安徽省に住む王志仁さんは、事業も軌道に乗って、成功を収めた商人でしたが、30歳を過ぎても子供に恵まれませんでした。中国には昔から「不孝有三,無後為大」という言葉があり、「不孝な行為は三つあり、子として親に対する義理と責務を果たさないこと」という意味ですが、それを「親不孝者は子孫を残さない」と解釈する人も多いです。そのため、彼の妻は子を授かりたい一心で、占いに頼ったり、弛まない努力を続けてきました。
ある日、友人の勧めで、王さんはとてもよく当たると噂の占い師の元を訪ねました。彼が事情を話すと、占い師はすぐに彼の運勢や過去の出来事について話し始めました。その上、言っている事もかなり正確でした。その過程で、王さんはますます占い師の能力を信じるようになったのです。しかし占い師は「残念ながらあなたの運命の中に子供はいません」と言いました。
それを聞いた王さんはとても失望し、心が急激に沈みました。それだけでなく、占い師のこの言葉はただの前兆でしかなかったのです。この時はこの先にもっと深刻なことを聞かされるなど露程も思っていませんでした。
占い師は苦い表情で「今年10月、あなたは人生を左右する大きな出来事に見舞われます」と続けました。
その瞬間王さんは顔面蒼白になり、慌てて占い師に助けを求めました。占い師は運命には逆らえないと分かっていながらも、目の前で怯える客に、災難を回避できる可能性のある方法をアドバイスするしかありませんでした。
王さんは家に帰るとすぐに、これからの予定を立て始めました。他人の借金と商品を売った代金を一刻も早く回収して、その後は一歩も家から出ずに、一定期間、隠遁生活をして、災難を逃れようと考えたのでした。
偶然にも人の命を救う
10月までまだ時間があったので、王さんは商品代金を回収するために数百キロ離れた蘇州に向かいました。ある夜、川沿いを散歩していると、突然、女性が水の中に飛び込んでいくのを目撃したといいます。
彼は女性の命を助けたい一心で、急いで銀十両を取り出し高々と掲げ、川沿いに停泊していた数隻の漁船に向かって「女の人が水の中に落ちた!助けた者には銀十両を出すぞ」と叫びました。叫び声を聞いた船頭は、急いで船を漕いで彼女を助けに行きました。
幸いにも対応が速かったので、女性は救出され、岸に上げられました。そして、王さんは約束通り、船頭に銀十両を渡し、助けてくれたことに感謝しました。
王さんはずっと女性のそばに居続け、女性が目覚めると、「何があったのですか、どうして自殺したのですか?」と尋ねました。
女性は泣きながら、「私の夫は傭工で、稼ぎが少なく、私たちはとても貧しい暮らしをしています。つい最近、雇い主もお金に困っていたようで、給料として一匹の豚を渡しました。ちょうど昨日、豚を買いたいという人が現れ、銀十両で売りましたが、後になってそれらがすべて偽物だったことに気付いたのです」と話しました。
王さんはその女性に同情しました。
女性は声にならない様子で、「主人が帰ってきたら責められるのではないかと思って、さらに今私たちは完全に一文無しで、これから先どうやって生きていこうかと考えたら、いっそ死んでしまった方が楽だと思いました」と続けました。
女性の話を聞いた王さんは、情け深い気持ちになり、どうせ助けるならとことん助けようと思い、何も言わずに豚を売って得た2倍のお金を出して女性を助けました。
人助けは己を救う
女性は銀を持って帰り、事の一部始終を夫に話しました。しかし夫は、世の中にこんなにも親切な人がいるのかと信じられない様子で、妻が何か不正を働いて大金を得たのではないかと疑ったほどでした。仕方なく女性は夫を連れて、恩人である王さんが宿泊していた宿に行き、直接会って事実を明らかにしようとしました。
しかし、部屋の前まで来ると、中の電気は消えており、王さんはすでに寝てしまったのだと思ったそうです。
女性はドアを叩き、「私はあなたに助けられた者です。お礼を言いに来ました。ドアを開けてください」と中に向かって話しかけました。
それを聞いた王さんは、「こんな遅くにあなたのような若い女性が、私の部屋に来るのは相応しくない。男女が二人きりになるのは良くないし、批判されるだろう」と厳しい返事をしました。
これを聞いた女性の夫は、疑いの念を消し去り、王さんは正義感あふれる人に違いないと深く感動しました。そして、「誤解しないでください、私たちは夫婦でここに来て、あなたの親切に感謝しています」と答えました。
夫婦で来たと聞いた王さんは、急いで起きて服を着替え、部屋のドアを開けました。扉を開けようと手を伸ばした瞬間、背後で大きな雷鳴が轟き、振り返ってみると、寝室の壁が突然崩れ落ち、寝ていたベッドが押しつぶされていたのです。
王さんは衝撃のあまり呆然とし、言葉を失いました。
しばらく経って落ち着くと、王さんは夫婦に向かって、「お礼をしに来ていただいたところですが、今度は私が貴方たちに感謝する番です。もし貴方たちが呼び起こしてくれなかったら、私は今頃押し潰されていたでしょう」と感謝の言葉を述べ、自分の事をすべて夫婦に話しました。
女性の夫は「人を救うことは、七重の塔を建てるにも勝ると言われています。まさにそのようですね。あなたの災難は過ぎ去ったことでしょう!」と王さんに向かって言いました。
これに対し王さんも「あの時は誰かを助けたけど、結局は自分が助かったんだ!」と嬉しそうに話しました。
女性の夫はさらに、「あなたは、妻の命を救ってくれただけでなく、私たちに多くのお金を惜しみなく与えてくれました。感謝してもしきれません」と何度も感謝の言葉を口にしました。
蘇州でやるべきことを一通り終えると、王さんはまたすぐさま家に帰りました。自分の災難が本当に過ぎ去ったかどうか分からなかったので、以前と同じように家に籠る日々を過ごしました。幸いなことに、10月が過ぎても結果的に何も起こらなかったのでした。
ある日、王さんは偶然街であの占い師に出くわしました。
占い師は「数か月ぶりにお会いしましたが、お顔がすっかり変わりましたね!」と驚いていました。「誰かの命を救うという大きな善行をしたのでしょう。今のあなたの顔を見ると、将来の幸せは無限大ですよ」と興奮した様子で話しました。
この物語は、清朝時代に印光大師が著した『壽康寶鑑』に掲載されており、「後に王志仁の妻は11人の息子を産んだが、いずれも徳が高く、親孝行であった。王さんは96歳まで生き、幸せで豊かな人生を送った」と付け加えられています。
(翻訳 牧村光莉)
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