米電気自動車大手テスラのロゴ(Justin Sullivan/Getty Images)

米テスラ、中国官製メディアの批判の標的に 過去の事故めぐり

中国官製メディアは先週、過去の事故をめぐる女性オーナーとの対立をきっかけに、米電動自動車(EV)大手テスラを再びやり玉に挙げた。

19日、上海モーターショーが開催されていた際、テスラ車を購入した女性客(32)は、ブレーキが故障し、自身の問い合わせにテスラが対応しなかったとして、展示車両の屋根にのぼって怒鳴り散らした。

中国メディアによると、女性は北部の河南省に住む市民だ。女性は、2月21日夜、テスラを運転中にブレーキが故障したため、前方の車両などに衝突したと主張した。一方、テスラ側は、女性の車の運転データは事故発生時、ブレーキと検知システムが正常に作動していたことを示していると、女性の主張を否定した。テスラ側は、女性がスピード違反して衝突事故を起こしたとの認識を示した。

19日午後、女性側の抗議を受けて、テスラの陶琳副社長は、女性が車両検査を拒否している一方で、高額な損害賠償を求めているとメディアに明かした。さらに、テスラ側は、女性は「不当な方法でモーターショーの入館証を取得した」と指摘した。

20日以降、国営新華社通信をはじめ、中国官製メディアは「テスラは傲慢だ」と連日テスラを集中攻撃した。当局の強い圧力の下で、テスラは、当初の「妥協しない」という強い姿勢から一転し、「謝罪する」「現在、監督管理当局に協力して調査を行っている」と態度を変えた。

テスラは22日、中国紙・中国市場監管報に提供した2月21日の事故発生1分前までの女性の運転データを公開した。これによると、同日午後6時14分、運転者が最後にブレーキペダルを踏んだ時、車両は時速118.5キロで走行しており、その直後に前方衝突探知機能と自動緊急ブレーキ機能が作動して、衝突の規模が軽減された。同時に、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が作動してから1.8秒後にシステムが衝突を記録した。車の速度はブレーキペダルを踏んだ後も低下し続け、衝突前には時速48.5キロに低下した。また、女性運転者は30分間に40回以上もブレーキをかけていた。

女性の夫は中国メディアの取材に対して、データの公表は「プライバシー侵害と消費者権利の侵害にあたる」と反発した。

ソーシャルメディアでは、官製メディアの煽りで、一部のネットユーザーがテスラの不買運動を呼びかけ、「中国市場から出ていけ」などと書き込んだ。

しかし、他の多くのネットユーザーはテスラを支持するコメントを投稿した。「今回のテスラをめぐる騒ぎは、人為的に計画された。今の中国では、他省の人が上海に行ってモーターショーで騒ぎを起こす勇気はないだろう。これは(当局に拘束されるという)大きなリスクを伴うと皆がわかっているから」「事故発生時の交差点の監視カメラの映像はどこだ?河南省警察は事故を調べる時、映像をチェックしたか?メディアは検証したか?」「女性はどうやってモーターショーの報道関係者ブースに入ったの?」と指摘する声がある。

また、一部のネットユーザーは、当局が国内の電動自動車メーカーを守るために、この騒ぎを通してテスラを中国市場から排除する狙いだと分析。

テスラは中国国内で生産している主力EV「モデル3」の販売価格を2回値下げし、1台20万元台(約332万円)で販売している。中国の同業他社にとって大きなプレッシャーとなっている。

環球時報の胡錫進・編集長は22日、中国版ツイッター、微博(ウェイボー)で「社会各界が勢いでテスラを攻撃しないように」と呼びかけ、「中国市場を開拓したい外資企業を追い出すわけには行かない。(中略)われわれの目的は、外資企業に中国市場(のルール)に馴染ませ、中国の法律を順守させ、さらに中国の文化と消費者を尊重させることだ」と主張した。また、胡氏は「テスラは教訓を学んだだろう」と述べ、事態を沈静化させる狙いがあるとみられる。

しかし、胡編集長はテスラへのバッシングを引き起こした張本人の1人だ。同氏は20日に環球時報で評論記事を発表し、「顧客との紛争を処理できなかったテスラに代価を払わせるべきだ」と主張し、19日のテスラ陶副社長の発言について「その強硬的な態度に不快を感じる」と批判した。

今年に入って、中国当局はしばしばテスラ社をやり玉に挙げた。2月8日、中国国家市場監督管理総局などの規制当局はテスラ北京支社と上海支社の幹部を呼び出し、聞き取り調査を行い、「中国の法規を順守するよう」要求した。

3月、中国軍当局は、「機密情報を保護するため」を理由に、軍の集合住宅や他の軍施設へのテスラ車の進入と停車を禁止した。

(翻訳編集・張哲)

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