既にあんたは自分を救ったんだ。俺たち二人の因縁は、これで終わりにしようや」と朱二は言った。朱二は仏像を拝み、寺を後にした。
僧侶の一念は、盗賊が財宝を略奪したり、女性を凌辱したりすることを阻止した。これは盗賊を救ったことに等しく、自分も死から免れることができた。また、善の心を持っていた盗賊は僧侶の言葉に目覚め、悪の道から更生する決意をした。この全ては、神仏の慈悲に満ちた按配がもたらしたものだった。
(翻訳編集・蘭因)
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