『痔』症状、原因、治療、自然療法

痔(じ)は、肛門や直腸の下部にある静脈が腫れて炎症を起こした状態のことです。いわば「血管がこぶのように膨らんだ」状態で、長時間の圧力や負担が原因で血管が伸びたり、膨らんだりして起こります。その結果、血管が薄くなって出血したり、場合によっては外に飛び出してしまうこともあります。

アメリカでは、20人に1人が痔を持っていると言われ、毎年約400万人が診察や治療を受けています。また、人生で一度は痔の症状を経験する人は全体の約75%にものぼると言われています。特に、50歳以上の人ではその割合が半数近くに達します。痔が最もよく発症するのは、男女ともに45歳から65歳の間です。また、痔はアメリカで直腸からの出血の一番の原因でもあります。

痔にはどんな種類があるの?

痔にはいくつかの種類がありますが、主に「内痔核」と「外痔核」の2つに分けられます。場合によっては、この両方が同時にできることもあります。

内痔核(ないじかく)

内痔核は肛門の内側にできる痔のことです。通常、痛みを感じることはありませんが、かゆみや違和感、肛門に圧迫感を感じることがあります。また、トイレの後にうまく拭き取れず、粘液が漏れることもあります。場合によっては出血したり、痔が肛門の外に飛び出したりすることもあります。

特に「脱出痔(だっしゅつじ)」と呼ばれる状態になると、痔が肛門の外に飛び出します。軽い場合は自然に元に戻ることもありますが、指で優しく押し戻す必要があることもあります。さらに、脱出した痔の血流が悪くなると「嵌頓痔(かんとんじ)」という状態になり、強い痛みや排尿がしにくくなることがあります。

外痔核(がいじかく)

外痔核は肛門の外側、開口部の近くにできる痔のことです。痛みを伴うことが多いですが、ほとんどの場合は自宅でのケアで対応可能です。

「血栓性外痔核(けっせんせい がいじかく)」と呼ばれるものは、外痔核の中に血のかたまり(血栓)ができた状態を指します。このタイプの痔は、激しい痛みや腫れ、炎症を引き起こすことがあり、出血することもあります。肛門の近くに硬いしこりのようなものができるのも特徴です。

 

痔の症状

内痔核は肛門の内側にできる痔で、主な症状は次の通りです。

  • 排便中や排便後に鮮やかな赤い血が出ることがあります。
  • 内痔核自体は通常痛みを伴いませんが、痔が脱出(肛門の外に飛び出す)した場合には痛みを感じることがあります。
  • 肛門周辺に灼熱感を覚えることがあります。
  • 痔から粘液が出ることがあり、不快感や汚れを感じる原因になります。
  • :痔から分泌される粘液が皮膚を刺激し、かゆみを引き起こすことがあります。
  • 肛門周辺が常に湿った状態になりやすいです。
  • 肛門周辺に腫れや炎症が見られることがあります。
  • 痔があると、トイレの後の清掃が難しくなることがあります。

また、内痔核が脱出している場合、次のような追加症状がみられることがあります。

  • 痔が邪魔になり、便のコントロールが難しくなる場合があります。
  • 門が常にふさがっているような圧迫感や満腹感を感じることがあります。
  • 痔が肛門の外に飛び出していることで、皮膚がこすれて刺激を受ける場合があります。
  • 血流が悪くなった痔核(嵌頓痔核)は激しい痛みを引き起こすことがあります。
  • 排便後でも、まだ便が残っているように感じることがあります。

さらに、嵌頓痔核(血流が遮断された痔核)の場合、組織が壊死したり潰瘍ができることもあります。

なお、黒い便(メレナ)は直腸ではなく消化管の上部からの出血を示すことがあります。このような場合、胃潰瘍や特定の癌などが原因の可能性があるため、早めに医師に相談する必要があります。

