絵の中の時空ーー美術家=物理学者?(七)

空間のシミュレーション

絵画で表現された光景は、見える空間をそのまま模擬したシミュレーションです。このシミュレーションは人の既存の視覚に基づいたものですが、完全に現実を再現したものではありません。

写生の経験がある人はご存じかもしれませんが、複雑な服の折り目やひだ、しわなどの簡略化であれ、対象物の細部に関する処理と調整であれ、最終的に実物と作品にはある程度の違いが生じます。

これは画家の主観的な要素が作品に関与しているためです。そればかりでなく、人の脳は、客観的な現象を自動的に処理することさえできるのです。

ここで色彩学の一例を話します。「色彩学と修練文化(七)」では、作者が色彩理論をいくつか紹介した時に、「マゼンタ」(明るく鮮やかな赤紫色。紅紫色(こうししょく)とも呼ばれる)という色について説明しました。実は、この色は通常の「赤、橙、黄、緑、青、藍、紫」と異なり、現実のスペクトルには存在しておらず、人間の脳によって自動的に合成されてできた色なのです。

では、まず自然光のスペクトルを見てみましょう。

 

自然光のスペクトル(パブリックドメイン)

 

ご覧の通り、スペクトルは赤から紫まで、約700ナノメートルから400ナノメートルまでの波長をカバーしています。これは人間の肉眼で見える色の光、つまり、可視光線です。赤の右側は赤外線で、肉眼では見えません。同様に紫の左側は紫外線で、これも肉眼では見えません(超能力を持っている人を除く)。従って、スペクトルでは、赤と紫は両極に位置しています。

しかし、色彩学の研究を通して、人間は「色環」を発明しました。自然光のスペクトルでは、紫と赤は全く隣接していないため、色環の紫と赤の間に色が存在しないはずです。しかし、人の脳は勝手にある色を追加し、紫と赤の両端をつなげて、色環を作り上げました。これは、色環のごく一部の色が他の色と異なる性質を持っていることを意味します。スペクトル内の各種の色は固有の波長と周波数を持っていますが、前後の繋がりの部分(マゼンタ)には固有の波長と周波数がないのです。それは、スペクトルにはこの色が存在しないからです。

 

色環(1772年、オーストラリアの博物学者シファーミュラー(Ignaz Schiffermüller)作:パブリックドメイン)

 

非閉鎖の色輪図、上の2種類の赤紫色(紫とピンク)は自然光のスペクトルの範囲外(パブリックドメイン)

 

(つづく)

(翻訳編集 季千里)

Arnaud H.