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精神状態を変え、生物学的年齢を下げる1つの方法
どうすれば精神状態を変え、不幸福感を減らすことができるのでしょうか。多くの研究により、より良い食事、定期的な自然との触れ合い、運動に加えて、自分自身や他者への思いやりを持つことが、ポジティブな精神状態につながり、老化を遅らせることができることが分かっています。
思いやりの心とは、他人の苦しみを感じ、その苦しみを和らげることができる能力であると学者たちは定義しています。共感とは対照的に、優しさとは他者の心の状態を認識し経験する能力だけでなく、動機と行動も含まれます。またそれは、自分に対して善意を持つことでもあります。
良い思考は、孤独感の軽減や幸福感の向上だけでなく、心血管リスクの低減、炎症マーカーの低減、糖尿病の改善など、さまざまな形で心身の健康を向上させます。
《精神病学の転化》(Transitional Psychiatry)誌に掲載されたこの研究は、アメリカの成人1090人を対象にした10年間の追跡調査で、研究者たちは、電話や用紙を使って、自己と他者に対する優しさを持つことの身体的・心理的効果を調べました。その結果、自己や他者への優しさを常に高く持っている人ほど、長年にわたって孤独を感じにくいことがわかりました。
また、60歳以下の比較的若い対象者では、調査期間中に自分や他人に対する優しさが有意に増加した場合、最終的に健康であったことになります。健康に対する優しさのプラス効果は、喫煙や飲酒のマイナス効果よりも大きいことがわかりました。これは、冒頭の「喫煙よりも精神状態の悪化の方が老化を早める」という知見と呼応しています。
これは、良い考えや親切な行為は他者とのつながりを増やし、人に脅威を感じさせないため、その見返りとしてより多くの反応や温かささえ受け取ることができるためです。さらに、自分自身や他者への優しさや思いやりは、他者の感情や視点を理解する「共感力」を反映しています。これにより、より価値のある社会的関係を構築することができます。
パンデミック発生後、人々はうつ病や不安、ストレスが増加し、社会的な安心感も低下すると言われています。
新型コロナウイルスのパンデミックに際して、21の国と地域の成人を対象とした調査でも、親切心全般の予防効果が実証されています。この研究では、自己への思いやりと他者への思いやり、そして他者からの思いやりの3つの流れの方向が関わっています。
その結果、自己と他者への思いやりがあれば、その人は心理的苦痛が少なく、社会的安心感も高いことがわかりました。他人や自分を思いやることができれば、憂鬱感や不安、ストレスは少なくなります。また他者からの思いやりは、感染症などの恐怖を和らげ、社会的な安心感を高めることができるのです。
思いやりや共感だけでは不十分で、行動で示すことがより有益なのです。また、研究者は、人が苦しみに敏感になると、それに対してどうしたらいいかわからず、かえって苦しみを増やしてしまうことがあることを発見しています。
そのため、他者への愛と優しさを持つことが、老化しない一番のカギとなるのです。
(おわり)
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