外痔核は肛門の外側、開口部にできる痔で、次のような症状が特徴的です。

  • 痔が刺激となり、肛門周辺にかゆみを感じることがあります。
  • 肛門の近くに小さく硬いしこりや塊ができることがあります。
  • 特に座ったり排便時に痛みを感じることが多いです。
  • 肛門周辺が腫れることがあります。
  • 排便時に血が出ることがあります。
  • 肛門周辺に異常な穴ができたり、皮膚が裂ける場合があります。

外痔核の症状は過剰な排便時のいきみや、肛門をこすったり、清掃しすぎることで悪化する場合があります。ただし、多くの場合、外痔核の症状は数日で自然に改善します。

血栓性外痔核とは、外痔核の中に血栓(血のかたまり)ができた状態を指し、次のような症状があります。

  • 動くたびに痛みや違和感を感じることがあります。
  • 血栓が圧力を受けて痔核が破裂することで出血することがあります。
  • 皮膚が刺激を受けてかゆみが生じることがあります。
  • 肛門の周りに腫れや硬い塊ができることがあります。
  • 血栓が溶けた後に皮膚が残り、これがかゆみや刺激を引き起こすことがあります。

 

痔(じ)はなぜ起こるのか?

痔は、肛門や直腸周りの血管に強い圧力がかかることで起こるとされています。主な原因として、慢性的な便秘や排便時のいきみ、長時間座りっぱなしの生活が挙げられます。これらは血流を妨げ、血管が腫れてしまう原因になります。また、妊娠中は赤ちゃんの成長でお腹の中の静脈に圧力がかかるため、痔になりやすくなります。

最近の研究では、痔のある人は排便時に力まなくても肛門周りの筋肉が緊張しやすいことがわかっています。この緊張が、便秘によってさらに悪化し、肛門の血管に余計な圧力をかけることがあるのです。

さらに、遺伝も痔の発生に関係しています。2021年の研究では、痔になりやすさに影響する102種類の遺伝子領域が特定されました。また、2023年には、特に「NOX1」や「NOS3」という遺伝子が痔のリスクに大きく関わっていることが分かっています。加齢も原因の一つで、年を取ると体を支える結合組織が弱くなり、それが痔の膨らみや脱出につながります。他にも、食物繊維が少ない食事や重いものを持つ習慣が痔の原因になることがあります。

また、お腹に強い圧力がかかる以下のような体の不調も、痔を引き起こしたり悪化させたりします。

  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  • 前立腺肥大や尿道の狭さ
  • 卵巣腫瘍や大きな腸の腫瘍
  • 腹水(お腹に水がたまる状態)
  • 肝硬変などの肝臓の病気

さらに、長時間座りっぱなしや立ちっぱなしの状態も、肛門周りの血流を悪くして血管の圧力を高め、痔を悪化させる原因になります。また、重いものを持ち上げる時に息を止める動作なども、一時的に血管内の圧力を急激に上昇させ、痔を引き起こす可能性があります。

痔には他の要因も関係しているが、典型的には肛門直腸部の圧力が上昇して静脈が膨らむことで起こる(大紀元、Shutterstock)

痔には他の要因も関係しているが、典型的には肛門直腸部の圧力が上昇して静脈が膨らむことで起こる(大紀元、Shutterstock)

 

痔にはどんな進行段階があるの?

内痔核(肛門の内側にできる痔)は、次の4つの段階に分けられます:

  • グレード1:痔が腫れてはいるものの、肛門の外に出ていない状態。
  • グレード2:排便時などで強くいきむと痔が肛門の外に出ますが、自然に元に戻る状態。
  • グレード3:いきんだ後に痔が肛門の外に出てしまい、自分の手で押し戻さないと元に戻らない状態。
  • グレード4:痔が常に肛門の外に出ていて、手で押し戻そうとしても戻らない状態。

 

痔になりやすい人ってどんな人?

