11月22日、 金正恩朝鮮労働党総書記が突然、大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の現地指導に娘を伴って現れたことで、娘を後継者と目しているのではないかとの臆測が広がっている。写真は妻と娘を伴ってICBMの発射実験を視察する金正恩氏。KCNAが19日配信(2022年 ロイター)

アングル:金正恩氏の娘は後継者か、男性支配「王朝」の壁も

[ソウル 22日 ロイター] – 金正恩朝鮮労働党総書記が突然、大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の現地指導に娘を伴って現れたことで、娘を後継者と目しているのではないかとの臆測が広がっている。ただ専門家によると、男性が支配する「王朝」の中で女性がトップに上るには、険しい道のりが待ち構えていそうだ。

北朝鮮ではトップが交代する度、指導者不在や、1948年の建国から続く「金王朝」の崩壊が取りざたされてきた。

金正恩氏の娘が父と手をつないで発射実験を視察する様子は、19日に北朝鮮メディアが伝えた。娘の名前は報じていない。金氏が公式に子の存在を確認したのはこれが初めてで、金一族が今後も支配を続けるという明確なメッセージだとアナリストは言う。

娘が後継者なのか、それとも核兵器が子どもを守り、「後世まで受け継がれる記念碑」(国営テレビ)であると国民を説得するためのシンボルに使っただけなのか、判断するのは時期尚早だとアナリストはくぎを刺している。 

北朝鮮の女性指導者についての著書がある韓国のチュン・スジン氏は、北朝鮮エリート層が金氏の娘を支配者として歓迎する可能性はゼロに近いと言う。

「女性リーダーを歓迎する素地は整っていない。金氏は、自分は単にミサイルを発射する残虐な独裁者ではなく、子を愛する父であることを誇示しているだけだ」とスジン氏は語った。

北朝鮮は家父長制が深く根を下ろす社会ではあるが、女性だというだけで金氏の娘やその他の女性が政権を握れないとは言い切れない、との見方もある。

北朝鮮指導部の動静を伝えるノースコリア・リーダーシップ・ウォッチのディレクター、マキエル・マッデン氏は、急な健康上の問題で金氏が統治能力を失ったり死亡したりしない限り、40歳近いと考えられる金氏には後継者を選ぶ時間がたっぷりあると言う。「北朝鮮の政治文化が変化し、女性後継者が生まれる環境が醸成されるのに十分な時間だ」

<女性指導者>

金氏は、妹の金与正氏や崔善姫外相など、複数の強力な女性を重用している。

米シンクタンク、38ノースのレイチェル・ミンヤン・リー氏は「金正恩は祖父や父とは異なる世代に属しており、ある意味で祖先よりも変化に寛容なようだ」と語った。

マッデン氏によると、2013年に金氏一家と過ごしたことのある米プロバスケットボールNBAの元スター選手デニス・ロッドマン氏は、金氏は12、13歳ぐらいの娘が1人いると話したことがある。アナリストらは、子が3人いる可能性もあると考えている。

金氏に息子がいるとすれば、「白頭山の血統」と呼ばれる男性中心の世継ぎにおいて息子の方が依然優位かもしれない、とリー氏は言う。

北朝鮮で女性が上位の役職に就いた例は以前からあった。しかし、先代の金正日氏は何人かの娘や息子を飛び越して正恩氏を後継者に指名した。マッデン氏によると当時、二番目の娘が後継者になるとの臆測が飛び交っていたにもかかわらずだ。

38ノースは2020年の報告書で、北朝鮮で政治指導部への女性参画が増えていることは、必ずしも社会や政治システム全般の変化を意味しないと指摘した。

人権活動家らによると、性的な、もしくは性別に基づく暴力は今も「まん延」しており、コロナ禍による国境閉鎖や制限措置で特につらい目に遭ったのは、労働力の多くを担う女性だった。

韓国ソウルの梨花女子大学で働く脱北者のヒュン・インアエ氏は「北朝鮮では、指導者になる上で性別が今も重要だ」と語った。

<指導者の条件>

2020年に金正恩氏の健康を巡るうわさが広がった時には、子息が十分大きくなるまで妹の金与正氏が代打として王朝を受け継ぐ可能性があるとされた。

30代と考えられる与正氏は、正恩氏の近親者の中で唯一、政治の公職に就いており、韓国に対する強硬路線の指揮を執り、韓国情報機関によると時には事実上、序列2位の司令官として任務に当たることもある。

過去の指導者らの例に倣うなら、子は最高指導者にふさわしいと見なされるまでに教育と職務経験が必要になる。マッデン氏は、正恩氏の娘は約10年後に公職に就けるようになると予想した。

その10年間に娘が経済発展やミサイル・核兵器プログラムと密接に関わるようになれば、北朝鮮の政治・軍事組織は娘を「白頭山の血統」における有望な次世代と位置づける可能性があると、プリンストン公共・国際問題大学院のダーシー・ドロート氏は言う。

「要するにこういうことだ。金王朝の第4世代においては血筋、そして軍事・経済発展面での信頼感の方がジェンダーよりも重視される」

(Josh Smith記者)

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