高度な認知力が必要な作業であれば、静かな環境で行うのが最適です。何故ならば、美しい音楽も含め、あらゆる音が作業の妨げとなり得るからです。ある関連する研究では、被験者にある複雑な作業をさせた場合、無音環境と音楽が流れている環境を比較すると、明らかに無音の方がより良い結果が出ました。

魅力的な音楽ほど、集中力が低下する

『アトランティック（The Atlantic）』誌の特集編集者オールガー・クハザン(Olga Khazan)氏は、近年実施した実験を振り返った後、記事を書きました。1つ目は1980年代の研究で、被験者に自分が好きな音楽を聞く、または何も聞かない状態で、数字を大きい数から順に数えるよう求めました。その結果、激しい音楽を聞いた人の成績が一番悪く、音楽を聞かなかった人の成績が一番良いという結果でした。

他の実験では、歌詞のある曲を聴いたら、言語を使用する作業（例えば、読む、書くなど）を非常に妨害することが示されています。また、バリエーションに富んだ音楽であれば、たとえそれを聞いて楽しんでいても、作業の効率に悪い影響をもたらすことが分かりました。

『音楽を愛する脳』という著書を書いた、神経科学者のダニエル・レヴィティン（Daniel Levitin）氏は、音楽が魅力的であればあるほど、物事に対する集中力は低下すると考えています。

高齢者、内向的な人、多動の子供

高齢者や生まれつき物静かな人にとって、音楽は集中力に大きな影響を与えます。外向的な被験者と内向的な被験者が同時にロック ミュージックを聴いた研究では、内向的な被験者の方が、画像を記憶したり文章を読んだりする能力がより乱れやすいという結果でした。これは多くの外向的な人が、音楽を聴きながら何かをするということに慣れていることに関連していると考えられています。

注意欠如・多動症（ADHD）の子供は例外です。最近、42 人の多動児を対象として行った研究では、「ホワイト ノイズ」が集中力を高めることがわかりました。ホワイトノイズは、雑音の一種で、例えば換気扇やテレビの砂嵐のようなものを指します。

仕事の合間に音楽を聴くと効率が上がる

クハザン氏は、レヴィティン氏に「仕事中に音楽を聴くのがよくないのであれば、なぜ多くの人がそうするのか」と尋ねました。レヴィティン氏の回答は非常に簡単で「人々は音楽を聴くのが好きなため、音楽が邪魔になっていることに気づかないのだ」と答えました。

近年のある小規模な研究では、オフィスの騒音の環境であろうと静かな環境であろうと、音楽を聴くのは仕事の効率化を上げることにはならないが、人は音楽を聴きながら仕事をするのが好きだということが明らかになっています。

音楽を聴くことがメンタルワークに果たす役割を理解したら、音楽を愛好するあなたはどうすればいいのでしょうか。レヴィティン氏の提案は、数時間ごとに休憩を取り、15 分ほど音楽を聴いてから無音の環境に戻って、作業を続けることです。異なる作業をする合間に音楽を聴くと、物事をより順調に進められることが証明されました。