以下のような要因が、痔のリスクを高めるとされています:

  • 家族歴
  • 座りがちな生活
  • 肥満
  • 高い社会経済的地位
  • 脊髄損傷
  • 直腸の手術
  • 肛門性交
  • 炎症性腸疾患(IBD)
  • 下剤や浣腸の使いすぎ
  • 脱水
  • 年齢:20歳未満で痔になることは少なく、45歳から65歳の間で最も発生しやすいです。
  • 妊娠:特に妊娠後期は約40%の妊婦が痔に悩むと言われています。妊娠中の治療は一般的に控えめに行い、出産後に本格的な治療を行うことが多いです。
  • 出産:分娩時の強いいきみが原因で痔ができることがあります。
  • 慢性的な便秘や下痢
  • 長時間座り続けることや硬い椅子に座ること。例えば、トイレでスマホを使う習慣が原因で、長時間座りっぱなしになることがあります。
  • 低繊維食

 

痔の診断はどうやって行うの?

痔の診断を行う際には、肛門の痛み、出血、かゆみなど、痔と似た症状を引き起こす他の病気との区別が非常に重要です。これらの症状を引き起こす可能性のある病気として、まず「肛門裂傷(切れ痔)」があります。これは、肛門の皮膚が裂けることで痛みや出血を伴う状態です。

次に、「肛門周囲膿瘍」が挙げられます。これは、肛門周辺に膿がたまることで腫れや痛みを引き起こすものです。また、「肛門脱」も考えられ、これは肛門の内側の組織が外に出てしまう状態を指します。さらに、「肛門性交による直腸の炎症」が原因で痛みや出血が起こることもあります。

他にも、「瘻孔(ろうこう)疾患」が挙げられます。これは、肛門周辺に小さなトンネル状の穴ができることで、感染や炎症を引き起こす病気です。最後に、「肛門や直腸のがん」も、痔と似た症状を伴う可能性があるため注意が必要です。

痔を診断するために、医師はまず問診を行い、次に以下のような検査をする場合があります。

身体検査:医師が肛門と直腸を直接観察して、外痔核(肛門の外側にできた痔)を確認します。通常、この検査は「ジャックナイフ体位」と呼ばれる、うつ伏せで腰を90度に曲げ、頭と脚を腰より低い位置にする体勢や、左側を下にして横になる体勢で行います。

直腸診(デジタル直腸検査):医師が手袋をはめた指に潤滑剤をつけ、肛門から指を挿入して直腸内部を調べます。腫れや異常がないかを確認するための検査です。

肛門鏡検査:「肛門鏡」と呼ばれる光のついた筒状の器具を肛門に挿入して、肛門管内(直腸の一番下の部分)の内痔核を観察します。特に「横から見るタイプの肛門鏡」は、内痔核が器具の観察口に飛び出してくるため、痔核の大きさや範囲を詳しく評価するのに適しています。

直腸鏡検査:肛門鏡よりも少し長い「直腸鏡」という器具を使い、肛門から直腸全体を調べます。光がついているため、直腸の全体像を確認できます。

S状結腸鏡検査:短くて柔軟性のある光付きの筒「S状結腸鏡」を肛門から挿入し、大腸の下部(S状結腸)を観察します。この検査では空気を送り込んで腸を膨らませ、内部をより詳しく見られるようにします。この検査は下痢、腹痛、便秘、異常な腫瘍、出血の原因を調べたり、必要に応じて組織を採取(生検)する際にも使用されます。

大腸内視鏡検査:「大腸内視鏡」という長く柔軟性のある光付きのチューブを肛門から挿入し、大腸全体を調べます。この検査では、腫瘍、炎症、潰瘍、出血の原因を特定したり、生検を行うことができます。

バリウム注腸検査:バリウムという液体を直腸チューブを使って大腸内に注入し、その後、腸内を空気(または二酸化炭素)で膨らませます。この状態でX線撮影を行うことで、大腸全体を詳細に観察できる検査です。

 

痔による合併症にはどんなものがあるの?

