「イノシトール」気分とホルモンを整える糖-その効果と摂り方

イノシトールは、果物、豆類、穀物、ナッツに自然に含まれる糖の一種です。一般的に「糖」というと体に悪いイメージを持たれがちですが、イノシトールは体に必要な栄養素のひとつです。

イノシトールは、忙しいオフィスで働く優れた調整役のような存在です。細胞間のコミュニケーションを円滑にし、ホルモンバランスや気分の安定、さらにはコレステロールの調整をサポートします。

自然界では古くから存在するイノシトールですが、初めて分離されたのは1850年のことです。ドイツの科学者ヨハン・ヨーゼフ・シェラーが筋肉から取り出しました。その約40年後、フランスの化学者レオン・マケンヌは大量の馬の尿を煮詰めて精製しました。しかし、その際に発生した臭いが原因で近隣住民から苦情がでたというエピソードもあります。

かつてイノシトールは「ビタミンB8」としてビタミンB群に分類されていましたが、体内で生成できることが分かったため、現在ではビタミンとは見なされていません。そのため、必須栄養素のリストからも外されています。

イノシトールは、細胞間の円滑なコミュニケーションを促進する栄養豊富な糖です(大紀元/Shutterstock)

 

おもしろ豆知識

  • イノシトールはほんのり甘い味があり、自然派甘味料のブレンドに使われることもあります。
  • 柑橘類、特にオレンジやグレープフルーツが好きな人は、イノシトールをたっぷり摂取しているかもしれません。
  • イノシトールは「脳の栄養」とも呼ばれ、脳内の濃度は血液中の最大15倍にもなると言われています。
  • 母乳にも豊富に含まれており、胎児期の脳内で神経のつながりを作る助けになる可能性があります。
  • イノシトールは隕石の中にも発見されています!

 

特別な才能  イノシトールの多彩な働き

体を小さな活気ある都市に例えてみましょう。各細胞が役割を持ち、互いに情報を伝達しています。その中でイノシトールは熟練した仲裁者のように、細胞間のスムーズな連携を支えています。イノシトールは「細胞内メッセージング」というプロセスを通じて細胞同士の情報交換を促進し、成長、機能、修復に必要な情報が確実に伝わるようにします。さらに、心拍リズムや気分、ホルモン、そして生殖機能のバランスを整える「自然のコーディネーター」として、体全体を調和の取れたコミュニティのように機能させています。

1. ホルモンの調整役

イノシトールはホルモンの調整に重要な役割を果たします。たとえば、血糖値を管理するホルモン「インスリン」の働きを助け、インスリン抵抗性を軽減することで、血糖をより効率的に利用できるようにします。この効果により血糖値のバランスが保たれ、2型糖尿病の管理や体重減少に役立つ可能性があります。

また、妊娠中の血糖コントロールにも効果があり、妊娠糖尿病を予防し早産のリスクを減らすことが2024年の臨床試験のメタ分析で確認されています。

さらに、イノシトールの補充は、女性の不妊の主な原因である多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のホルモンバランスを改善し、卵巣機能を向上させます。2023年のレビューによれば、イノシトールは月経周期の正常化にも貢献することが示されています。

PCOSの治療には一般的にメトホルミンが使用されますが、副作用として消化器系の不調が挙げられることがあります。一方、イノシトールはより安全で副作用が少ない代替手段として注目されています。

また、イノシトールはセレンと組み合わせて補充することで、ヨウ素の利用効率を高め、甲状腺ホルモンの適切な生成と分泌を促進し、甲状腺の健康をサポートします。このように、イノシトールは生殖機能や代謝のバランスを保つ上で欠かせない存在です。

2. 気分の安定剤

イノシトールは「心を落ち着かせる栄養素」として知られ、セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質の働きを支えることで、感情や精神的な安定に寄与します。

研究では、不安、うつ病、強迫性障害の症状を緩和する効果が示されており、神経伝達物質のバランスを整えることが分かっています。

臨床試験では、イノシトールはパニック発作の頻度や重症度を軽減し、副作用もほとんど見られませんでした。さらに、抗うつ薬フルボキサミンと同等の効果があるとされる一方、フルボキサミンでは吐き気や倦怠感が報告されるのに対し、イノシトールはそのような副作用が少ないとされています。このため、イノシトールは自然で穏やかな方法で気分関連の問題を管理するための有望な選択肢となっています。

