【医学古今】

鍼灸 予想外の効果

 鍼灸治療を施していても、治療効果を予測できない場合がよくあります。軽い病気でもなかなか効果が得られないこともあれば、難しい病気に対して非常に早く効果が得られることもあります。今回、予想外の効果があった鍼灸の治療例をご紹介しましょう。

 一人の60代の男性が顔面部の神経痛で鍼灸院を訪れました。顔面部の神経痛を長く患い、症状は口を開け閉めする度に激しい痛みが走り、食事がうまく食べられず、話すことも困難でした。それ以外に腎不全で透析も受けていました。

 顔面部の神経痛の患者さんを治療したことは何度かありましたが、効果はあっても完全には痛みが取れませんでした。一方、この患者さんの症状を聞き、腎不全の体質状況を考えれば、効果を得るのは難しいと思われました。

 1回目の治療で口の開け閉めができるようになりましたが、食事をする時に歯で噛むとやはり痛みがありました。2回治療した後は、強く噛まない限り痛みを感じなくなり、更に数回治療を続けると強く噛んでも痛みを感じなくなりました。

 患者さんも喜びましたが、私もこんなに早く良くなるとは思いませんでした。まさに予想外の効果でした。

 驚いたことに、顔面部の神経痛とともに腰部脊柱管狭窄症による下肢の痺れや痛みも大分軽減しました。

 患者さんは下肢の症状が軽くなってから、始めて腰部の病気があることを話してくれました。腎不全があるため腎経のツボを合わせて使ったことが、この病気の改善に繋がったと思われます。これも予想外の効果でした。

 もう一つ予想外の効果がありました。普段無口な彼はある日、治療中に「鍼治療で生き返りました」と言いました。

 私はただ患者さんからの褒め言葉と聞き流し「それほどのことはありません」と軽く答えましたが、彼は非常に真剣な表情で「本当ですよ、この辛さで本当に生きている気がしなかったのです」と言いました。私はハっとして、これは患者さんの本心からの言葉だと気づきました。

 口を開け閉めする度に激しい痛みが走ることはどれほど辛いことでしょう。経験したことが無ければ想像しにくいかも知れませんが、激しい痛みに耐えられず命を捨てた患者さんもいることから、「生き返った」という言葉は決して大げさに言っているとは思えませんでした。

(漢方医師・甄 立学)