痔による合併症はまれですが、場合によっては次のような問題が起こることがあります。

  • 出血(出血性痔核):内痔核の主な合併症として挙げられます。
  • 感染症:肛門周りを清潔に保つのが難しくなることで、細菌や真菌による感染が発生することがあります。
  • 貧血:痔による慢性的な出血が原因で、貧血が起こることがあります。
  • 鉄欠乏症:貧血によって体内の鉄分が不足することがあります。
  • 血栓
  • 炎症
  • スキンタッグ(肛門周囲の皮膚の余り)
  • 潰瘍:血栓性の痔核が続くと、潰瘍ができることがあります。これにより痛みが強くなり、治療に時間がかかる場合があります。
  • 便失禁:痔が原因で肛門周りの筋肉がしっかり閉じなくなり、少量の便や粘液が漏れることがあります。

多くの人が「痔は大腸がんの原因になるのでは?」と心配しますが、痔は大腸がんのリスクを高めたり、その発生に関与したりすることはありません。

 

痔の治療法にはどんなものがあるの?

多くの人は痔の症状が長く続いてからようやく治療を求めますが、実際には、内痔核が脱出するような場合でも自然に治ることがあります。ほとんどの痔は、食事内容を改善したり排便習慣を見直すことで対処可能です。手術やその他の治療は、痔が非常に大きくて痛みが強い場合を除き、通常は必要ありません。

1. 食事療法

まず症状がある場合は、食事内容の見直しや便を柔らかくする方法が第一選択肢として推奨されます。
医師は、食物繊維を多く含む食品を摂るようアドバイスすることがよくあります。食物繊維は便を柔らかくし、排便をスムーズにするため、痔の予防や治療に役立ちます。また、十分な水分を摂ることで繊維の効果を高めることができます。水や果汁、透明なスープなどを飲むことで便がかたくなるのを防ぎます。
2020–2025年のアメリカの食事ガイドラインによると、1千キロカロリーあたり14グラムの食物繊維が推奨されています。例えば、2千キロカロリーの食事では、1日あたり28グラムの繊維が目標です。市販の繊維補助食品(サイリウムやメチルセルロースなど)も有効です。必要に応じて、医師に相談して水分摂取量やサプリメントの使い方を調整しましょう。

繊維質を多く含む食品には以下のものがあります。

  • 野菜や果物の皮や種
  • ポップコーン
  • 葉物野菜
  • ナッツ類
  • ドライフルーツ
  • 全粒穀物
  • リンゴやバナナなどの果物
  • オートミール

便秘を引き起こす可能性のある食品には、次のような脂肪分が多く繊維質の少ない食品が含まれます。

  • チーズや乳製品
  • チップス
  • ファストフード
  • アイスクリーム
  • 肉類
  • 加工食品
  • お菓子類

また、以下のような便秘を引き起こす薬やサプリメントを避けたり、医師に相談して代替薬を検討することも重要です。

  • 一部の抗うつ薬
  • アルミニウムやカルシウムを含む制酸薬
  • 抗ヒスタミン薬
  • 一部の鎮痛薬
  • 高血圧治療薬
  • 利尿薬
  • 抗コリン薬や抗痙攣薬
  • 抗てんかん薬
  • パーキンソン病治療薬
  • 鉄分サプリメント

さらに、アルコールやカフェイン飲料(コーヒー、紅茶、コーラなど)は脱水を引き起こすことで便秘を悪化させる可能性があります。ただし、2006年の研究では、唐辛子を使った辛い食事が痔の症状を悪化させるという明確な証拠はないとされています。
 

2. 便を柔らかくする薬やその他の薬

便を柔らかくすることでいきむ必要を減らし、痔のクッション部分が元の正常な状態に戻るのを助ける薬も使用されます。

  • ポリエチレングリコール:浸透圧性下剤として便の水分量を増やし、柔らかくします。
  • ドキュセート:便に水分と脂質を浸透させて柔らかくする作用があります。
  • 鎮痛剤:アセトアミノフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、アスピリンなどが含まれます。
  • 下剤:膨張性下剤は、出血や脱出の症状を改善する効果があり、硬化療法と同程度の効果があるとされています。下剤は「依存性がある」と誤解されがちですが、将来の便秘リスクを増加させることはありません。
  • 局所麻酔薬の軟膏:例として、リドカインを含む軟膏があります。
  • ウィッチヘーゼル湿布:ウィッチヘーゼルは収斂作用と抗炎症作用があり、ネイティブアメリカンの部族では古くから使われてきました。皮膚の炎症やかゆみを和らげるために使用されます。