3. 心臓の守護者

イノシトールは心拍リズムの調整やコレステロールバランスのサポートを通じて心血管の健康を促進します。細胞内でのカルシウムシグナル伝達を助け、心筋の収縮を正確に調整することで、安定した心拍リズムを保ちます。

さらに、肝臓の代謝プロセスをサポートすることでコレステロール管理にも役立ちます。2018年のレビューでは、イノシトールの補充が中性脂肪、総コレステロール、LDL「悪玉」コレステロールを低下させる効果があることが示されています。

その他の才能

  • 肝臓病の予防 脂肪代謝を促進し、肝臓への脂肪蓄積を防ぐことで肝機能をサポートします。
  • 肌の健康を支える 乾癬ニキビなどの肌トラブルを改善します。
  • 酸化ストレスの軽減 抗酸化作用により酸化ストレスを減らし、慢性疾患のリスクを低下させる効果が期待されています。

 

イノシトールが含まれている食品

イノシトールは、私たちのキッチンにあるさまざまな食品に含まれています。特にイノシトールが豊富な食品には以下のものがあります。

  • 果物 メロン、オレンジ、グレープフルーツ、イチゴ、モモ
  • 野菜 ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツ、アスパラガス、ほうれん草
  • 豆類とマメ科植物 白インゲン豆、赤インゲン豆、ヒヨコ豆、黒豆、レンズ豆
  • 全粒穀物 オートミール、玄米、ふすま
  • ナッツと種子類 アーモンド、ゴマ、ピーナッツバター

イノシトールは主に植物性食品に含まれていますが、内臓肉、卵、牛乳といった動物性食品にも少量含まれています。また、ザワークラウト、キムチ、ヨーグルトなどの発酵食品にも、使用される原料や発酵の過程によってはイノシトールが含まれる場合があります。

 

イノシトールを支える栄養素たち

イノシトールの効果を補完する栄養素には以下のものがあります。

  • 葉酸
    複数の科学研究によると、イノシトールと葉酸を組み合わせることで、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)、1型糖尿病神経管欠損症などの改善に役立つことが示されています。
  • セレン
    2020年の研究によると、イノシトールとセレンを1年間併用した治療は、橋本病(橋本甲状腺炎)の患者における甲状腺刺激ホルモン(TSH)のレベルを大幅に低下させました。また、超音波検査では甲状腺組織の外観の改善も確認しました。
  • マグネシウム
    イノシトールとマグネシウムを組み合わせることで、炎症性皮膚疾患やメタボリックシンドロームの改善に寄与する可能性があります。

 

レシピ 心も体も整えるスムージーボウル

手軽に作れるこのイノシトールたっぷりのボウルは、イノシトールをサポートする栄養素も含まれており、朝のひとときを穏やかに整えてくれます。

材料

  • ギリシャヨーグルトまたは全脂肪ココナッツヨーグルト 1/2カップ
  • オレンジジュースまたはグレープフルーツジュース 1/4カップ
  • アーモンドバターまたはピーナッツバター 大さじ1
  • チアシードまたはゴマ 大さじ1
  • グラノーラ(トッピング用) 1/4カップ

作り方

  1. ヨーグルトとジュースをボウルで混ぜ、なめらかにします。
  2. アーモンドバターまたはピーナッツバターを加え、軽く混ぜ合わせます。
  3. トッピングとして種子類とグラノーラを振りかけます。

イノシトールを手軽に食事に取り入れる方法

  • 朝食にオートミールを作り、アーモンドと新鮮なベリーをトッピング。
  • にんじんスティックとフムス(ひよこ豆など植物性食品で作る)でおやつに。どちらもイノシトールを含みます。
  • サラダやスープに赤インゲン豆、グリーンピース、黒豆を加える。
  • ヨーグルトやオートミールにアーモンドやゴマを振りかける。
  • トーストや果物、スムージーにピーナッツバターやアーモンドバターを添える。
  • おやつにメロン、オレンジ、キウイ、マンゴーを。
  • 精製穀物の代わりに、全粒粉のパンや玄米を使う。

 

吸収率を高めるコツ

イノシトールは熱に弱く、調理中に分解されることがあります。そのため、できるだけ多くのイノシトールを摂取するには、加熱を最小限に抑える調理法を選ぶのが効果的です。例えば、ブロッコリーやほうれん草、にんじんなどの野菜は蒸すと良いでしょう。ナッツや種子をローストする場合は、オーブンの温度を低め(華氏300度/摂氏150度程度)に設定し、長めに時間をかけて焼くことでイノシトールを保つことができます。

