「筋力の低下にご注意ください」改善のカギは運動とタンパク質摂取

サルコペニアとは、主として加齢による筋力の低下および筋肉量の減少のことです。高齢者によくみられますが、高齢者だけではなく、まれに若い人にも起こります。

サルコペニア「4つの原因」

サルコペニアになると、長期的には歩行が不安定になり、転倒、骨折のリスクが増えます。それにより、繰り返し入院するなどの悪循環に陥ることで、自立できなくなることさえあります。

また筋肉量は代謝率とも深い関係があります。筋肉量が落ちると基礎代謝率が低下するため、肥満糖尿病、代謝症候群などの慢性疾患にもつながるのです。

サルコペニアの主な原因は加齢ですが、若い年齢でサルコペニアを発症する人もいます。台湾大学病院リハビリ科の医師、陳冠誠氏によると、「臨床上最もよく見かける青壮年のサルコペニア患者は、何らかの慢性疾患を持っている人や退院したばかりの人が多い」と言います。

サルコペニアの原因となるものには、主に以下の4つがあります。

1、 加齢
年齢が40歳を過ぎると筋肉量は10年毎に8%減少しますが、 70歳になると15%減少します。

2、慢性疾患
糖尿病、臓器不全(慢性腎不全、心不全)、慢性閉塞性肺炎、関節リウマチ、がんなどの疾患は、筋肉の流失を引き起こします。

3、長期にわたる臥床
長期の入院、特に集中治療室に2週間以上いる患者では、そのリスクが高くなります。病気のため、あるいは集中治療室での治療の間に、体は非常に多くのタンパク質を消費するため筋肉量が減少します。
1/3を超える患者が、集中治療室から出た後に歩行困難になったり、サルコペニアを発症します。

4、栄養不良
栄養不足、特にタンパク質の不足で発症します。高齢者は、歯が弱っているために食べやすいものだけ食べていたり、若い人でも誤った方法でダイエットを行っていたりすると、栄養不足になることがあります。

乳類や卵を食べない完全菜食主義者は、豆類などでタンパク質を意識的に補給しないと、サルコペニアになる危険性が高くなります。多くの若い人は、美容上スリムなスタイルを求めますが、痩せすぎてもサルコペニアになるのです。

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また、肥満の人は、筋肉不足の問題を抱えている可能性があります。

見た目では分かりませんが、筋肉量が少なくて脂肪が多すぎると、代謝機能と筋力に影響を与えます。このような状態もサルコペニアと呼ばれますが、サルコペニアだけでなく、肥満によって心血管疾患を併発しやすくなっているため死亡率も高くなります。

「5つの徴候」があったら要注意!

日常生活のなかで、以下の「5つの徴候」にご自身やご家族が気づいたら、サルコペニアを疑ってみる必要があります。

1、立ち上がるのが困難
例えば、トイレ(洋式でも和式でも同じ)に行った後、トイレから立ち上がるのが困難だったり、低い椅子から立ち上がるのが困難だったりすることはありませんか。

椅子から立つときに手すりにつかまったり、しゃがむのが難しいことも兆候の1つです。高齢者にとっては、膝関節の問題のほかに、サルコペニアの可能性があります。

2、歩行が遅くなる
歩行に困難を感じたり、遅くなったりします。道路を横断しようとしても、以前とちがって青信号の時間に渡りきれなくなったりします。

3、繰り返し転倒する
転倒の確率が高くなります。この1年間で2回以上の転倒があった場合は、サルコペニアの可能性が疑われます。

4、体重減少
意図的には減量していないのに痩せてきた、ということはありませんか。

5、握力の低下
昔に比べて、瓶のふたを開けるのがつらかったり、タオルがしぼれなかったり、物が取りにくくなったりします。

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良質のタンパク質を摂りましょう

陳冠誠氏は、「サルコペニアと診断されたら、良質のタンパク質を十分に摂取し、筋力を強化してください。この二つが肝心なのです」と言います。

健康な人はタンパク質を普段から十分に摂取しなければならず、体重1キロ当たり0.8~1.0g。体重が60キロなら、1日に60gのタンパク質を摂取するのが基準です。

サルコペニア患者は、さらに多くのタンパクを摂取する必要があります。推奨される摂取量は体重1キロ当たり1.2gですので、体重60 kgの人の場合は約72 gとなります。

陳冠誠氏は「特に分岐鎖アミノ酸を多く摂取してください。サルコペニアの回復と予防に最も効果があります」と強調します。

分枝鎖アミノ酸は、骨格や筋肉のタンパク質合成および筋肉の修復に、重要な作用を発揮する物質です。

大豆、卵、牛乳、乳製品、魚類、肉類など多くの天然食品には、分枝鎖アミノ酸が含まれています。多くのサプリメントにも分岐鎖アミノ酸が添加されています。サルコペニア患者は、医師の指導のもとに、サプリメントを活用することも考慮してください。

タンパク質を摂取するには、3食に均等に分け、1食に集中しないようにします。タンパク質を摂りすぎると腎臓に負担がかかる場合があるため、腎臓病患者がサルコペニアを併発した場合は、食事に関して医師や栄養士の指導を受ける必要があります。
 

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そして最後に、無理のない、適切なトレーニング法で筋力を強化しましょう。
トレーニングは、まず太もも前側の大腿四頭筋から始めます。大腿四頭筋は、立位や歩行時に身体を支える重要な筋肉です。

まずは太ももを上げる「足あげ」から始めましょう。椅子に座った姿勢と、立った姿勢の両方でできます。できれば、側面の方向に太ももを上げる動作もやってみてください。

次は、ゆっくり腰を落としていくスクワットです。横に手すりや椅子などの支持具があると安心してできます。

介助の方は、そばでゆっくり声をかけながら、明るい気持ちでできるように見守ってあげてください。

(文・蘇冠米/翻訳編集・鳥飼聡)