市販の痔治療薬:クリーム、軟膏、座薬(例:Preparation HやTucks)は、軽度の痛みや腫れ、かゆみを和らげるために使われることがあります。ただし、肛門は乾燥した環境を好むため、これらの製品を使いすぎるとアレルギー反応を引き起こす可能性があります。
 

3. 自宅でできるセルフケア

痔の治療には、日常生活で取り入れられるセルフケアも効果的です。以下は、自宅で実践できる方法です:

  • 適度な運動:毎日20〜30分のウォーキングなどの軽い有酸素運動を行うことで、腸の動きを促進し、便秘を予防します。
  • 健康的な排便習慣:排便のタイミングを逃さず、便意を感じたらすぐにトイレへ行くことが大切です。食後にトイレに行く時間を設け、毎日同じ時間に排便を習慣づけるとよいでしょう。排便時のいきみを減らすため、トイレでの時間を3〜5分以内に抑えるよう心がけ、スマートフォンを持ち込まないようにするのも効果的です。
  • 適切な清潔ケア:排便後は肛門を水や清浄剤で湿らせたトイレットペーパーで優しく拭くか、ベビー用ウェットティッシュを使用しましょう。擦るのではなく、軽く押さえるようにして清潔にします。またはシャワーで洗い流し、ビデを使うのもおすすめです。その後、柔らかいタオルでしっかりと乾かしてください。香料や着色料を含む石鹸の使用は避けましょう。
  • 座浴:「座浴」とは肛門周りをお湯につけて血行を良くし、かゆみや炎症を和らげる方法です。浴槽にぬるめのお湯をため、肛門部分が浸かるように15分ほどつかります。これを1日数回、特に排便後に行うと効果的です。ただし、石鹸やバブルバスなどをお湯に加えないよう注意してください。
  • 冷却パック:腫れや痛みを軽減するため、冷却パックを肛門周りに数分間当てます。これを1日に数回行うと症状が和らぎます。
  • 痔核を押し戻す:肛門から出た痔核は、清潔な手で優しく押し戻すことができます。痔核を外に出したままにすると、血栓ができたり、締め付けられるリスクがあります。
  • 姿勢:痔が悪化しているときは、長時間座りっぱなしや立ちっぱなしを避けましょう。長時間座る必要がある場合は、クッションを使用すると肛門への負担を軽減できます。
  • 衣類の選択:綿素材の下着を着用して通気性を良くし、湿気がたまるのを防ぎましょう。また、ゆったりした服を着ることで肛門周りへの圧力を減らせます。
  • 重い物の持ち上げを避ける:重いものを持ち上げる動作は肛門の血管に圧力をかけ、痔を悪化させる可能性があります。 

4. 医療機関での治療

症状が改善しない場合、医療機関での処置が行われることがあります。

  • ゴム輪結紮術(ゴムバンド療法):内痔核の根元にゴムバンドを巻きつけ、血流を遮断して痔核をしぼませる方法です。痔核は1週間ほどで自然に脱落し、その後傷跡が形成されることで痔核が縮小します。この治療法は、安全でコストパフォーマンスも高いため、一般的に用いられています。
  • 硬化療法:フェノール溶液やその他の硬化剤を痔核に注射し、瘢痕組織を形成して血流を遮断し、痔核を縮小させる方法です。
  • 赤外線凝固療法:赤外線を使用して痔核に熱を与え、瘢痕組織を作って血流を遮断します。脱出を伴わない内痔核や、ゴム輪結紮術が効果を示さなかった場合に適用されます。
  • 電気凝固療法:電気を用いて痔核に熱を加え、瘢痕組織を形成する方法です。
  • 外痔核の切開:血栓を含む外痔核の内容物を除去して痛みを和らげます。この処置は局所麻酔下で行われ、小さな切開を加えて血栓を排出します。
  • 外痔核の切除:血栓を含む外痔核を完全に切除する方法で、迅速に痛みを緩和します。局所麻酔を使用し、傷口は吸収性の糸で縫合されます。
     

