生活習慣は体のシステムの機能に影響を与え、睡眠は脳が毒素や老廃物を効率的に排出することに影響を与えます。
「グリンパティック系」のデトックス効果は睡眠時に最も機能する
ロチェスター大学の研究者が「神経化学研究」(Neurochemical Research)誌に発表した論文によると、グリンパティック系(glymphatic system)は、一つの老廃物除去システムであり、中枢神経系から可溶性のタンパク質や代謝物を効率的に排出する機能をもっているといいます。
また、出血性・虚血性神経血管疾患や外傷性脳損傷などの変性過程においても重要な役割を担っていることが研究者らによって明らかにされています。
「グリンパティック系」は、起きている間は機能しないが、睡眠中に働き始めます。脳から有害な老廃物を取り除くだけでなく、同時に重要な脳細胞に化合物を送り込む役割も担っています。
この機能は、睡眠障害や睡眠不足があると、加齢とともに低下していきます。米国国立衛生研究所の研究者たちは、たった一晩の不眠が、アルツハイマー病に関連する脳の領域におけるアミロイドβの蓄積を増加させることを発見しました。
その結果、「グリンパティック系」が神経変性疾患の予防や治療のターゲットになる可能性が示唆されました。では、どうすれば「グリンパティック系」の働きをよくすることができるのでしょうか。
グリンパティック系(glymphatic system)機能を向上させる5つのポイント
体内の「グリンパティック系」の効率を上げる方法は、研究により少なくとも以下の5つがあります。
1. 横向きで寝る
2022年5月に「対話」(The Conversation)に掲載された論文で、研究者の一人であるデビッド・ライト氏は、睡眠の姿勢がリンパのクリアランスに影響を与えると述べています。また、過去の研究では、仰向けやうつぶせの姿勢で寝るよりも、横向きの姿勢で寝る方が、リンパの流れが良くなることが分かっています。この効果のメカニズムは不明ですが、ライト氏は、圧縮、重力、組織の伸縮が関係しているのではないかと指摘しています。
しかし、専門家は、横向きで寝ることがすべての人に適しているわけではなく、個人の健康問題を考慮することが重要であり、人によっては仰向けで寝る方が健康に良い場合もあると考えています。アメリカのボストンの整体師で生理学者のピーター・マートン氏は、肩や腰の問題を防ぐために、仰向けに寝ることが重要であると考えています。横向きで寝ると、体がねじれるので、肩や腰の位置が変わると考えているのです。いくらマットレスが柔らかくて深く沈み込んで腰にフィットしていても意味が無い、と語りました。
2. オメガ3系を摂取する
他にも、リンパの働きを良くするために、生活習慣を見直すこともあります。これまでの研究で、オメガ3脂肪酸は、炎症を抑え、細胞膜の流動性や細胞内シグナル伝達を改善することで、神経変性疾患の予防や進行を遅らせるという独自の役割を果たすことが実証されています。
さらにオメガ3脂肪酸は、脳内の間葉系βアミロイド蛋白を除去し、損傷に抵抗するリンパ系にも良い影響を与えることも分かっています。
3. 少量のアルコール
デビッド・ライト氏は、リンパ系に影響を与えるその他の生活習慣の改善も勧めています。動物実験では、少量のアルコールを短期間および長期間摂取すると機能が向上し、反対に中程度または大量に摂取すると逆効果になることが示されているといいます。
4. 運動
加齢は慢性的な炎症によって特徴づけられ、やがて機能障害や認知症につながることが多いのです。これまでの研究で、運動が加齢に伴う認知・記憶力に良い影響を与えることが示されています。
「分子神経科学の最前線」(Frontiers in Molecular Neuroscience)に掲載された2017年の動物実験では、運動が老化したマウスのリンパクリアランスと血液脳関門(神経組織維持のための栄養素を選択的に透過させる)にどのように影響するかを調べました。その結果、車輪の上の自発的な運動は認知症の改善やリンパクリアランスに効果がある上、血液脳関門には影響を与えないことが明らかになっています。
(つづく)
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