絵の中の時空ーー美術家=物理学者?(八)

では、これらの紫赤色はどこから来たのでしょうか?人が想像して作った色でしょうか?想像と言えば想像ですが、実は、単なる想像の産物ではないのです。

簡単に言えば、人間がこの類の色が見える原因は、スペクトル内の2種類の異なる光の波長、藍紫色と赤色を同時に見たからです。人間の視神経と脳がこの2種類の波長の光を自動的に処理し、合成して「赤紫色」を見たと感じたのです。

このように、人間の脳は自動的に現実と異なる状況を判断することができ、さらには人の感知でさえも、現実的な物理状態に限定されていないのです。

したがって、絵画は環境、構造、色彩、明暗など多くの要素をシミュレーションすることにより、画面上に他の空間(異次元)の様子を表現することができます。実際、このやり方は一般的であり、多くの作品における神様や聖域の表現が最も代表的な例です。

昔から人はよく神様を描いてきました。歴史や文学など様々な分野の記録によると、人類は文明の中でグラフィック的なパターン認識の方法を形成しました。例えば、雲を描いて、その上に伝統的な服を着て、荘厳で、美しく、光をまとった人物を描くと、見る人は基本的にこの絵が神様や高次元の生命を表しているのだと理解します。

類似の技法を用いて聖域も表現できます。絵の空に、雲、色彩、遠近法を用いて別の空間を作り出すことができ、空間が重なる効果を得ることができます。例えば下の絵です。

「聖母の被昇天」(Assunzione della Vergine)、1475年─1476年、フランチェスコ・ボッティチーニ作)(パブリックドメイン)

この作品では、人々がマリアの棺を開けると、そこにマリアの身体はなく、純粋を象徴する百合の花だけがたくさん入っています。マリアは数々の天使に囲まれて天国に昇っていきます。絵の中の人々の反応を見ると、下の人たちは明らかに頭上の空間が見えておらず、上と下の部分は異なる空間に属しているのが分かります。

このように、1枚の絵で人間と神様のそれぞれの空間を同時に表現する手法は西洋絵画でよく見られます。

この方法以外にも、芸術家たちは光と影を上手く利用して、いくつかの特殊な視覚効果を表現することができます。例えば、有名なデンマークの画家であるカール・ハインリッヒ・ブロッホ(Carl Bloch)は「羊飼いたちと御使い」(The Shepherds and the Angel)で、強烈な明暗のコントラストを通して、天使の光明と、その体の高エネルギーを示しており、天国から来た生命であることが一目で分かります。

「羊飼いたちと御使い」(新約聖書『ルカによる福音書』2章9節) 1879年、カール・ハインリッヒ・ブロッホ作

古来、神様と天国世界の表現は芸術の基本的な目的の一つであり、美術界は数千年にもわたって様々な経験を積み重ねてきたので、絵画で他の空間を表現する方法は非常に豊かです。画家たちは、ミクロ単位の分子で構成される顔料では、真に神や神の世界の素晴らしさを表現することができません。

しかし、既存の伝統的な技法と経験によって、聖域の描写を通して、人の心の善良さと佛性を呼び覚まし、美術を通して人の心を昇華させ、神聖な境地に導くことができます。

(つづく)

(翻訳編集 季千里)

 

Arnaud H.