5. 入院治療

痔の症状が重く、他の治療法では改善しない場合、病院での外科的治療が必要になることがあります。以下は代表的な入院治療法です。

まず、「痔核切除術(Hemorrhoidectomy)」があります。これは、外痔核や、脱出した内痔核で他の治療法に反応しなかった場合に行われる手術です。この方法では、痔核を切除することで症状を改善します。しかし、手術後には強い痛みや尿閉、便秘が起こることがあるため、この手術は最終手段として実施されることが多いです。

次に、「痔核ホチキス手術(Stapled Hemorrhoidopexy)」があります。この手術では、専用の器具を使用して、脱出した内痔核を肛門内に戻し、余分な痔核組織を切除します。痔核を元の位置に戻すことで症状を緩和しますが、この手術も全身麻酔下で行われるため、比較的重症のケースに限られます。

強い肛門の痛み、直腸出血、特に腹痛、下痢、発熱を伴う場合は、痔以外の重篤な病気が隠れている可能性がありますので、速やかに医師に相談してください。

 

心の持ちようが痔に与える影響とは?

心の持ちようや考え方は、痔の症状やその対処法に大きな影響を与えることがあります。

まず、ストレスや不安は痔の症状を悪化させる可能性があります。ストレスは消化器系のトラブルを引き起こしやすく、便秘や下痢を招くことがあります。その結果、排便時に強くいきむことになり、痔が悪化する原因となります。

一方で、前向きな考え方は痛みの感じ方に影響を与えることが知られています。ポジティブな心の持ち主は、ネガティブな思考や不安を抱えている人に比べて、痛みや不快感を軽減しやすいとされています。

さらに、積極的で前向きな姿勢を持つ人は、医師からのアドバイスや治療法、健康的なライフスタイルの改善提案をきちんと実践する傾向があります。これにより、痔の予防や症状の緩和に効果的な結果をもたらします。

また、心の持ちようは日々の行動にも影響を与えます。意識的で前向きな姿勢を持つことで、長時間座り続けるのを避けたり、適切な体重を維持したりといった健康的な習慣を取り入れやすくなります。これらの習慣は、痔のリスクや症状の重さを軽減するのに役立ちます。

 

痔の自然療法にはどんなものがあるの?

食事の改善やトイレでの習慣を見直すだけでなく、痔の症状を和らげるための自然療法もいくつか存在します。ただし、これらを試す前に医師に相談することをお勧めします。

1. ハーブ療法

  • カモミール:カモミールは抗炎症作用や抗酸化作用、収斂作用があることで知られており、古くからさまざまな疾患の治療に使われてきました。特にローマカモミール製品の軟膏やチンキ剤は、痔による炎症や不快感を和らげる効果が期待されるとされています。
  • セイヨウトチノキ:セイヨウトチノキから抽出される主要成分「エスシン」は、痔や術後の腫れを改善する効果があるとされています。ある研究では、急性痔の患者にエスシンを1日3回40ミリグラム摂取してもらったところ、81.6%の患者が症状の大幅な改善を報告しました。特に出血や腫れの軽減が顕著でした。
  • エンジュ:中国、日本、韓国では、エンジュ(Sophora japonica)の乾燥した花やつぼみが痔の治療に伝統的に使用されています。2013年の研究では、エンジュを含む複数の成分を混合した処方を使用したグループの78.2%が痔の症状が改善したと報告されています。ただし、さらなる研究が必要です。

