ロシアのウクライナ侵攻に対する西側の制裁により、ロシアの銀行や多くの企業はドルとユーロの決済網から締め出された。孤立したロシアはアジアの大国、中国から金融面の安全保障を得ようと、急速に「人民元化」を進めている。写真は人民元紙幣。2017年5月撮影(2022年 ロイター/Thomas White)

焦点:ロシアが急速に「人民元化」、中国から金融の安全保障

[モスクワ/上海 29日 ロイター] – 発光ダイオード(LED)照明の企業を営む中国の実業家ワン・ミンさんは今年、ロシア顧客向けの価格設定をドルやユーロではなく人民元でできるようになったことを喜んでいる。自社は為替リスクを抑えられ、顧客は支払いが簡便化する「ウィン・ウィン」の関係だ。

ロシアのウクライナ侵攻に対する西側の制裁により、ロシアの銀行や多くの企業はドルとユーロの決済網から締め出された。孤立したロシアはアジアの大国、中国から金融面の安全保障を得ようと、急速に「人民元化」を進めている。

人民元は何年も前から徐々にロシアに浸透していたが、侵攻以来の9カ月間でその勢いが急加速し、ロシアの市場と貿易決済に大きく広がっている。ロイターによるデータ分析と企業・金融関係者10人への取材で明らかになった。

ワンさんの年商は約2000万ドルで、そのほとんどがアフリカと南米からの売り上げだが、「来年にはロシアが全売上高の10─15%を占めることを期待している」と話す。

ロシアの人民元化は対中貿易を促進する可能性があり、ドルの対抗軸を目指す人民元の立場を強め、西側の経済制裁効果を限定しかねない。

モスクワ取引所のデータをロイターが分析したところ、人民元/ドルの取引高は先月、1日平均約90億元(12億5000万ドル)に達した。以前は1週間で10億元を超えることさえ珍しかった。

モスクワの投資会社カデラス・キャピタルのマネジングディレクター、アンドレイ・アコピアン氏は、外貨を預金している銀行が制裁を受ける危険に触れ、「ドルやユーロ、ポンドなど、伝統的な通貨を預けておくことが突如として非常に危険になったということだ」と説明。「誰もがルーブル、もしくは人民元を筆頭とするその他の通貨に切り替えようと思ったし、そうせざるを得なくなった例もある」と語った。

事実、取引所データによると、10月の人民元/ルーブル取引高は計1850億元と、ロシアが月末近くにウクライナに侵攻した2月の80倍超に膨らんでいる。

モスクワ取引所・外国為替市場部門の幹部、ドミトリー・ピスクロフ氏は、外為市場における人民元のシェアが年初の1%未満から今では40─45%に急拡大したと述べた。

対照的に、ドル/ルーブル取引のシェアは1月の80%超から10月には約40%に下がったことが、取引所と中央銀行のデータで分かる。

<ロシア大企業が元で起債>

国際的な資金フローにも、ロシア国内と同様の傾向が見られる。

国際決済制度SWIFTのデータによると、ロシアは4月まで、中国国外での人民元取扱高(流入・流出の金額)で上位15カ国にすら入っていなかったが、今では4位に急浮上した。

国際的な観点で見ると、9月時点で世界の資金フローの42%をドル、35%をユーロが占めており、依然としてこの2通貨の存在が圧倒的だ。人民元は約2.5%で、2年前の2%未満から拡大した。

ただロイターの集計によると、ロシアではアルミのルーサル、石油のロスネフチなど大企業7社がこれまでに人民元建てで計420億元の債券を発行している。銀行最大手ズベルバンクや石油のガスプロムネフチなども人民元建て起債を検討中だ。

<中銀は利用促進>

ロシアのプーチン大統領は長年ドル依存を減らそうと模索してきたが、今年は地政学という強力なエンジンが加わった。プーチン氏と習近平国家主席は2月に「無制限」の中ロ協力に合意している。この数週間後、ロシアはウクライナに侵攻した。

ロシア中央銀行のアンドレイ・メルニコフ国際協力局・副局長によると、昨年はロシアの対中貿易決済における人民元のシェアは約19%で、ドルは49%だった。今年の数字はまだ公開されていないが、メルニコフ氏によると人民元の割合が拡大している。

ロシア中銀は本記事へのコメントを控えた。

中銀のナビウリナ総裁は今月議会で、人民元の大量流入は「わが国経済の通貨構成の変容」を印象付けたと述べた。

ロシアでは人民元預金が急拡大する一方で人民元建ての貸し出しは始まったばかりで、規制当局はこの不均衡がもたらすリスクについても認識している。中銀は市中銀行に対し、バランスシートにおける人民元の資産・負債バランスの不均衡を是正するため、輸入での人民元支払いや人民元建て証券への投資、中国以外の国々との貿易における人民元の利用を増やすよう促した。

ただ当局は現時点で人民元の利用を制限することは計画していない。むしろ貸倒引当金規制を人民元については緩め、ドルとユーロについては厳格化することで、銀行の人民元利用を促進するかもしれないと、中銀のエリザベータ・ダニロワ金融安定局長は今月の会合で述べた。

(Elena Fabrichnaya記者、 Samuel Shen記者)

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