茹ですぎたり煮すぎたりすると、イノシトールが水に溶け出したり分解されたりするため、短時間の調理がおすすめです。例えば、葉物野菜はにんにくとオリーブオイルで軽く炒めるだけで十分です。また、可能であれば、生の状態で食べることで、イノシトールを最大限に摂取することができます。

 

その他の供給源

イノシトールにはさまざまな形(異性体)があり、それぞれ独自の役割とメリットを持っています。中でも ミオイノシトール と D-キロイノシトール は最も研究されており、この2つを組み合わせることでホルモンや代謝に対する健康効果を最大化できるとしています。

イノシトールヘキサリン酸(IP6)、別名「フィチン酸」は、抗酸化作用を持つイノシトールの補助的な形態です。この異性体はがん予防や免疫サポートへの研究がされています。ただし、IP6は腸内でミネラルと結合してその吸収を妨げる可能性があるため、サプリメントとして使用する際には注意が必要です。

イノシトールサプリメントの形状

  • パウダー 水やスムージーに簡単に混ぜられ、正確な用量調整が可能です。
  • カプセルやタブレット 持ち運びに便利で手軽に摂取できます。
  • グミ 錠剤を飲み込むのが苦手な人に適した選択肢。ただし、砂糖や添加物が含まれる場合があります。

サプリメントを選ぶ際は、不要な添加物やフィラーが含まれていない高品質な製品を選ぶようにしましょう。

 

欠乏症について

イノシトールは厳密にはビタミンではありませんが、不足すると気分の乱れやインスリン感受性の低下、細胞機能への影響が見られる可能性があります。気分障害や代謝の問題を抱えている人は、イノシトールを多く摂取することでメリットを得られる場合があります。

カフェイン(特にコーヒー)の摂取、加齢、抗生物質の使用、砂糖や精製炭水化物が多い食事、ナトリウム不足、インスリン抵抗性、1型および2型糖尿病などの要因は、体内でのイノシトールの必要量を増加させることがあります。

推奨摂取量

イノシトールには、現在のところ人間に対する推奨食事摂取量(RDA)は定められていません。最適な摂取量についても明確ではありませんが、サプリメントとしては一般的に1日500~4千ミリグラムの範囲内で摂取されており、その量は対応する症状によって異なります。最適な摂取方法や量については、医療専門家に相談することをお勧めします。

 

毒性について

臨床試験では、1日あたり4~60グラムのイノシトールを1~12か月間摂取した場合、観察された副作用は軽度の消化器症状(吐き気、ガス、下痢)のみでした。これらの症状は主に1日12グラムを超える摂取量で発生する傾向があり、用量を徐々に増やすことで軽減できる可能性があります。

2019年の研究では、1日4グラムまでのイノシトールは妊婦にも安全に耐容され、副作用は報告されていません。また、イノシトールは米国食品医薬品局(FDA)によって、食品やサプリメントでの使用が一般に安全(GRAS)と認められています。ただし、長期的な安全性についてはまだ十分な研究が行われていません。

相互作用について

イノシトールは一般的に安全とされていますが、以下のような薬と相互作用する可能性があります。

  • 気分安定薬
    イノシトールはリチウムの効果を弱め、双極性障害の症状を悪化させる可能性があります。
  • 抗うつ薬(SSRI)
    セロトニン活性を増加させる可能性があり、稀にセロトニン症候群のリスクを伴う場合があります。
  • 抗精神病薬
    クロザピンなどの薬の効果に影響を与え、副作用を引き起こす可能性があります。
  • 糖尿病治療薬
    イノシトールはインスリン感受性を高めるため、糖尿病治療薬と併用すると低血糖を引き起こす可能性があります。
  • 抗けいれん薬
    イノシトールの神経伝達シグナルへの影響から、抗けいれん薬と潜在的な相互作用が考えられます。具体的な相互作用は十分に記録されていませんが、注意が必要です。

これらの薬やその他の処方薬を服用している場合、イノシトールを使用する前に医療専門家に相談することをお勧めします。

(医学的監修 ジミー・アーモンド医学博士)

 

(翻訳編集 華山律)