2. エッセンシャルオイル

  • ミルト:ミルトの精油を含むローションや軟膏は、出血、痛み、かゆみ、肛門の重い感覚などの症状を大幅に軽減するとされています。特に従来の治療法で効果が得られなかった患者に有効とされています。
  • ティーツリーオイル:ティーツリーオイルは殺菌作用と抗炎症作用があり、座浴や局所使用に用いられることがあります。ある研究では、ヒアルロン酸、ティーツリーオイル、メチルスルフォニルメタンを含むジェルを使用した患者が、痛みやかゆみ、出血、炎症の顕著な改善を報告しています。
     

3. 鍼治療

2018年の研究では、内痔核、外痔核、混合痔核の患者76人を対象に24日間の鍼治療を実施したところ、86.5%の患者で症状の改善が見られました。また、術後の痛みを軽減するために電気鍼治療が用いられることもあります。
 

4. プロバイオティクスを含む発酵乳

2015年の研究では、自然分娩後の痔を抱える女性を対象に、乳酸菌(Lactobacillus casei strain Shirota)を含む発酵乳を1日1本摂取してもらいました。その結果、便秘関連の症状が緩和され、痔の回復が早まったことが報告されています。ただし、この研究は規模が小さいため、さらなる検証が必要です。

5. 酵素とヘパリンの軟膏

2002年の研究では、酵素(トリプシンとキモトリプシン)とヘパリンを混ぜたペーストを痔核に塗布したところ、痛みや腫れ、かゆみが大幅に軽減され、排便も楽になったと報告されています。
 

6. TONE法と食物繊維サプリメント

2017年の研究では、進行した痔の患者102人に1日600ミリリットルの水と一緒にサイリウム(オオバコ)を5〜6杯摂取してもらい、TONE法(排便3分以内、1日1回の排便習慣、いきまないこと、十分な繊維摂取)を実践してもらいました。その結果、68.2%の患者が満足と答え、手術を回避した患者も多くいました。
 

7. フラボノイドとサプリメント

2021年の研究では、フラボノイド(植物に含まれる自然成分)とビタミンCなどを含むサプリメントを1週間摂取した患者の89.8%が症状の改善を報告しました。この処方は次の成分で構成されていました:

  • マイクロ化ジオスミン(450mg)
  • センテラ(ツボクサ、300mg)
  • マイクロ化ヘスペリジン(270mg)
  • ブドウの葉(200mg)
  • ビタミンC(160mg)
  • ブルーベリー(160mg)
  • マイクロ化クエルセチン(140mg)
  • マイクロ化ルチン(130mg)

ただし、これらの効果についてはさらなる研究が必要です。

 

痔を予防するにはどうすればいいの?

痔を完全に予防することは難しい場合もありますが、リスクを減らしたり、すでにある痔の悪化を防ぐために以下の方法を試すことができます。

  • 野菜、果物、全粒穀物など、繊維が豊富な食事は便を柔らかくし、排便をスムーズにします。
  • 水やノンアルコール、ノンカフェインの飲み物を毎日たっぷり飲むことで便秘を防ぎます。
  • いきむことを避けることで、肛門周りの血管への負担を軽減します。
  • トイレに長時間座り続けることを避けましょう。
  • 座りっぱなしは血流を悪くし、痔を悪化させる原因になります。
  • 重い物を持つことは肛門への圧力を増加させるため、できるだけ控えましょう。
  • 週に合計2.5時間以上の中程度から高強度の運動を目指しましょう。1日10分以上の短い運動を組み合わせて、1週間の目標を達成するのも効果的です。
  • 体重を適正に保つことで、肛門周りの負担を減らせます。
  • 便秘を予防または改善することが、痔の予防につながります。
  • 排便がスムーズになるよう、医師に相談しながらこれらを活用すると良いでしょう。

(医学的監修:ジミー・アーモンド医学博士)

 

(翻訳編集 華山律)

家庭医学の訓練を受け、救急医として25年以上の経験を持つ。10年以上にわたり、救急医療関連事業のオーナー、社長、および主治医を務めてきた。従来の医学的知識に加えて、ライフスタイル医学、機能医学、その他の補完的および統合的な健康アプローチにも関心を寄せてきた。
健康記事を担当するエポックタイムズ記者。