中国共産党はブロックチェーン技術に興味を示す理由とは。イメージ図 (Photo by Sean Gallup/Getty Images)

「雲」をかすめ取る独裁者 中共が「ブロックチェーン」に目を向ける理由

中国共産党は仮想通貨、特にビットコインを嫌っている。同様に北京のエリートたちはNFT(非同質化トークン)にも否定的だ。しかし、ビットコインやNFTを支える重要な技術「ブロックチェーン」について、中国共産党は強い興味を示している。

2019年、習近平氏はブロックチェーンについて熱く語った。「(革命的な技術がもたらした)チャンスをつかめ」と、全国のビジネスマンやITプロフェッショナルたちに呼びかけた。 習近平氏は、ブロックチェーンの出現は「核心的技術の自主的な革新における重要な突破」を意味すると述べた。核心的な技術として、ブロックチェーンの発展を加速させる必要があると強調した。

ブロックチェーンにはいくつものタイプがあるが、ここで注目すべきは、パブリック型ブロックチェーンとプライベート型ブロックチェーンの2つだ。パブリック型ブロックチェーンは取引の参加に許可を必要とせず、管理者がいない分散管理となっている。プライベート型ブロックチェーンは承認を受けた管理者によって運営され、限定されたユーザーのみが参加できる。

中国共産党は後者のプライベート型ブロックチェーンの発展に非常に熱心だが、その真の狙いは莫大なデータそのものだ。

データを制する者が未来を制す

中国当局は2020年、国家主導のブロックチェーンネットワーク「BSN(ブロックチェーンサービスネットワーク)」を立ち上げた。政府機関を理事に据え、「チャイナ・モバイル(中国移動通信)」や「ユニオン・ペイ(中国銀聯)」など複数の企業を呼び込んだ。技術提供を行うのは「レッド・デーツ・テクノロジー」社だ。 

レッド・デーツの何亦凡・最高経営責任者(CEO)は米CNBCに対し、ブロックチェーン技術はインターネットとITの構造を変える可能性があると語った。

ブロックチェーンの権威ポール・トリオロ氏は、何亦凡氏の主張に対する補足として次のように語った。「(ブロックチェーン技術は)中国にとって非常に重要だ。参入障壁が低い技術分野であると政府当局者は考えている。そして、中国企業がブロックチェーン技術を使って現実世界の問題を解決することを望んでいるのだ」。

米国とEUがブロックチェーン技術を使い炭素排出量を追跡する傍ら、中国はまったく異なる用途を思いついた。中国共産党は自国内のデータを集めるだけでは飽き足らず、全世界のデータを収集しようとしている。国家主導のBSNによるネットワーク構築が進展すれば、中共は目標に一歩、また一歩と近づくことができる。

BSNの拠点一覧。東京の拠点ではグーグルと連携しているのが分かる(スクリーンショット)

中国の国家主導で進むBSNは、「クラウドコンピューティング」のインフラを運営する企業との提携に注力している。提携先にはアマゾンやマイクロソフト、グーグルなどの巨大IT企業が含まれている。

マイクロソフトは、クラウドコンピューティングを次のように定義する。

「クラウドコンピューティングとはコンピューティングサービス (サーバー、ストレージ、データベース、ネットワーク、ソフトウェア、分析、インテリジェンスなど) をインターネット (“クラウド”) 経由で配信して、迅速なイノベーション、柔軟なリソース、スケールメリットを提供すること」

そして今、中国共産党はBSNを通してこれらのサービスをコントロールしようとしている。

何亦凡氏によれば、10年後には「ブロックチェーン関連のあらゆるアプリケーションを処理可能な標準的なブロックチェーン環境がすべてのクラウドに実装される」。中国のBSNは「クラウド(雲)」上で「ワン・ストップ・サービス」を提供することを目指している。

クラウドコンピューティングにおいて、理論的には、データを作成しアップロードした者がその所有者となる。だが見方を変えれば、クラウドサービスの提供者こそ、データの真の所有者ではないだろうか。

今日では、世界中の企業の約90%がクラウドを利用しており、アマゾンやマイクロソフトのような巨大IT企業は、顧客に関する膨大なデータを持っている。それらのサーバーで毎日2.5エクサバイト(EB)のデータが生成されている。ちなみに、世界最大級のデータセンターを保有するグーグルが2013年時点で保有していたストレージは約10エクサバイトだったとの試算がある。

国家主導のブロックチェーンネットワーク「BSN」がクラウド産業に触手を伸ばす姿はこっけいに映るかもしれない。しかし忘れてはならない。中国は本質的にはデジタル式の「パノプティコン(円形刑務所)」であり、データの収集と果てしない監視の上に成り立っている。

長い目で見た場合、ブロックチェーン技術と「クラウド」は「武器」として使えることを強調しておきたい。パン切り包丁が悪人の手に渡ると凶器になるように、至高の技術も悪人に支配されれば殺戮兵器となりうる。

膨大な量の機密データが北京当局の手に渡るのは恐ろしいことだ。国家主導のブロックチェーンサービスで、中国共産党は人々のデータを管理するようになる。もちろん私のデータやあなたのデータもそこに含まれている。これは白日夢ではない。これは中国共産党が何年もかけて入念に練ってきた計画なのだ。

(源正悟)

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私は経済記者として1990年代後半から日本経済、そしてさまざまな産業を見てきた。中でもエネルギー産業の持つ力の巨大さ、社会全体に影響を与える存在感の大きさが印象に残り、働く人の真面目さに好感を持った。特にその中の電力産業に関心を持った。